第百三十四話 ババァル救助隊
流石はプライドの権化達だった。
腹は減ってないなどと言っていたが
いざ出して見ると食う食う。
その体にそんなに入るのかと思う程
食いやがった。
俺も結構、食べる方だが
常識の範疇だ。
マンガ並みのこいつらの前では
可愛くなってしまう。
アルコ用のスパイクリカオンの肉は
在庫豊富な上、最近アルコと行動を
あまり共にしていないせいで
余りまくっている。
俺は気前よくバンバン出してやった。
「地上のアモンどの、火を
通していない肉などはありませんかな」
そうだよな。
野生の猛禽類だもんな
生肉がいいのか
「確かあったハズだな。」
火を通していない肉も
ストレージに入れて置いた。
オーベルにはそれを出してやる。
「おぉお、感謝しますじゃ」
初見の時の偉そうな態度は
スッカリ消え失せていた。
食い物の力はスゴイ。
勢いが収まって来た頃を見計らって
紅茶もどきを出してやる。
ビルジバイツは子供の肉体だ。
甘い方がよかろうと思い。
ジャム入りにしてやった。
大正解だった。
「なんだ、このお茶は・・・。」
ただでさえ大きい目を更に見開いて
驚くビルジバイツ。
俺はお替りと菓子も出してやる。
オーベルは冷水の方が良いと言うので
飲みやすい様に小皿に入れて出した。
ようやく落ち着いたので
俺は話しを切り出した。
「魔王が来てるってことは降臨なのか」
だとしたら今回のゲートは
しょぼいもイイ所だ。
二人合わせても下級悪魔以下のコストだ。
「いいや。ならば、もう少しましな体で来ますじゃ」
だろうな
しかし、そうなると次の疑問が出て来る。
「降臨でないのに何で来たんだ。」
「ふむ、全ては妾が原因なのじゃ」
魔王自ら語り出そうとしたが
俺は手で制して
口の周りのジャムを拭いてやる。
「ぬぉ、済まぬ。この体は色々と至らぬな。」
魔王は今回の目的を話し出した。
百年以上前の降臨の際
城の地下に封印されてしまい
魔界へ帰れなくなってしまったビルジバイツ。
2~3百年の行方不明など日常茶飯事
誰も捜索しようとしなかった。
それどころか滅んだという憶測さえ
まかり通ってしまいそうだった。
そんな中、忠臣であるオーベル。
予言の力を持っている為、
苦しみ続けている主を確信し
前回の降臨の際、全てを犠牲にして
単身ビルジバイツ救出に注力した。
降臨のゲートに頼らず現界
これなら降臨前に仕込みを行い
降臨後も行動が可能だ。
しかしそれだと高位の者は現界出来ない。
オーベルはそこを矮小な虫
寄生虫になる事でクリアし
宿主を変えて人の社会に
潜り込み様々な準備を進めていった。
ゲカイが遭遇したのも
オーベルが準備した替え玉だ。
不在の間に色々と代行させた。
降臨時、オーベルはバルバリス政府の
役人オウベルとして当時、皇太子だった
エロルに同行し
天使のチャージ攻撃の巻き添えを回避した。
チャージ攻撃で壊滅した首都の知らせで
エロルは急ぎ帰国、腹心の配下だったオーベルも
それに同行し帰国。
神側も悪魔側もいなくなったエラシア大陸で
悠々と活動を開始するつもりだったが
人間側の勇者とその一行の妨害に遭う。
なんとか救出して魔界に帰ってめでたしだった。
「妾を救い出した事には深い感謝をしておる
しかし、それせいで多大な迷惑を
各所に掛けた。それは許されん」
魔界で自意識を取り戻したビルジバイツ。
回復の最中に経緯を知り激怒した。
いや、原因が怒るなよ。
しかし、俺の激怒も
その多大な迷惑に巻き込まれた側だからか
そうでない無関係な状態で
この事を聞いたら
俺はきっとオーベルに好意を持った。
全てを敵に回すその覚悟
単独で実行しきった執念と実力
大いに感銘を受ける。
アモンに憑依するログインでなく
オウベルの部下かなんかだったら
喜んで協力していただろう。
歩けるまで回復したビルジバイツは
魔界における報告と謝罪を開始した。
「行く先々でゲンコツですじゃ」
かわいそうに
暴力はいかんな
俺なんかゲンコツなんてした事ない。
先程の俺の激オコ最中に言った
ビルジバイツの「言った通り」とは
地上にも、謝罪が必要な者がいる
そう言う事らしい。
「そんな中、耳にしたのが・・・。」
ババァルの行方不明。
「妾は救い出されたが、これではまるで
ババァル様が身代わりになってしもうた
そう思ったのじゃ」
百年以上も不断で責め苦を味わい続けた。
「あの苦しみをババァル様が
味わされているのかと思うと
もう、居ても立っても居られん」
次回の降臨に名乗り出る事を
オーベルは勧めたが
ビルジバイツはガンとして
今行く事を譲らなかった。
結果、下級悪魔が通過出来る
通常ゲートでの現界に至ったという訳だ。
「オーベルは何で鳥なんだ」
通常ゲート一人分を二人で
通過出来うる個体となると人以下の
動物で随行するしかなかったそうだ。
「前回、これに捕食された所から
スタートでの、肉体を熟知している
動物ですじゃ。」
そうか寄生虫で降りて来たんだっけな。
「なんとしてもババァル様を見つけ出し
速くお助けせねば。」
「ははぁ主様。」
気概は立派だ。
「で、なんで死にかけていたの」
現実は気持ちだけではどうにもならない。
「なんかぁトゲの生えたぁ犬みたいなのが
襲い掛かって来てぇ・・・。」
おいビルジバイツ。
何で言い訳の時だけ
見た目相応の話し方になる。
「ワシのぉこの体でぇ使える呪文はぁ
少なくてぇ恐怖の呪文をぉ
使ったんだけどぉ逆に怒っちゃってぇ」
オーベルさん。
マジで気持ち悪いので
そこは付き合わないで下さい。
お願いだから普通に話して
「で、あのザマか」
頷く少女とフクロウ。
「おいおい、それじゃ探すドコロじゃないだろ
最低限の保身もままならない
護衛を何で連れてこないんだ」
奢り高ぶるフクロウ。
「全てを敵に回す覚悟で本当に
全て敵に回ってしまったのじゃ」
「バカモノー」
フクロウにゲンコツを落とす少女。
オーベル・・・目覚まし時計みたいだぞ。
「上からじゃなく、頭下げて頼んだのか」
出会い頭の鷹揚な態度で回っていたら
誰も助けんぞ。
聞いて見ると案の定だった。
あらあら
しかし、このフクロウ
魔神13将、計のオーベルだ。
何か策があるに違いない。
俺はそう聞いて見たが。
「はっはは。主様が愛おしすぎてのぉ」
駄目だ。
現役時代はキレ者と名を馳せたが
孫の前では只のおじいちゃんパターンだ。
頭を抱える俺に
今度はオーベルの方から質問が来た。
「謝罪案行中に感じたのじゃが・・・
地上のアモン様はシンアモン様に
一体どんな魔法をつかったのですじゃ」
オリジナルのアモンは魔界に戻ってから
自らを「シンアモン」と名乗り
名前だけでなく人柄も豹変したそうだ。
「形ある物を壊し、命ある者を殺め
その勢いと力で伝統、王家の支配体制まで
壊しに掛かった最凶の破壊者だった
あのアモンが
弱者に耳を傾け、喜んで話を聞いておる」
地上のアモン
俺の事をそう呼び、共に過ごした日々を
愛おしく語っているそうだ。
「王政側には救世主ですぞ。」
暴力による革命を止め
今は弱者の代表として王家を回り
意見交換をしているそうだ。
普通なら追い返すが
折角、機嫌が良い魔獣を怒らせたくない
王家側もシンアモンを受け入れ
地道で粘り強い話合いが定番化し
双方の勘違いを表面化して
下らない制度はどんどん廃止しているそうだ。
「って言われても、俺が会話したのは
ごく僅かだしなぁ・・・。」
ベネットに敗北し生を放棄した事で
肉体の支配権が揺らぎ、ようやく
魔界に帰れず俺の中でずっと引っかかっていた。
シンアモンと会話が出来たのだ。
俺の方はごく僅かだったが
シンアモンさんのほうは洞窟から
ずっと俺の中で俺の行動を見ていたんだよな。
・・・・。
かなり恥ずかしい事もいっぱいあった。
一体どんな風に俺の事を思っているのか
こっちが聞きたい。
「シンアモン様にも言われたのじゃ
地上のアモンを訪ねろと」
魔界から丸投げですか。
成程、策というならそれが策だったのか
さて困ったぞ。
ババァルの捜索救助となれば
協力してやりたいが
今の俺には外せない用事
学園に入学してハーレム構成員をみつくろ
いやややや
んん
バングから世界を守るという使命がある。
俺が行けないなら他に誰か頼むしかない。
ダークが適任だが
呼びに行ってる間にも
これじゃまた何かに襲われて
死に掛けそうだ。
他に呼んでみるか。
「俺がついて行ければ
それが最善なんだが生憎
俺は俺で外せない要件が山積みでな」
あからさまにガッカリする二人。
慌てて話を続ける俺。
「なので、替わりを呼ぼう」
「呼ぶ・・・召喚ですな。
成程、それならば魔界のゲートと
違い、こちらの力で開きますな
下等より上位の者も
呼び出せる事が可能」
器用にも翼の先をクチバシの下に当て
うんうんと頷くオーベル。
「今やっちゃおうか」
俺は席を立つと
モナの召喚陣を地面に描き上げた。
そしてダークの時と同様に
魔法陣の中に立つ。
ダークの次に俺に縁の深い悪魔が
来てくれるハズだ。
理想はベネットだな。
ババァルを崇拝し実力もある。
この要件なら喜んで協力してくれるだろう。
「来いよ。ベネット」
俺はそう独り言を呟くと
召喚の呪文に入った。