第百三十八話 ケンちゃん
元雑貨屋は石造りの3階建てで
一階部に店、奥は居間と水回り。
上は普通の部屋だった。
商品は当たり前だが既に無く
棚だけになった店内を通過して
奥の居間に向かった。
「お帰りなさい・・・ですよねぇ」
奥でユークリッドがくつろいでいた。
「ユー何で居るんだ。」
誰か居るとは思っていなかったので
半ば本気で驚いた。
「何でとはヒドいですねぇ
引っ越しの総指揮は私が執ったんですよ」
読んでいた本を片手でパタンと閉じると
ユーは笑顔で憤慨した。
「引っ越し先での指揮はしないのか」
「出て行ってもらう事が重要だったので
行った先でどうなろうが、あまり
いえ、関心に無いですねぇ」
責任感があるんだか無いんだか
良く分からない人だ。
「っと、どうかされましたか」
アルコとミカリンに抱えられるように
入室してきたグレアを見て
ユーも表情を変えた。
グレアを座らせる為に俺は
椅子を引き、手早く状況を説明した。
「そうですか・・・わー暗殺されてしまう。」
人の話をどう解釈したのか
おどけるユークリッド。
俺は真顔で釘を刺した。
「それはヒドいぞユー。」
背中に刺さるアルコとミカリンの
冷たい視線が痛い。
とにかく全員、ダイニングテーブルの
椅子に腰かけ、グレアを落ち着かせると
やがてグレアは事情を話し出した。
ナリ君先走り勘違い暗殺未遂を
そのままグレアはWスパイと言う事にして
やり過ごすつもりだったのだが
やはり、どこからか暗殺未遂の噂と
スパイと言うワードが変な風に広まってしまい
グレアは職場で腫れ物になったそうだ。
「関わらない方が良い」これが完全に定着してしまい
毎日が針の筵だと言っていた。
「そうだったのか。思惑通り上手く行かなくて
辛い目に遭わせちまったな。ゴメン」
素直に頭を下げる俺。
ゲッペと涙の抱擁で、全部上手く行くと
思い込み、その後のケアを完全に失念していた。
顔を横に振り恐縮するグレア。
その様子を見てミカリンは
打って変わってキツい事を言った。
「アモンが謝るのはどうなのかな
処刑されててもおかしく無い状況から
クビが繋がったんだからさぁ。
その後の自分の居場所ぐらい
自分で何とかしないと」
まぁ正論だ。
しかし、これにはアルコが反論した。
「誰しもミカリン程、強くはありません。
逃げ出さず、誰にも頼る事無く
彼女は一人で頑張っていたのだと
私はそう思いますが。」
そう正論だが強者の弁だ。
「そんな中でアモンの無神経な
一言で決壊しちゃったワケだ。」
くう
流れたのを戻すなブリッペ。
「アモンさん。冗談でも言っていい事と
悪い事がありますよぉ。」
ユーお前さっき何て言った。
だがユーの表情はパッと見は真顔だが
含み笑いを堪えている顔だ。
キレる
大袈裟に謝る。
うーん、謝っておこう。
「ボメンっんねグレアちゃん!」
俺は椅子にすわっているので誠意の
あまり無さげな土下座で大声を出した。
その後はグレアの今後の身の振り方に
ついての話になった。
ユークリッドは教会の力でベレンに
職と住居を準備させるとまで言ってくれたが
グレア自身がドーマ在住を希望した。
ただ今の政府関係の職場には
もう居たくないとの弁だ。
「丁度良い。じゃあ、ここで住み込みで店長やるかい」
俺はそう提案した。
今ちょっと見ただけだが
店部分が勿体ない。
作り変えるにしても特に案は無い
部屋も余ってるぐらいだ。
「何屋さんやるの?」
ミカリンがそう聞いて来た。
「はい。突然ですが、三半機関緊急会議ーっ
何屋をやろうかなーです。
みんなの希望を言ってね。
ただし洗濯屋だけは最初から除外です。」
俺の言葉にアルコが突っ込む。
「どうして洗濯屋はダメなのですか」
「駄目って言ったら駄目なの」
ケンちゃんシリーズに入れてしまってはいけないのだ。
「ハイ。スタート」
アルコの追撃を許さず
強引にスタートする俺。
「ハイハーイ」
「はい。ミカリン」
大きな声で手を挙げるミカリン。
実は来たるべき学園生活の為に
こういう形式を施行させているのだ。
「アモン・カーを売ればいいんじゃないかな
アレは他に売ってない品物だよ。
バロードでの反応見る限り
絶対に儲かるよね。」
バロードでは成金ゾンビが群がって来たっけな
冒険者協会の紋章つけてもあの状態だった。
「動かすのに土系魔法の投石、それも
結構な魔力が居るので現在、動かせるのは
俺しかいませーん。」
他に無い商品。
着眼点は良い。
「アモン付きで売れば」
「主様を売っぱらうなー泣くぞ
ダメーはい次ー。」
「はい。」
「はい。アルコ君」
「本屋がいいです。」
本好きだもんねアルコ。
「一日中読んでいられるなんて夢のようです。
最新刊もわざわざ買いに行かなくても」
「売るんだよ。読んでどうすんだ。
アルコ君が駄目になってしまいそうなので
却下でーす。はい次」
お
珍しく膨れるアルコ
年相応でカワイイ。
「はぁーい」
「ブリッペ君。ハイは短くハッキリと」
「えー」
えーじゃないが
「喫茶店とかぁお洒落な感じでぇ」
「おーイイねぇブリッペの料理なら
そんじょそこらのシェフじゃ
立ち討ち出来ないだろうからな」
マジでブリッペは料理が上手い。
ナイスアイデアだと思ったのだが
ユークリッドから突っ込みが入った。
「教会前なので飲食店は許可が出ませんよ」
確かに
ウナギのかば焼きの良いニオイが
漂う中で神聖な祈りは不可能だ。
教会の営業妨害もイイ所だな。
その後も色々案がでたのだが
いずれ俺とミカリンとアルコは
学園の寮に入ってしまう事と
グレア自身の技量や
販売可能な商品知識などから
難航し最終的に決まったのは
「雑貨屋に決定します。」




