第百五十九話 逃げろ
メカバング起動実験の夜。
俺はガレージで早速改良に取り掛かった。
「痛くも何とも無いでござるよ。」
腕パーツを竹素材に改造した
メカバングの腕鞭を
まともに食らってもダークは
微動だにしなかった。
「ダメージを与えないのが目的なんだ。」
思えば元の世界でも
竹刀なんてモノがあったっけな
最初から思いついていても良かった。
「腕はこれでイイとしても
対魔法防御がなぁ。」
攻撃呪文などの強力な魔力が
接触すると操作系の微弱な魔力の
接続が断線しリセットされてしまう。
槍兵の訓練には問題にならないが
ユークリッドが提案してきた。
「これ・・・訓練に使うのでは無く
実戦投入した方が効果的では」
メカバング
その位強かった。
破壊力を優先するなら
アルミなどでは無く鋼鉄製に
足の鉛もそれに合わせて増量しなきゃだ。
そうなるとモーターのパワーが足りなくなるので
もっと巨大なクリスタルを搭載しなきゃで
ボディが肥大化、更に重量が・・・・
戦車の歴史をなぞる事になるな。
それにしてもユークリッドの発言は意外だ。
戦力の無駄な拡大は混乱を招く
魔法の普及も嫌がっていたのに・・・。
もしかして何か誘いなのか。
あの人の事だ。
有り得そうだ。
重量とパワーソースの肥大化いたちごっこと
対魔法防御の良いアイデアも無い。
魔法防壁を搭載しようものなら
操作も受け付けなくなるのだ。
これを理由に無理だと言っておこう。
訓練用バングがお役御免になったら
腕だけ戻して教会の最深部に
秘密兵器として置いてもらおうか。
「それにしても流石はアモン殿でござる
弱点まで忠実に再現されるとは。」
違うんだけど。
再現を試みたんじゃなくて
偶然、同じになっただけ・・・・。
なのか?
2~4型はメカバングと同じ道具
他の魔力の干渉に影響される。
1型が魔法で作り出した道具なんじゃないか
そう考えれば1型だけが魔法を使うのも納得だ。
1型などと同じシリーズに並べるのに無理がある。
バングと呼称するなら1型のみがバングで
2型以降はバングドールなどと分けた方がいいな。
同じ・・・。
なんだ?
何か引っかかる
考えてはいけない予感がしたがしたが
考えないなんて出来るワケが無い。
考えてしまった。
黒いボディ 暗黒
異空間に存在 魔界にも人間界にも居ない
恐怖を呼び起こす効果 悪感情が悪魔のエネルギー
現れた時期 居なくなった時期
バング ババァル
そうなのか
1型は複数存在する
その親玉はエネルギーを欲していて
異空間に引きこもりつつ
手下の1型を指揮官に
玩具の兵隊を率いて
人間界を蹂躙し恐怖を収集。
「どうか・・・したでござるか」
ダークが何か言っていた気がするが
聞き取れない。
自分の体の外郭が
も凄く遠く感じた。
俺の霊体は急速に収束し
自分の中に落ちていく感覚。
「ど・・・どちらに参られる!アモン殿?」
逃げなきゃ。
俺は焦燥感に支配され
ガレージを飛び出した。
人目の危険性なんかも
頭から消え失せ
悪魔男爵に変化すると
上昇した
ストレガバーナーも駆使して
最速で逃げた。
バングが現れなくなった
もしかして恐怖エネルギーの供給を失い
本当に死んじまったんじゃないか。
俺は
俺が
もしかして
ババァルを殺しちまったんじゃないか。
逃げた。
足元の星はどんどん小さくなっていくのに
俺の中の恐怖と狂気は反比例して
増大していく
こんなに逃げているのに
最速で遠ざかっているのに
逃げられない。
駄目だ
嫌だ
殺してくれ
いつもこうだ
上手く行っていると思い込み
調子に乗っていると必ず失敗している
なんで
いつもこうなる
もうやだ
やってられるか
殺してくれ
「ベネットー!!」
俺を殺す。
そのイメージで浮かんだ。
もう一回頼む
追いつくかな
どこまで飛んで行ったんだ。
俺はどこまでもどこまでも
加速した。
加速出来ているはずなのに
まるでそんな気がしない
比較対象が無い。
地下道を4人で歩いた時を思い出す。
あの時は暗闇なんて怖くも何ともなかった
むしろ楽しかったなぁ
みんな居たしな。
「ベネットー!」
来ないなら
何か呼ぶか
命令が効くなら殺してもらえばいいし
効かない相手なら問答無用で殺しに来る
どっちに転んでも大丈夫だ。
俺頭イイ
細部は滅茶苦茶
俺は自分を構成している
金属粒子で召喚陣を形成すると
呪文に入った。
物凄い凄い集中力だった。
後先考えずに力をつぎ込んだ。
召喚陣は回転を始めるが
虹どころか光りもしなかった。
ただ失敗では無い
黒く輝く
変な表現だが
鋭く刺さる様な勢いで黒は伸び
周囲の星々の光すら
飲み込むようだった。
俺もそれに飲み込まれた。