第百五十三話 戦え超合金バング
俺には居る居ないが全く分からない。
悪魔男爵のままダークに尋ねた。
「どうして逃げたって分かるんだ。」
ついつい後ろを振り返ってしまう。
「言葉で説明は難しいでござるなぁ
殺気、気配など複合的な要因から
分かるでござるよ。
元々ああいう戦い方は拙者の
専売特許でござった。」
初めてダークを見た時
対峙していたヨハンは全方位を警戒していた。
影から影へ姿を隠し
奇襲を仕掛けてくるダークに
ヨハンは防戦一方だったな。
「次に襲われた時に初手を防げるか。」
「難しいでござる。襲う方は
隙を待つでござるからな。」
取り合えず危機が去ったのは有難い。
対策を考える時間が出来たのだ。
あのまま戦闘を続けて
こちらが勝利出来たかどうか
正直、微妙だろう。
「ところでアモン殿はどうしてここへ」
聞かれて思い出すがダークは
痛い目に既に逢っている。
お仕置きは可哀想だ。
「バングの誘導の件でな
お前を叱ろうと思って探してた。」
ダークは跪いて畏まると謝罪を始めた。
「その件に関しては申し訳ないでござる。
1型と遭遇し雑魚の誘導どころでは
無くなってしまったでござる。
チャンスを頂けるなら、後日改めて
誘導をする所存にござるが・・・。」
ん
何か変だな。
「誘導してないのか」
「・・・空振りになったのでお怒りでは」
俺は百数十体に及ぶ大漁バング襲来の話をした。
「それは拙者の仕業ではないでござる。」
「・・・そうか。」
考えてみればダークの性格からして
嫌がらせやイタズラは考えにくい。
「いや、逆の立場だったら俺は絶対
そういうことするから、ついな。」
自分がそうだからといって
相手もそうだとは限らないな。
「確かに、如何にもアモン殿の所業っぽいでござるが
拙者は命令には誠心誠意当たるでござるよ。」
心外だと言わんばかりにダークは
ちょっと怒って言った。
「もしかして、俺が仮面取って来いって
言ったせいで今回も苦戦しちまったのか。」
出来ればと言っておいたのだが
その、出来ればがダークの場合
一命を賭してもと捉え兼ねない
「最初は仮面を取るつもりだったでござるが
恥ずかしながら途中からはそんな事
言ってられなくなったでござる。」
「そんなに強いのか」
「引っ張り出してからの強さは
未確認でござるが、頑なにあの戦法に
拘った所を見ると、あの技抜きでは
大した事無い可能性が高いでござる。」
そう思わせておいて実は
と言うパターンもある。
石橋を叩くのにも人にやらせる
用心深い奴はいるだろう。
「アモン殿。提案がござる」
考え込む俺にダークがそう言って来た。
俺はどうぞと仕草で促した。
「ここは捜索を中断して拙者を
影に常に待機させる方が安全にござるよ。」
確かに先程の影からのクナイ
これが唯一のダメージだっただろう。
「万が一、アモン殿が討たれてしまえば
地上での捜索はどうせ
出来なくなってしまうでござるからな。」
召喚者がやられた場合は
強制的に戻ってしまうようだ。
「頼めるか。恥ずかしいが
アレどうやって相手していいのか
全く思いつかん。」
ダークは快諾した。
そして珍しく笑いながら答えた。
「いやいや、あの光線乱れ撃ちは
相手もどうして良いのか対策が無かったので
ござろう。それで撤退を選んだのでござるよ。」
確かに
出た瞬間、偶然でも光線が飛んで来れば
洒落にならないだろう。
「そうなのか。でも何か
刃物を振り回すキチガイみたいで
カッコ悪いよな。」
俺の言葉に楽しそうに笑うダーク。
そんなに面白いか。
「恰好を気にする余裕があるとは流石にござる。」
ダークを影に収納しドーマの自宅に戻った。
一度ミガウィンに行ってビルジバイツと
話をしたかったが、すっかり深夜だ。
日を改める事にした。
郊外の小高い丘の大岩に穴が開けてあり
地下道でドーマ自宅まで繋がっている。
これを利用すれば速い。
ストレガと違って悪魔の姿で
ドーマ市内を飛べば大騒ぎになるだろう
かといって人目の付かない場所から
歩いていたのでは時間が勿体ない
そして何より面倒くさい。
1型対策も大事だが
今の俺には急ぎで片づけねば
ならん事があるのだ。
「今300セット目でござるよ。」
丁度、無償で手伝ってくれるバイトも
手に入ったのだ。
俺は一気に部品を生成しては
ジャラジャラと机の上に並べていく
それをダークは組立てていく
1人でよるより何倍も速く
櫛セットが出来上がっていく
ダークは手先が器用なだけでなく
組み立て動作も異様に速い
説明も要らないくらい
構造を見抜いてくれる。
見本を一個置いただけで
瞬時に把握し
淀みない動作でじゃんじゃん組み上げていく
そう言えば忍術も
仕掛けのある手品だった。
ダークは当然その仕込みもやるのだ。
その仕掛けに比べれば
単純極まりない商品だろう。
速くしろと煽るつもりが
次の部品はまだでござるかと
煽られてしまった。
くそう
・・・
いや、これは良い事だ。
「これでしばらくは持つかな。」
朝飯までまだ時間がある。
どうするか
ダーク工場の予想以上の生産力は
想定外だった。
新規で作るには時間が足りない。
つか
アイデアが無い。
金型を想像してもらえれば分かりやすい。
俺の金属操作も新規よりも
一度作成した事の有る物の方が
圧倒的に楽で速いのだ。
そうだ
設計図があって
売れそうなのが一個あるじゃないか
そいつを量産してしまえ
「次はコレを組み立ててくれ」
俺はストレージから
超合金バング2型を取り出して
机の上に置いた。
「なっコレは!!」
やたらと驚くダークに
俺は魔導院で見せた様に
動かして見せた。
「なんと奇怪なカラクリ人形でござるか」
これは改良も考案済みなのだ。
まず手袋を止めて
クリスタルをはめ込んだ指輪
これをコントローラにする。
金属の指輪なら一発成型だ。
縫ったりするより全然速い
複雑な動作は省き
前進、後退、左右転回と腕鞭
動作はコレだけに限定した。
これなら誰でも直ぐに扱えるだろう。
腕鞭使用後の転倒対策は
脚部は鉛を上半身その他はアルミと
極端な低重心にした。
軽い金属にしたせいで
腕鞭の威力が落ちるが
遊びで使うのだから
破壊力は低い方が良いだろう。
これなら型はそのまま
金属の種類を変えるだけなので
設計変更しなくて済む。
取り合えず二体作成して
ダークと対戦してみた。
相手を転倒させたら勝ちだ。
「むおぉおおおお悔しいでござる」
設計したのは俺だ。
どういうバランスで出来上がっているのか
理解している分、俺が有利だった。
最初は楽勝だったが
ダークとて格闘のプロ。
直ぐに理解してあっという間に
俺と互角になってきた。
「やるじゃないか」
「格闘で負けるワケにはいかないでござる」
真剣だよ。
それにしても
世界の危機そっちのけで
魔神二人が一体何をしているのだろうか。