第百三十六話 お願いマリオ
「お断りだ!僕の研究を兵器に使用するなんて」
芝居がかった身振りでマリオはそう言った。
うん
大分、自分に酔ってるな。
ネルドから帰還後
昼飯を食った俺は猛烈な眠気に襲われ
そのまま自室に戻るとバタンQだった。
目覚めたのは次の日の朝だ。
夜をまるまる一回やり過ごした。
何か損した気分だ。
そのまま朝飯と朝風呂と優雅に
過ごしているとストレガが迎賓館を訪れ
頼まれるまま魔導院に来た。
頼みはマリオの説得だ。
「戦争の道具にはしない!僕は
人殺しの為に頑張って来たんじゃあない」
マリオは劇団に入れるレベルだ。
「だから、人に使用する戦争では無く
バングを討ち滅ぼし平和を取り戻すための」
ストレガの説得を遮る様にマリオは
言っ・・・もう歌だな。
謳った。
「嘘だ。始めはそうかも知れない
でもバング問題が片付いた後は
必ず戦争に使われてしまう。
院長。あなただって分かっているハズだ。」
両手で自分を抱きしめる様にして
フルフル震えるマリオ。
「魔導院をクビ?ああすればいい
僕を殺す?ああすればいい
人殺しになるよりよっぽどマシさぁ」
拍手・・・は、まだ早いかな。
「・・・お兄様。」
困り果てたストレガが
助けを求める様に俺に振り返る。
「説得は任せろと言ってくださったのに
先程から何もしてくれないじゃないですか
ずっと同じ本棚の前に立ってるだけで・・・。」
何もしてない?
馬鹿め
もう始まっているんだよ。
そう
この本棚は隠し部屋への扉なのだ。
そしてそこに安置されているのは
一体の人形。
ストレガそっくりの人形だ。
初めてここに訪れた時に
デビルアイで発見した。
その時よりもグレードアップした
今の俺のデビルアイで
もう、扉のギミックも解析済みだ。
「・・・・本棚。」
ギクリとした様子で演技を中断して
俺を見るマリオ。
おうおう
すんごい焦りの悪感情が流れて来た。
こんなモノを内緒で作るぐらいだ。
マリオのストレガに対する感情は
好きなどと言う一般的に許容される
微笑ましいレベルじゃない。
あの大袈裟な演技もストレガに
対する自分アッピールだ。
下心も満載なんじゃないか
恐らくゴネるだけゴネて
「いう事を聞いてくれるなら・・・私」
とか、そんな展開を期待しているんだろ。
分かる
分かるぞ変態め
何故、分かるのか
それは俺も変態だからだ。
変態を理解出来るのは変態だけだ。
「クビにも死刑にもしないよ。
それじゃ楽しめないからね。」
俺は例の気持ち悪い笑顔でそう言った。
「ぜゼータ君。どういう事かな?」
分かるもんか
分かるはずがない
そう思っているようだな。
「機械式稼働部品の強度考察・・・・
木材の特徴・・・・ニスの種類と歴史。」
俺は本棚に収まっている
本のタイトルを指さしながら
大き目の声で言った。
「・・・面白そうでは無い本ですね。」
ストレガが興味無さ気に言った。
そこが大事なんだ。
面白そうな本だったら
間違って偶然に他人が手に取る可能性が出て来る。
ストレガの冷めた表情とは好対照に
真っ赤になっていくマリオ。
そう
この順番で本を取ると
禁断の扉が開いてしまうのだ。
デビルアイで解析済みだ。
その先に安置されている人形が
そのままなのも
当然、確認済みだ。
このガキ・・・知っている!
確信してくれた様子だ。
俺は気持ちの悪い笑顔のまま
追い打ちを掛けた。
「良く出来ていると思うよ。
なんなら今ここでオリジナルと
並べて見て・・・。」
俺のセリフを遮る様にマリオは
大声でストレガに言った。
「人類の平和の為に僕の研究を捧げます」
はい終了。
「へっ?」
訳が分からないストレガ。
キョトンとしている。
なんか俺を睨むマリオ
鞭だけじゃなく飴もあげないとな
俺はポケットからクリスタルを出すと
目の前で魔力を込めた。
たちまちクリスタルは光り出し
俺はクリスタルを机の上に置いた。
俺が手を離しても光りが
納まる様子は見られない。
「「これは?!」」
ストレガとマリオが驚きの声を上げる。
この二人ならこの意味がすぐ分かるだろう。
「魔力蓄積問題の解決第一歩だ。」
インクルージョン
不純物としてミスリルを内包したクリスタルだ。
かつての様にミスリル精製にはまだレベルが
足りないが、ミスリルを探知する事は
悪魔男爵でも可能だった。
ヨハンのミスリル在庫切れの話を聞いたので
バング討伐ついでにドルワルド領内を
知らベていて発見したのだ。
ストレージにごっそり仕舞ってあるのだ。
クリスタルは元々、魔力と相性が良いのだが
通りが良すぎて実は蓄積には向いていない。
しかし内包する不純物で一変する。
魔力を増加させたり変質させたり様々だ。
従来の色付きクリスタルでも蓄積はするが
量的には乏しい量しか保てなかったが
これがミスリルを内包したこのクリスタルなら
今までとは比べ物にならない蓄積量になってくれた。
「見た事無いクリスタルだ。何て言うんだい?」
マリオがそう聞いて来た。
「俺も知らん。ドルワルド領内で見つけただけだ」
魔法と相性が悪く
金属に特化したドワーフには
魅力のある素材では無かったのだろうか
もしかしたら名前が無いかもしれない。
「まぁ、調べて新種だったら
適当に名前つければいいんじゃないか」
不意にストレガが叫ぶ
「ブラザークリスタル!!」
俺は速攻返事した。
「駄目だ。」
不意にマリオが叫ぶ
「ストレガの瞳!」
ストレガが速攻返事した。
「却下です。」
そこからやいのやいの
クリスタルの名付で揉めた。
てか新種って決まったのか?
「もう、お兄様が付けてください」
「そうだね、発見者だし」
二人に言われてちょっと考える俺。
「こいつは間違いなく国を救うクリスタルに
なってくれる・・・・クリスタルの王だ。
・・・・キング・クリスタルだ。」
果てしない夢を追い続けよう。