第百五十二話 1型遭遇
ヨハンの所でバカ話をした後
もう一つの用事の為にネルドを発った。
ダークにお仕置きをしないといけない。
あんな馬鹿げた数寄越しやがって
腕の一本ぐらい引っこ抜いて
泣かしてやる。
前回、遭遇した高山の辺りから
気配を探るが見つからなかった。
あの野郎
俺が怒ると想像して隠れやがったな。
見つからないぞ。
元々隠密に長けた奴なので
本気で隠れられると
見つからない。
ここでナナイの自害未遂を思い出した
召喚した悪魔には何らかの強制力が
あるようだった。
考えるよりも
メニューを見た方が速いか
俺はメニューを開き
色々めくっていくと
あった。
召喚で別枠になっていた。
ダークの項目を弄ってMAPに
場所を表示する事に成功した。
「ふふふ、僕から逃げようたって
無駄だよ。だって地球は丸いだもん。」
俺は呑気に歌いながら飛行した。
ダークの位置はこの高山より
かなり東だった。
位置的には降臨の岩山の
頂上を越えて魔側にあたる
岩山の斜面だ。
「随分、進みやがったな。」
まぁそれだけ広範囲を捜索してくれている
という事だ。
真面目な奴だしババァルの忠臣だからな。
それにしてもここまで
一切、地上にバングが居なかった。
これ当分ネルド安泰じゃないか。
適当数間引けって言ったのに
片っ端から俺の所に送ったろコレ。
見つけた
さぁーっていきなりぶっ飛ばしてやろうかな
と思ったが
とても出来ない状態だった。
引っこ抜こうと思っていた
ダークの片腕は既に無かったのだ。
レベル90のダークがあのザマだ。
悪魔男爵完全開放。
俺は内圧を上げ最大戦速で
一気にダークの所に急いだ。
「ダーク!!」
「アモン殿・・・丁度良いでござる。
もう少しでご所望のモノを入手出来るで
ござる・・よ。今しばらく下がって
お待ちく・・・。」
ダークはボロボロだった。
デビルアイで走査してみると
悪魔力が底を尽きそうだ。
腕の再生はモチロン
他の破損個所の修復もままならない恰好だ。
「阿呆!!俺の影に避難しろって」
「だ・・・大丈夫でござるよ。」
嘘付け
ああもう
これだから真面目な奴は
ダークはご所望のモノと言った。
これはつまり
ダークの相手は1型って事だ。
言っても聞かないなら
【影に入って回復を優先せよ】
これでどうだ。
「か・・・忝いでござる・・・。」
地表付近まで降下すると
俺の影は人が入れる位の大きさになった。
ダークは素早く影に入った。
「ぉおわ。」
よっぽど余裕がないのだろう
初めて入った時より雑だった。
完全膝カックン耐性、その他の感知系を
フル稼働させて着地する。
誰も居ない。
だがダークは完全に戦闘態勢だった。
敵は居るハズなのだ。
俺は足の指を延長して影の中に伸ばす。
「急いで補給しろ。」
影の中は外からは分からないが
影の中に入ったダークが
指に接触して来たのは感じた。
俺は悪魔力を込める。
乾いたスポンジに水を垂らしているかの様に
出すソバから吸い取られていった。
「1型なんだろ・・・どこだ。」
「必ず後ろでござる!」
ダークの言葉とほぼ同時に
影からクナイが放たれた。
クナイは俺の背後直ぐ近くを
垂直方向に飛ぶ
振り返らなくても感知系で認識は出来るのだが
習慣か、戦闘に便利だからなのか
正面に捉えようとするモノだ。
俺はダークのセリフを疑う事無く
背後を正面にするべくターンした。
脳内センサーが反応すると同時に
そいつは現れた。
これが舞台なら背景の絵を破って
舞台の裏から顔出したような恰好だ。
攻撃の為に乗り出したそいつは
先程まで俺の首があった辺りに
カマのような腕を振るう。
ダークはもう馴れたモノなのか
タイミングはバッチリだった。
クナイはドンピシャでそいつを捉えた。
鎌腕に命中して突き刺さる。
「グゥ!!」
ひるんだ。
俺はそいつ目掛けて
拳を繰り出すが
空振りになった。
命中する前に背景は元に戻った。
「参ったなこりゃ。」
時空系になるのだろう。
物理的にここに常駐しない。
なのでセンサー系が反応するのは
攻撃のためにこの空間に表れてからだ。
攻撃と同時の警報なんて邪魔なだけだ。
呪文はモチロン悪魔光線も間に合わない。
最速の反撃の物理攻撃も空ぶった。
「ダーク。出て来るタイミングは
どうやって測っているんだ。」
「勘でござる。」
「聞くんじゃ無かった。」
俺はいつでも撃てるように
臨界状態で悪魔光線をキープしようと試みた。
タイミングだけダークに教えてもらい。
振り返り様叩き込む為だ。
が、ダメだった。
臨界点まで達した悪魔光線は
即座に発射されてしまった。
「後ろだと言ったでござるよ。
それにタイミングも合っていないでござる。」
分かってるよ。
うるせぇな。
キープ失敗の発射なんだよ。
「くっそう!これでどうだー!」
俺は一定のリズムにならないように
出来るだけタイミングをバラバラ
にしてチャージしては反転し発射を
繰り返した。
取り合えず思いついた手がそれだけだ。
なんとも情けないが
これしかない。
「オラオラァ!出てこいやーコラァ」
つかお願い
出て来て。
「ビビってんのかぁワレェ!!」
俺です。
ビビってます。
相手が異次元に隠れた状態だと
どうにもならん。
何か有効な手段を思いつかねば
と発射を繰り返しながらも
考えるが、何も思い浮かばない。
「アモン殿、もう良いでござるよ。」
影の中からダークの声がした。
まるで緊張感の無い声に
危険がもう無いと理解した
俺はチャージを停止した。
影の中からダークがゆっくり出て来た。
入った時とは違い
破損個所の無く
忍装束も新品だ。
衣装も含めた実体なのだ。
ダークはゆっくりと周囲を観察すると
肩を落として言った。
「逃げられたでござる。」