第百六十話 黒い太陽
時間の感覚が無い。
あの滅茶苦茶な召喚儀式から
どの位経過したのだろう。
一瞬と言われればそう納得するし
長時間と言われても
そう納得してしまうだろう。
何も無い暗い世界で
俺は正気を取り戻した。
発狂状態だったのだと思う。
今は落ち着いた。
でも
落ち着きたく無かった。
狂った勢いでなければ
臆病者の俺は自分を殺せないのだ。
ババァル
あんなに会いたかった相手を
知らなかったとはいえ
俺はこの手で殺してしまった。
救世主などと持ち上げられ
得意顔で
いい気になって
真綿で首を絞め続けたのだ。
ババァルを酷い目に遭わせた。
その理由だけで
散々理不尽な暴力を各所に行使した
その俺が同じ事
いや
もっとヒドイ
トドメを刺したんだ。
【まーたか】
「はい?誰だ。どこだ」
【もうここまで来ると、間違いあるまい
我とお前は同じコインの表と裏だ。
通常には決して相手える事の無い
存在なのだな。お前が生を諦めた時、存在の力が
弱まった時、恐らくその時にだけ裏と表が
重なる事が可能になるのだろう】
「あのー何を言って・・・・」
まさか
【その、まさか だ】
「嘘だろ」
召喚時に願った。
俺を超え得る存在をだ。
あの人なら間違いなく
俺以上だ。
【呼んでおいてソレか。久しぶりだな地上のアモンよ】
強すぎた為12将の仕組みすら破壊した。
13番目にして最強の魔神。
俺を超え得る存在。
「シンアモンさん!!!」
そう叫ぶと
俺の正面に巨大な黒い太陽が浮かび上がった。
でけぇ
前回は背中側だったけど
正面だとでかい
つか
近いのか
距離感がよく分からん。
【我は少々機嫌が悪いぞ。地上のアモンよ】
う・・・・
ですよね。
瞬間的に喜んだが
それ以上に委縮した。
【最も縁の深い者が召喚されるなら
何故我が一番最初では無いのか】
そこですか。
「いや・・・最初にあみまみがどうこう
仰ってませんでしたっけか
その理屈の通りでは」
【ぬはははは!そうであったな!】
笑うシンアモン
なんかフレアが飛びまくりだ。
前回は俺がベネットに敗北した時
今回は自殺願望に発狂した時
そもそも俺が一番最初に憑依したのも
シンアモンさんが死亡した瞬間だった。
何となく同じコインの表裏説を
信じ・・・たがっている。
あの比類無き強さ
俺も同じだと思いたがっている。
【しかし地上で呼ばなかったのは
流石に賢いな。フルモードの我が
地上で現界すれば何もかも消滅してお終いだ】
確かに
こんな恒星を降ろした日には
なんたらインパクトだろう。
「すいません。偶然です」
俺は正直に話した。
【偶然では無いのだ。お前に偶然など
一つも無い、相変わらず思い込みの激しい男よ】
いやー俺の方が正しいと思いますよ。
【まぁその思い込みのお陰で前回も
今回も話せるのだが・・・で今度はどうした。
何で消滅したのだ】
俺はリスタートから今までの事を
洗いざらい話した。
【だから書いておいたであろう】
アモンサイクロペディアの事か
「え・・・っと、何をですか?」
【苦手なのだと】
ババァルの項目に確かにその一言だけ書いてあった。
でも
それババァルの解説では無く
シンアモンさんの感想だ。
「どうすれば良かったのでしょうか」
苦手だから
ではどうするのだ。
【・・・・】
分かんないんでしょ。
シンアモンさんは大きな咳払いを
一つすると言った。
【オホン!とにかくお前の考えは杞憂だ。
そのバンクとやらとババァルは
全く関係が無いぞ。】
クじゃなくてグです。
後、恒星のクセに咳するんだ。
【オーベルとは会えているのであろう】
「はい。」
そのオーベル自体が捜索しているのだが
【奴が言わぬなら我も黙っているか】
戻ったらとっちめよう
あのフクロウめ。
【我からはこれだけ言って置くか
よいか地上のアモンよ。いずれまた
我とお前は会う事になるが
その時はかなりの大ごとになっている。
その日までは力を蓄えよ。】
「・・・・はい。」
何が起きるのか聞きたかったが
この話し方だと教えてはくれなさそうだ。
【では、さらばだ。行け悪魔人間よ。】
「はい!」
【・・・・。】
「・・・・。」
【召喚者が戻さないと帰れんのだ】
「ああ、すいません。でもやり方知らないんです」
シンアモンさんも知らないようで
その後
すったもんだ二人でアイデアを出し合い
テストした挙句
召喚者の命令で帰還させれば良いだけだった。
さて
じゃあ戻ってババァル捜索と
学園の入学準備だな。
いざ帰ろうと思ったが
ここは
無限に広がる大宇宙
「・・・・どっちから来たんだっけ」