第百七十一話 夜間飛行
ストレージからバングの仮面を
出して説明出来れば速いのだろうが
いかんせん、この部屋では邪魔になるし
隠し持てるサイズじゃない。
ストーレージの説明とかも面倒だ
怪しまれる率も上がってしまう。
「一階の中央の大きな部屋に・・。」
魔導院にも仮面はあった
それを思い出した俺は
そこから切り出す。
「え?あれ魔物の一部なの?!」
案の定見た事があるようだ。
本当に仮面、人工物だと思っていたようだ。
つまり動いているバングを見た事が無い。
北側、クリシアでも発見はされていない
事が窺える。
でも、それもこれまでの話だ。
偽勇者を襲った1型。
北側での事件だ。
「僕はネルド近くの村の出身で・・・。」
バングの襲来で滅びた村
そこでバルバリス聖騎士に保護された。
そういう設定でバングの説明を始めた。
生き物で無い事
大群で問答無用、話し合いも出来ない事。
ドワーフが国を追われバルバリスに
避難してきた事。
「それでドワーフが増えたのね。
てっきりバリエア再建の為の
強制労働に狩られてしまったのだと」
どんだけ悪イメージ定着してんだ教会。
気を取り直して説明を続けた。
バルバリスはバングによる
国家間のバランス崩壊を恐れ
一国単独によるバング壊滅に乗りだした。
そのせいで情報操作による隠蔽
それに伴う過剰な軍備増強
事情を知らない他国の警戒を招いた。
「確かに素直に協力しないでしょうね
むしろバルバリス打倒の千載一遇の好機と
見る武闘派が各国にいるでしょうし。」
「ベレンの軍備が張り子の虎なのは
事実ですよ。今以上の制圧のチャンスは
ないでしょうね。」
これは嘘。
もう俺が焼き払うよ。
悪魔光線が復旧した俺の
登場する前の話ですけどね。
考え込んでいるアリアに
追加説明をしておく
「その代わりベレン打倒の暁には
同時にバング処理の責務を負う事になりますけどね」
「私も仮面を見ていなければ
ヨタ話として打倒バルバリスと
浮かれていたでしょうし・・・
実際にバングに襲われない限り
共闘は無理ね。」
残念そうにアリアは言った。
理想と現実をバランス良く考慮出来る
賢い子だな。
「ドワーフは言うに及ばず
ドーマはもうバングと戦闘してますよ、」
「てっきりクリシアと同じ
表向きの友好かと思っていたわ。」
魔導院の仮面は人工物で
新兵器の部品だと思っていた事
そのテストに魔族が駆り出されていたと
思っていた事も話してくれた。
いつぞやのユークリッドらしからぬ提案は
情報操作の為の攪乱
その一環だったのかな
現にアリアは新兵器と思い込んでいた。
アリアが俺を見る表情が変わった。
警戒していた。
保護対象から変わったようだ。
まぁこんだけ話せばそうなるわな。
「リディ・・・あなたただの実験体じゃないわね。」
「僕は実験体だと自己紹介した覚えはないよ。」
警戒が強まる。
あー
凛々しい表情堪らん。
「そろそろ時間だ。どうせここじゃ
戦闘は出来ないでしょ。
僕が何者なのかは脱出した後で
説明するよ。」
それからはアリアは無言で着替え
着替えって言ってもツナギの下は
もう旅装束だった。
残念だ。
準備済みの少な目の荷物をを
抱えると「行きましょう」とだけ言った。
脱出中も無言だったが漏れて来る感情が
バラエティに富んでいて何とも珍味だ。
俺が罠だと想定して予定とは
別ルートで外に出た。
うん賢い。
ベレン脱出の時と同じように
乳製品を運搬する馬車の荷台に潜り込む。
そういえば、なんでこの会社の馬車は
荷物検査が無いんだろう。
馬車がベレン内の繁華街
人通りの多い箇所で俺達は馬車から
こっそり抜けだした。
今回も俺はこっそり銀貨を駄賃代わりに
わざと一枚落としていく。
ベレンを出て街道を歩く
日も沈み、辺りは暗くなった。
ようやくアリアは口を開いた。
「そろそろいいでしょ。あなた何者なの」
立ち止まり振り返る。
短い旅人用ローブの下では
後ろ手にナイフを手に掛けている。
「まず、お礼を」
俺は丁寧に頭を下げた。
「助け出してくれて
ありがとうございました。
アリアさんみたいな良い人ばっかりなら
世の中もっとイイのにね。」
無警戒にお辞儀をする俺に
緊張感が少し欠け、警戒しながらも
頭を下げ返すアリア。
本当に人がいいな。
「次は謝罪。リディの名前と
出生話は全部嘘です。
僕の・・・・いや俺の本当の名前は」
ここで半魔化して
大気操作を併用し瞬間で
アリアの背後を取った。
耳元で囁く。
「アモンだ。」
返事を待たず
俺はアリアの尻を持ち上げる様に
上空に垂直に打ち上げる。
触った瞬間で例の重力操作も行使したので
花火より速く一直線に空に旅立った。
後を追う様に俺は跳躍し
悪魔男爵に変化すると
落下に切り替わろうとしているアリアを
上手い具合にキャッチ出来た。
アリアを肩に座らせ
腕はアリアの足置き場になるように
執事の様に構え
残った腕で優しくアリアの腕を
角に掴まるように誘導した。
翼は動かさなくても機能は変わらないが
アリアの現状把握、空に居るのがという
理解がしやすくなるように
バッサバッサと音が立つように羽ばたかせた。
「娘。俺は結構お前が気に入ったぞ
お礼に仲間の居る町まで一気に
送ってやろう。」
「・・・・。」
アリアは大パニックになっていた。
上下左右をキョロキョロと見回し
自分に何が起き今どうなっているのか
必死で確認しようとしていた。
「それともこのまま魔界に連れ去って
俺の嫁にしてしまおうか」
ビックリした顔になり
瞬間的に赤面するアリア。
「え?ええ!およおよよ!!」
本当に女性と言う生き物は
どんな状況でも
恋するストレージには余白があるんだな。
『重ーー婚ーーーはーーー犯ー罪ですわー』
久々の幻聴ババァルが喚いていた。
重婚?
断られたから重婚じゃありませーん。
『に二度目のお返事は、まだしていませんわ』
そうだ。
そうだよ。
そいつが聞きたい。
だから、俺はみっともなくも
足掻いているんだ。
「およめおよめさん」
慌てないで
大パニックから立ち直れないアリアに
俺は「冗談だ」と言い
飛行を開始した。
大気操作はわざと不完全にし
進行方向から風を受けるようにした。
これで飛行している事が体感的にも
分かりやすいハズだ。
「・・・・アモン。魔神アモンって
ええええええええええええええええ
きゃああああああああああああああ」
パニックが治まったと思ったら
今度はフィーバーだ。
今までの無口系の雰囲気はどこへやら
すんごいハシャギっぷりだ。
どうしたの。
デビルアイで色々走査して原因が分かった。
荷物の中に見覚えのある絵本を発見したのだ。
「女神に恋した悪魔」だ。
アルコの持ってた本と同じだ。
お前もか
「えー駄目。ダメダメよ。ヴィータと
結ばれなくっちゃダメぇー
えーでも、どうしても私が良いなら」
「いや冗談だから。」
「困る・・・許してムチャブリレ」
「おい、帰って来い」
まぁ年齢的には
これが普通なんだろうな。
どんな半生を歩んで工作員になったのか
詳しくは知らないが
なんかホッとする。
こう居られる方が絶対幸せな世の中だよな。
アリアの暴走は止まらない。
いい加減、行先を教えて欲しかった俺は
子供の数辺りに入ったトコロで
少しだけ落下した。
エアポケットと同じ状態だ。
ほんの少しだけフリーダイブ状態になったアリアは
短い悲鳴を上げる。
フライパンでオムレツをひっくり返すかの様に
アリアを元と同じ場所でキャッチした。
「び・・・ビックリしたわ。」
おお
現実に帰って来てくれた。
「行先を教えてくれないか。」
「どこでもいいわ。私を連れて逃げて」
俺は 連れ の辺りで
もう一回エアポケットをした。
三回目位でようやく行先を教えてくれた。