第百六十九話 受け継がれる光
爆発の煙で良く見えていないにも
関わらず美少女と言ってしまった。
俺の願望のせいです。
でもきっと美少女です。
はい。
走る少女の後ろをついていく俺は
誰に言うとも無くそんな事を考えていた。
半魔化して見てみると
お
工作員レベル13だ。
俺、持って無いクラスだ。
夜でなくても走るんだな。
髪はショートの紺
背も年齢もストレガと同じ位かな
お尻は小さい。
中々の脚力と足音の小ささが
熟練度を感じさせる。
幼い頃から仕込まれた感じだろうな。
服装は研究員のモノとは異なり
出入りの清掃関係か工事関係か
ツナギと呼ばれる作業着だ。
「こっち。」
低い声だが
元は高い声を殺すような感じで低音にしている。
振り返らずに方向を指で指示して来た。
内部の構造を完全に把握出来ているようで
迷う様子は見受けられない。
魔導院の内部は便利さを捨て
わざと迷いやすいような構造になっている。
覚えないと間違い無く迷う作りだ。
これは襲撃される事を前提に
設計されているせいだ。
道順が頭に入っている者ならば
肉体能力の劣る者でも
屈強な侵入者が辿り着く前に退避出来るだろう。
戦闘可能な者なら死角を利用して
いくらでも背後が取れる作りだ。
その魔導院内部を迷わずに
右に左に進んで行く
相当馴れているな。
「止まって」
とある地点で減速する。
後ろを走っている俺を気遣い
急停止はしないでくれた。
言われるままに彼女との距離を
一定にしたまま停止する。
彼女は周囲に人が居ない事を
確認するとトイレに入った。
俺も続くって
女子用じゃないですか
あー
また
また犯罪者に
「入って」
悶える俺に彼女は冷静に言って来た。
俺は悶えるのを中止して
彼女が手招きする場所を確認した。
なんと掃除用具入れがスライドして
床が開いている。
隠し扉だ。
「閉めないと」
「やるから。先に奥に」
短く的確な指示だ。
息も上がっていない。
俺は返事をせずに素早く彼女の横を
這うようにすり抜ける。
紺の前髪を鼻の辺りまで下ろしている。
見えたのは片目だけだ。
地味だが整った顔だ。
やった
これは初の
無口系美少女じゃないか
操作は分かり切っているのか
彼女は素早く扉を閉めると
隙間から伸びたワイヤーを
慎重に引いて行く。
床を擦れる音が聞こえた。
掃除用具入れが
スライドして元の場所に
戻っているのであろう。
それに合わせて隙間から漏れる
光が消えていく
凝った作りだ。
これなら隙間風で隠し通路が
発見される事は無いだろうが
今度は換気が気になる。
デビルアイで確認すると
狭い通路の上に穴があり
それがトイレの排気口に繋がっているのだ。
窒息の心配はしなくてよさそうだ。
「暗くて怖いよね。待っててね」
彼女はいくつも付いたポケットの
中から一本のペンを取り出した。
ペンを捻ると中に仕込んである
光苔の淡い光が狭い通路内を照らした。
見えない設定なのをいいことに
俺は彼女の顔面ギリギリまで接近し
匂いを嗅いでいた。
「きゃっ」
「ごごめん」
「ビックリしたわ。こっちよ」
特に怒らせる事も無く
普通に案内再開だ。
しゃがんだ状態のまま少し進むと
また床扉があり、その下は六畳間位の
空間が確認出来た。
彼女は扉を開けて
俺に先に行くようにジェスチャーした。
俺は素直に従い
その先のハシゴを下りていく
「そこグラつくから気を付けて」
平均的に壁に支柱を打てなかったのだろう
負荷の多い箇所の壁が長年の使用で
削れてガタがきていた。
この高さなら怪しくないだろう
その辺りでジャンプして
床に音を立てないように軟着陸した。
彼女は掃除用具扉と
同じ要領で天井の扉を閉める。
その後、俺より高い位置から
一気に床に着地した。
音も出さない。
俺は音をさせず拍手をした。
「ここなら安全よ。小一時間で
ここを出る馬車があるの
それに潜り込むわ」
「あ・・・あの」
「ふふ色々聞きたい事があるわよね。
いいわ、時間の許す限り答えてあげる。
・・・座って」
俺は部屋を見回し
小ぢんまりとしたテーブルと椅子
その椅子の一つに腰を下ろした。
逃亡中と違い彼女は普通に声を
出していた防音は大丈夫と思われるが
一応聞いておこう。
「声、出しても大丈夫なんですか」
「大声でなければ大丈夫よ」
彼女は椅子に座らず
部屋の片隅で火を使い始めた。
お茶が飲めるのか
俺は部屋を見回すと壁は
道具入れとロッカーで塞がれ
殺風景だ。
なんかバイトの着替え&休憩室っぽい
天井が光る苔で埋められている。
ベッドも無い事から寝泊まりしている部屋では
無い事が窺えた。
「はい。これ飲んで落ち着いて」
手早く二人分のお茶をいれると
彼女はその内の一つを俺の目の前に置いた。
「ありがとうございます」
一口飲む。
うん
ブリッペはやっぱり凄いんだな
でも、今はコレが最高だ。
じっと俺を見つめている彼女
なにやら真剣だ。
なんだなんだ
困惑する振りをしておこう。
「あなたは化け物なんかじゃないわ」
真顔で、そう言って来た。
この俺が化け物?
違う俺は悪魔だ。
・・・違いますよね、絶対。
DBネタなんて振るハズないもんな
あ
俺が叫んだセリフか。
それを聞きつけて飛び込んでくれたんだよな。
「はい。あの・・・名前とか
聞いても平気ですか。」
真剣な表情が一瞬で崩れ笑顔になる彼女。
やっぱり女の子は笑顔がいいなぁ。
「ごめんなさい。そうよね。
私はアリア。クリシアのスパイよ。」
その年で大したモンだ。
いや、逆に警戒が甘くなるってもんかな
どう見ても低所得の労働者だ。
友達はみんな学校に行っているのに
って感じだ。
さて、ここは偽名でイイだろ。
「僕はリックデアス。リディって呼んで」
これも赤いのは動きが速いぞ。
って噂になったらみんな赤い機体に
なーんだよ畜生ふっざけーんなよ
じゃあもっと目立つ色
そして金ピカに
「よろしく。リディ」
「宜しくお願いします。あアリア」
握手の為にさっと手を差し出すアリア。
戸惑いながら恐る恐る出す俺。
どうだ
純情少年っぽくなってるか
アリアの手は硬かった。
様々な工作や格闘をするマルチな手なのだろう
ギガの鍛冶師の手みたいな
専用特有の変形やタコは見受けられなかった。
「あの、スパイなんて言っちゃってイイんですか」
普通、秘密だよね。
「うん。あなた魔導院に連れてこられた
実験体なんでしょ。だったら私たちは
あなたの味方よ。」
実験体
なにそれ怖い。
ここでハンスの話を思い出した。
思考プロテクトとか
危ない事言ってたけな。
「いきなり信じろって言っても
無理だとは思うけど、信じて欲しい。
もし信じられなくて袂を分かつ事になっても
教会に頼るのだけは絶対に止めてね。」
ほほう
掴んでいるのか
「えっどうして・・・」
表向き反目しあっている設定だもんな。
俺は驚く演技をする。
アリアはハァと短いため息だ。
やっぱりか
そう言いたげだ。
「教会と魔導院は裏で繋がっているのよ。」
「なっなんだってー。」
キバヤシー
「本当よ。色々調べたの、これは事実よ
魔導院に目を付けられた以上もう
バルバリスに安全な場所は無いわ」
だろうな。
この隠れ場所自体が
後から付け足す改造じゃない
複雑な構造なのを逆手に取った隠れ場所。
建設時から配下の者を潜り込ませていないと
作れないモノだ。
その頃からクリシアは潜入捜査を
画策していたという事だ。
アリアは続けた。
「丁度、任期が終わってクリシアに戻るの
一緒に連れて行ってあげるわ」
なんてイイ人なんだ。
人数が増えればそれだけ危険が増えるだろうに
これも確認しておくか
「ど、どうして僕を助けるんですか
助けたってアリアさんにメリット無いじゃないですか
やっぱり助ける代わりに何かさせられるんですか僕」
俺の言葉に複雑な表情になるアリア。
流れ込んで来る感情を拾い上げると
損得でしか考えられない人間に対する怒り
まだ子供なのにそんな考えに染まるなんて
この子はどんな目に遭ってきたのだろう哀れみ
私が助けなくてはという焦燥感
うん
至って善人だ。
あんまりエネルギーの補充にならんな。
「あなたは昔の私なの。あなたを見捨てる事は
私が私を見捨てるのと同じなのよ」
ここに来てポエムですか。
「・・・私もね。ちょっと特別な力を持っていてね。
今のあなたと同じような危機があったの
もう、諦めようと思った時に
助けてくれた人がいたの」
ち
中古か
俺の中でアリアに対する興味が
見る見る消えていく
いややや
普通に感謝しよう
「どんな人だったんですか」
成程ね。自分が受けた恩を
その人に返すのでは無く
同じ様に必要としている者を助ける。
善意の無限バケツリレーですね。
親から子へ
子から孫へ、その先へ
未来に受け継がれていく光だ。
人を正しく生きらせる力を持った光だ。
そんな光を持った人だったのだろう
俺はアリアに聞いて見た。
「正体不明の正義の戦士よ
仮面の格闘家ミスタームチャブリレ!!」
「あ、ごめんなさい。その話もういいです」
「えっ?そ・・・そう」
アリアは凄く残念そうだった。
俺は違う意味で残念だった。
Mr.ムチャブリレ・・・一体何者なんだ。




