第百四十七話 悪魔光線
「最悪、俺が戻るまで持てばイイ。」
そう呟くストレガにユークリッドは尋ねた。
「何ですかソレは」
嬉しそうな笑顔で答えるストレガ。
「以前、お兄様がそう言ってくれたんです。」
「あなただけではありませんね。
我々教会側も同じですよ。」
アモンカーに乗り込んでいくユー
乗り込まずに戦況を注視し始めるストレガ。
悪魔耳で聞き取った二人の会話だ。
地響きと、たまに打ち出される砲弾。
狙いが正確が故、正面に土壁を出すだけで良い。
勝手に防ぐ恰好になる。
見渡す程の幅で土煙りを上げ
黒く歪む死神の列が
猛全と向かって来ている。
不意にナリ君が話しかけて来た。
「マスター。良い笑顔ですよ」
ん
笑っているのか俺は
「そう言うナリ君こそ楽しそうだ。」
「フッ、そうではなく本当に愉快です。
・・・で策は?」
策?
「無い、防御は俺を信じろ
ナリ君は射程に入ったら尽きるまで
ぶっ放せ、狙うは速い奴から
その次にデカい奴、大勢いるのは
後ろに溢して良い。尽きるそばから
俺が補充する。気絶するまで撃て
・・・・開始直前」
「策、あるじゃないですか。
イエス・マスター。」
飛んでくる砲弾の数だけ
土壁を並べる。
一発で一枚
壁は粉砕されるが含まれる魔力で
砲弾も消滅する。
なんて好都合な
こっちの攻撃の邪魔にならない。
「戦闘開始!!」
「漆黒の」
「あ今回それ無しで、急ぎで撃って。」
不満そうな顔で指示に従ってくれるナリ君は
雷撃を連発し始めた。
一回撃つ度に宝剣を派手に回すので
当たらない位置から雷撃の邪魔にならず
砲弾を確実に防ぐタイミングで壁を作り続ける。
もう音ゲーベリーハード状態だ。
破壊され巻きあがる土壁が作り出す土砂の雲を
円形にくり抜いて雷撃は走る。
その度に派手に吹き飛ばされながら
バラバラになって消えるバング。
「「おぉ!!」」
背後のモヒカン軍団の感嘆の声が聞こえる。
ナリ君のMPゲージが尽きる前に
魔力譲渡を切らさない。
俺はともかく
ナリ君がどこまで持ってくれるか
これが勝負の分かれ目に
「悪い子はいねぇえがああああ!!」
もうかよ。
でも大したもんだ。
3型は全滅
4型も残り一体だ。
二枚抜きとかしてたもんな。
「はいナリ君は休憩。」
「いやだぁオラまだいげるがぁ」
「ストレガー!!ナリ君を回収」
俺は山田君に座布団を取りに来させるかのように
ストレガに向かって大声を張り上げた。
「ちょまっ」
後方から迫るジェット音。
俺はナリ君の襟首を掴んで
軽く上に放ると
ストレガがナイスキャッチで
方向転換して戻って行く。
「ノオオオォォォ・・・」
なんかトンビに餌あげているみたいだ。
俺は注錫をナリ君宜しく振り回すと
バングの集団目がけ疾走した。
重力操作を併用した異常な速度だ。
タイミングを見計らい呪文に入った。
最前列だけ当たる様にスパイクを
並べると直ぐ後ろのバングは止まったが
その後続の勢いに押され自ら
スパイクに刺さりに行く。
俺はエスカレーターの事故を思い出していた。
やった
纏まって止まってくれるなら
こんな美味しい餌は無い。
集団の中に特攻すると
手あたり次第スパイクを連発。
縦横無尽に駆け巡りながら
目に入る2型を倒していく
4型が射程に入った所でファイアボールを
数発打ち込んで仕留めた。
少し調子に乗っていた。
そこでMP管理を怠った事に気が付いた。
ヤバい、興奮でマインドダウンの兆候に
気が付いていないかもしれない。
慌ててメニューを開き確認する。
全然、減っていない・・・。
その隙を狙っていたわけでは無いのだろうが
2型が数体、跳躍しながら鞭腕を振るって来た。
魔法が間に合わない。
当たる。
ええい、もういいや
俺は瞬時に悪魔男爵に変化し
鞭腕を受ける。
ダメージを覚悟したのだが
全くダメージは入らず
千切れた鞭腕が回転しながら飛んで
端から煙化しているのが見えた。
悪魔男爵固いわ。
前回ベアーマンの爪を受けた時を
思い出した。
これ回避も防御も要らんな。
続くバングの攻撃を当たるに任せ
俺は周囲を確認する。
まだ
ちょっと多いかな
間引くか
俺は悪魔光線を試みる事にした。
良く見渡せる様に跳躍
適当な所で滞空した。
さて
怒り
推理でも無いし
勘でも無い
散々ぶっ放して来た前回の
感触を思い出して
俺の力
エネルギー
存在を
高圧縮させ
破壊したいモノをその目に据える。
薙ぎ払う
周囲に満たされていた興奮の感情が
一瞬で恐怖に塗り替えられるのを感じた。
多分、前回の最低値6000度だと思う
まぁ、これでも直撃に耐えられる物体は無い。
一際、大きく地面が唸り
水たまりに走る波紋のように
大地が苦痛に身をよじった。
合わせて登って行く逆オーロラ。
遅れて燃焼を開始する様々な物質。
炎の壁が出来上がった。
裂けるだけでは許されず
イオン化、プラズマ化し
物体として最後の音を伝える大気。
空気の断末魔だ。
これでも空間を斬らないだけ
まだ勇者よりマシなんだぜ
感謝しろよ。
見境なく壊すだけの
公平で横暴な悪魔の光だ。
悪魔光線だ。
俺は半魔化して変な匂いに包まれた
大地に着地した。
残りのバングは数体だ。
はぁ
これでやっと本当の目的
武具のテストが出来る。
「アルコ、ミカリン!!」
何、ボーッっと突っ立っているんだ。
俺はそう声を張り上げ
攻撃を支持した。
我を取り戻した二人は
弾かれた様にバングに突進していく。
武具の効果は確認された。
良かった良かった
さっさと帰って商品を補充せねばな。