第百六十七話 眠れる獅子
ミガウィン族の元を発ち
その後はベアーマンパトロールの
拠点に訪れマイザーとキャスタリアの
無事を確認した。
悪い予想通り、同時刻に
不調があったそうなのだが
アルコやミカリンのような大騒ぎでは無く
何となく不調だな位で済んだそうだ。
これは同行している累積時間などの差だろうか
とにかく
俺の回復に合わせて元通りだそうだ。
俺にダメージが入った事への悪影響だ。
それを説明し謝罪し名付効果の解除を
申し出てみたのだが
二人とも笑ってこのままで良いと言った。
良かった。
もしお願いしますと言われたら
焦る。
実は解除方法を知らないのだ。
ドーマに戻ってからは
普通に在庫補充で過ごした。
対戦バングはすっかり周囲の魔族男の子の
流行になっていた。
出発前に居ない間の引き継ぎの為
ストレガが魔導院へ行った。
暇なので着いて行く
あちこちに顔を出した。
マリオはすっかり修練場に入り浸りっきりで
その日も研究室には居なかった。
秘密の部屋のカラクリが変更されていた。
無駄な事を
入ってメモでも残してやろうかと思ったが
ここは武士の情けで
何もしない事にした。
モナは腕を怪我していて
動かしにくそうだった。
回復呪文は施されていて
損傷は治癒されたのだが
なんとなく痛いと言っていた。
念のため俺もデビルアイで走査するが
問題は見受けられなかった。
「そもそも、何で怪我したんだ。」
細胞単位で損傷は見られない
今となってはどこが怪我の箇所なのか
特定出来ない。
「それが・・・分からないんです。」
夜中に突然痛みが走ったそうだ。
もしかしてSっ気のある彼氏でも居て
ちょっとプレイがハッスルしてしまい
正直に話す訳にも行かずなんてフヒヒ
・・・。
いや
モナちゃんはそんな娘じゃ
いや
一見大人しそうに見える娘程フヒヒ
その時俺の左肩に
小さい悪魔の俺が下りて来て囁いた。
悪魔の俺に悪魔が下りて来るとは
「口説いて抱いて見れば分かるだろう
口説くのが面倒臭ければオーラで
気絶させてしまえばうっしっし。」
おお
オーラにそんな使い方が
「待ちなさい!」
今度は反対側の肩に
天使の俺が降りて来た。
「気絶なんてさせたら
反応が楽しめないです。
ここはハンス改変でやった
肉体操作で自由を奪うのです。」
おいー俺は天使も真っ黒なのか
悲しみすら汚れちまいそうだ。
「どうかしましたか。」
考え込んでしまった俺を
覗き込むモナちゃん。
穢れの無い綺麗な瞳が
汚れ切った俺を焼く
「いや、原因不明ってのがな・・・」
咄嗟のクセにうまい俺。
「はい。続くと怖いですけで
それきりですから、きっと大丈夫ですよ。」
「そうか、何か俺に出来る事が
あったら言ってくれ。」
恐縮しまくるモナちゃん。
相変わらず手足がバタバタ動く。
その後は召喚した悪魔には
命令が有効の場合
帰れと命じるだけで魔界に
戻せる事を教えて置く
しないとは思うが
俺の居ない間に召喚実験して
来てしまった場合に
戻さないと召喚者の魔力が尽きてしまう。
モナは力強く頷くと
俺が戻るまでは遺物の捜索に
注力すると言ってくれた。
一階に戻ると忙しそうだった。
あちこちにテキパキ指示を出すストレガ
その元に色々な職員が引っ切り無しに
伺いを立てては撤退していく
んー何か俺邪魔だな。
手持ち無沙汰になってしまった俺は
邪魔にならない様に離れた。
そこで俺と同じように手持ち無沙汰な奴を発見。
クフィールだ。
膝を抱えて座り込んでいる。
俺はからかう様に言ってやった。
「感心だな。役立たずはそうやって
邪魔にならないのが一番だ。」
反撃に応戦する為に身構える俺だが
クフィールは泣き出してしまった。
ありゃーまたか。
グレアの一件から何も学べていない。
どうも俺にはデリカシーとかいうものが
完全に欠落しているようだ。
幸いまだ誰も気が付いてない。
俺は半魔化してクフィールを
お姫様抱っこすると
大気操作と重力制御を駆使して
超高速移動で誰もいない
近くの部屋まで移動した。
「ひゃっ」
やるばかりで
やられた事は無いが
想像するにやられた方は
内臓が浮き上がる感触と
加減速の慣性が働かないせいで
高速で移動したというよりは
周囲の景色だけが目まぐるしく変化した
だけに見えるハズだ。
泣き状態が一瞬で驚きモードに
変化したクフィールは
変な悲鳴を上げていた。
「すまない。冗談のつもりだった」
お子様な見た目で俺を大分軽く見るクフィールには
大人イケメンの冒険者ゼータの方が
話がしやすいだろうと思い
どうせ半魔化するならとこっちに変化したのだが
「あっ・・・いいえ大丈夫です。」
効果は抜群だ。
クフィールはなんか
目キラキラさせてる。
いつもの「~っす」口調じゃなくなってやがる。
やっぱり女ってイケメンが好きなのか。
「あの・・・あの・・・」
なんか目がグルグル状態だ。
話やすいかと思ったのだが
逆に緊張させてしまったか。
俺はチンチクリンに戻った。
「どうしたんだ。らしくないぞ」
「うげぇゼータ・アモン!」
俺はさっきの姿こそが
ゼータ・アモンを名乗っていた頃の
姿な事を説明した。
「あー如何にも所長のお兄様って感じっす
絵になるっすねー。」
やっと普通に戻ってくれたか
「さっきの姿の方がいいか」
そう聞いたが、緊張するから
このままの方が話しやすいと言われた。
複雑な気分だ。
泣いた理由を聞いて見ると
ズバリ、自分の無力感に苛まれていた最中に
俺がトドメを刺したからだそうだ。
「いやー最近マリオも株が急上昇中っす」
直にストレガが指示を出すだけでも
かなり変わるそうだ。
お声の掛からない研究員達からは
嫉妬と羨望の嵐だそうだ。
更には教会やドーマ軍のお偉いさん辺りまで
マリオを訪ねて来る。
役に立ちそうもない
気味の悪い人形研究家
変わり者のレッテルを貼られ
ああはなりたくないと陰で言われていた男が
まさかの大出世だ。
うーん
やっぱりマリオは強いな。
「モナも所長から勅命を受けて
最上階は特別な空間のまま
それに比べると私って・・・。」
「何も無いもんな。」
見る見る溢れていく涙。
あーしまった。
「悔しいけど・・・そうっす」
「勿体ない話だ。」
「?勿体ないっすか」
泣き顔のまま俺を見るクフィール。
「そうだ。特別な才能を持ちながら
なのに本人が気が付いていないのだ。
これじゃ陽の目を見る日は来ないままだ。
これを勿体ないと言わずして
何が勿体ないと言うか。」
「お教えて欲しいっす。
私にどんな才能が!!」
すんごい力で肩を掴まれ
揺さぶられる。
「険しい道のりだぞ。
埋もれている原石がデカければデカいほど
掘り起こすのも
磨くのも
普通じゃない努力が求められる。
こんなにツラいなら
やらなければ良かったっと思うハズだ」
「無力なままで指を咥えているより
よっぽど良いっす。」
クフィールはジャパニーズドゲザーで
懇願しはじめた。
「お願いします。何でもするっす
その才能を磨く方法を教えて欲しいっす!」
決意の篭った声だ。
よっぽどだったのだろう
彼女は必死で本気で言って来た。
誠意には誠意で答える。
俺ルールだ。
俺はこれから逸脱出来ない。
誠意で答えねば
今更嘘ですとは
口が裂けても言えない。
本気で彼女の才能を見つけないと




