第百四十六話 真面目な人の欠点
快活に笑うミガウィン族のボス
ブレンボは笑顔で俺に言って来た。
「金物屋かぁ金物って言っても
色々だが試しに何を売ってるだぁ。
鍋か?やかんか?」
ここでブレンボは指を鳴らす。
「笑え。」
ブレンボの合図で爆笑するモブ親衛隊。
良く訓練されているようだ。
「試しも何も、もう見てるでしょ。
どんだけ頑丈かも分かってるだろ。」
笑顔が凍り付くブレンボ。
背後左右のそびえ立つ壁を見やる。
「そういやぁお前ぇが出したんだっけな。」
本当は鉄壁、売って無いけどね。
只者でない事は伝わったようだ。
危なかった。
モブが笑った瞬間ストレガが
すんごい怖い顔になってた。
間に合って良かった。
話合う為に切り離したんだ
ぬっ殺されてしまっては
無駄骨になってしまう。
ストレガが殺さない内に話をつけてしまおう
俺は歩み寄って話し出した。
「先ずは断りなく領地に入った事を謝る
これは詫びの品だ。」
ネルドで多く見かけたドワーフ戦士。
それ用に試作した真鉄製の斧を
ストレージから出して差し出す。
3mにも及ぶ鉄斧をクソガキが
片手で持っている。
半魔化、悪魔男爵の腕力ならでは
光景だが中身を知らない人には
見た目に奇妙だ。
慎重に受け取ろうとするブレンボ。
警戒は解いていない様子だ。
「重いぞ。」
こんなクソガキが片手で渡すのに
そんな事を言う。
俺のアドバイスを聞かず
ブレンボは片手で受け取った。
「離すぞ。」
その瞬間、斧は地面に落ち
バウンドもしなかった。
引っ張られてお辞儀する恰好になるブレンボ。
俺はワザと勘違いしてお辞儀し返した。
「これはご丁寧に」
ガッチリ両手で持ち
何とか掲げるブレンボ。
人族では怪力と言っていい。
「なな中々威力の有りそうな斧じゃねえか」
プルプル震えながらブレンボはそう言った。
そうしてから斧を垂直に地面に立てた。
傾けるなよ
一気に行くぞソレ。
「話を聞いて欲しい、ここに来た目的なんだが」
お前らがバングに襲われる。
それを助けに来てやった。
簡単に言うとそう説明したのだが
ミガウィン族はバングを知らなかった。
大笑いされてしまった。
「だから報告例が無いと・・・。」
ユークリッドも渋い表情だ。
しかし、彼等も笑って居られない状況になった。
これだけ分厚い鉄だと
殆ど音を通さない。
震えないのだ。
しかし、上を越して空からの音は聞こえる。
そうして壁越しの音が空から聞こえる。
大勢の人間の悲鳴だ。
恐怖の感情が流れ込んで来た。
量は凄いがあまり美味くない。
文明レベルというか民度が
ミガウィン族はやっぱり低いのだろう。
「アモン!」
ミカリンが真顔だ。
アルコの鎧が不自然に蠢く
中で毛を逆立てたのだ。
「来たな。」
ナイスタイミングだ。
良くやったぞダーク。
「見てみます。」
すかさずストレガが壁の上まで上昇し
前方を確認すると
八の字の描く様に滞空し始める。
シュォォン
そんな音を立てて空を弾丸が通り過ぎて行った。
3型が居るのだ。
ストレガは馴れたモノで
回避行動を取ったのだ。
余裕すら感じる。
現にその通りなのだろう
鉄壁に逃げ込まず
どうも数を数えているみたいだ。
やっと数え終わったのか降りて来た。
やっと?
「3型が20、4型が10、2型は多数です!」
珍しく切羽詰まった表情で
ストレガがそう報告した。
ダークの報告にあった比率で考えると
「2は凡そ100体ってトコか」
俺のセリフに驚いてストレガは同意した。
「は、はい!その位だと思います。」
爆発音と共に
砂粒や泥の一部が鉄壁を越えて
降り注いできた。
「な・・・何が起こってんだ。」
ドシャ
そう狼狽えるブレンボの足元に
壁の外にいた同胞の死体が落ちて来た。
「ヒィィイイ」
「あばばばばば」
凄いな。
この高さを越える程吹っ飛ぶとは
「バングだよ。見てみるかい」
俺はブレンボの隣に立つと土壁を発動させると
一瞬で俺達は鉄壁の高さに並ぶ。
「おわあああああ」
突然の地面の隆起
いきなり高所に連れてこられた
ブレンボは慌てて四つん這いになった。
いい対応だ。
立ち眩みで落下されても困る。
「見ろ。」
努めて冷静に言った。
あまりの数の多さに俺もビックリしている。
「なななンんだ、何なんだ・・。」
初めて見るバングに恐怖に怯えるブレンボ。
一体でも怖いだろうに
あんな大群なんてかわいそうにな
慣れているストレガがあの様子だと
この規模は一大事なんじゃないか。
つか
ダーク!
適当数って言ったろ
間引けって言ったろ
ナニコレ
どうやって集めたの
良くこれだけの数を誘導出来たね。
お前、今度生まれ変わるなら
絶対、牧羊犬が向いているよ!!
なんて事を思っていると
3型の砲身がこっちを向いたのを
確認した。
「あ、ヤベ。」
俺は咄嗟にブレンボの首根っこを
掴んで土壁から飛び降りた。
着地する頃にさっきまで居た場所を
弾丸が通って行く。
前も思ったけど3型の
狙い優秀なんだよな。
手にした物の重力操作は
まだ未開放だった為
変なバランスになってしまった。
翼を出す訳にもいかないので
腕力で強引になんとか抱えて着地だった。
結構な衝撃がいってしまったようで
ブレンボはうずくまって激しく咳き込む。
「ボスゥウ」
「何が起きてるんですかぁあ」
ブレンボを介抱しつつも
泣き言MAXなモブ二人。
咳が治まっても冷や汗は止まらない
信じられない様子だが
聞こえる悲鳴と地面を伝う衝撃が
嫌でも現実逃避を阻んでいるようだった。
「で話の続きだ。俺達の申し出を
断るなら大人しく帰るけど
・・・・勝てそう?」
俺は例の気持ち悪い笑顔で
ブレンボにそう尋ねた。
速く決めろ。
やるにも逃げるにも
肉迫されてからではキツいのだ。
「助けて下さい!!」
そう叫ぶと指を鳴らすブレンボ
「「助けてください!!」」
すかさず叫ぶモブ二人。
本当に良く訓練されているな。
「仲間を壁の後ろに誘導しな!!」
俺はブレンボ達にそう叫ぶと
中央の壁を解除した。
米袋に穴でも空いたかのように
一斉になだれ込んで来るミガウィン族。
「記録に無い規模です」
ユークリッドの表情から普段の余裕が消えていた。
「お兄様・・・あれだけの大群では」
やはりストレガも経験していない軍団なのだろう
自身の戦力と差し引いて考えて
倒しきれないと判断しているようだ。
だが、今までとは違うのだぞ。
「王!!出るぞ」
「イエス、マスター。」
背中の宝剣をカッコよく回しながら抜くナリ君。
既に宝剣は幾つもの雷を纏っている。
気合十分だ。
「ミカリンとアルコはこの位置で
零れたのを仕留めろ」
「OK」
「はいマスター!!」
ミカリンの装備を魔法使い用に変えた。
アルコは兜の面を下ろす。
「ユーさんは車にストレガはその護衛。
状況によっては逃げるからねー」
「そうさせて頂きますよぉ」
「お兄様、私も出ます」
ストレガはそう申し出るが
俺は理由を言った。
「状況によっては逃げる。
その時に息切れしていない者が必要だ。
俺とナリ君が敵に背中を向けている間
全力フォローしてくれ頼む」
「わ分かりました・・・。」
ちょっと意地悪だが
ストレガの性格上断れない言い方だった。
つか
ずっと戦って来たんだろ
少しは任せろ
真面目な奴の欠点
もう駄目なのに「大丈夫」と言って無理する所
倒れる直前までそう言う。
そうなる前に
そういう時は不真面目な奴に
仕事を押し付けて良いのだ。
彼等は普段まだ大丈夫なのに「もうダメ」と
言ってHP満タンにしてるんだから。
本人達に決めさぜず
それを上手く采配出来る上司は有能。
どっちも上の命令だからと納得しやすい。




