第百三十三話 魔王再び
そのセリフを最後に再び突っ伏す少女。
「ああ主様ーっ!」
慌てるフクロウは俺の方に
振り返ると偉そうに命令した。
「何をしとる早うせんか」
腹立たしいが、自分から治療を名乗り出た手前
止めるとは言いづらい。
からかって遊ぶ程、時間の余裕もない。
俺は治療を開始する事にした。
さて、相手が悪魔となると
魔核が生きている内に悪魔力を
補充してやるか、美味しい恐怖に
周囲が満たされればOKだ。
受肉でなければ相手の魔核に
直に接触して流し込めるが
受肉の場合はそれが肉体のトドメに
なりかねない。
これは前回のゲカイと同じパターンだ。
「任せろ。」
俺は人化するとズボンを降ろし始めた。
「なな・・・何をしとるんじゃ?」
俺は悪魔力の補充の仕組みを説明した。
「と言うワケで粘膜の接触が必須なんだ。」
「そんな事は知っとるわい」
なんだ知ってんのか。
「知ってるなら自分で出来るだろ」
「この生き物の粘膜ってドコじゃ?」
鳥の粘膜・・・ドコなんだろう
クチバシは違うだろう、他にも
あるんだろうが羽毛に覆われていて
どっちみち接触は難しいか。
「どの道ワシの保有している魔力では
全然、足らん焼石に水じゃ」
「結局、俺がやるしかないだろう」
俺は脱いだズボンカッコよく放るが
絵的には最高にカッコ悪い状態だ。
「コラコラコラ!貴様まさか
生殖器同士の結合を試みる気か」
俺は返事の替わりに例の気持ち悪い笑顔で答えた。
「鬼畜か貴様は!主様の肉体は
性交渉に答えられる程、成長されておらん。
仮に成熟されていても
そんな事ワシが許さん。」
ワシと名乗るフクロウか。
「先っぽだけでなんとか」
ここまで言って思い出した
今の俺は術式前の状態だ。
ハッとなって
パンツを引っ張って一物を確認する。
粘膜は強固な表皮にガッチリガードされていた。
一緒に覗き込んでそれを確認するフクロウ。
「まぁ、その・・・大丈夫じゃ
大人になればきっと」
慰められた。
俺はベソをかきながら
放り投げたズボンを探して穿く
風で結構飛んでいた。
急いで戻って普通に唇からの
補給を済ませる。
傷は見る見る回復を始め
少女は意識を取り戻した。
「ようやった。褒めて遣わすぞ」
「くぅー小僧、羨ましいのじゃ。」
「あ、はい。」
なんかもう帰りたい。
そんな俺の気を知らず
フクロウは俺の周りをトコトコと
歩いて観察して言った。
「貴様、何者じゃ。ワシの知らん爵位級とは・・・。」
「何者って、どんだけそっちが偉いのか知らんが
先に名乗ってもイイんじゃないのか
さっきから失礼の連発だぞ。
地位と品位が見合ってないようだな。」
俺の言葉に怒り出すフクロウ。
「この無礼者が!」
「待て爺!!」
興奮するフクロウを少女が制した。
「そやつの言う通りぞ。失礼したな
名乗らせてもらおう。」
すっくと立ち上がり偉そうに腕を組む少女。
「爺。」
「はっ。控え控え控えぃ
ここに在わす方をどなたと心得る。」
名乗るのも偉そうだな。
しょうがないので控えた。
フクロウは続ける。
「魔王家が一人ビルジバイツ様なるぞ。
ええい頭が高い、控えおろぅ。」
「はっはっはっ!!」
フクロウの紹介に合わせ
高笑いするビルジバイツ。
「ははーっ」
俺は時代劇の乗りそのまま付き合った。
ビルジバイツ。
なんか最近聞いた気がする。
なんだっけな
「で、鳥の方は」
俺はビルジバイツに爺と呼ばれている
フクロウに聞いた。
「ふふ、まぁこの姿では分からんのも
道理じゃい。ワシはビルジバイツ様に
代々お仕えさせて頂いておる。
魔神13将が1人、計のオーベルじゃ
どうじゃ恐れ入ったか。」
オーベル。
その一言でスイッチが入った。
無意識に悪魔男爵に変化すると
制限無しでオーラを放出させた。
ヘリでも着地するかの如く
周囲の草木は激しく揺れる。
オーラは球体状バリアを形成し
紫電がその輪郭を高速で泳ぎ回った。
「お前よくもババァル暗殺とか
企んでくれたな。四大天使の次に
ぶっ殺す予定だったんだ。
ふふ、すんげぇ時間経ったのに
怒りって治まらないのな。」
「ひっ何じゃ何じゃ?!」
「あわわわわホレ爺見ろ見ろ妾の言うたとおりだ。」
さっき渡したパワーが恐怖になって
帰って来た。
魔王ビルジバイツ
13将オーベル
普通に考えれば悪魔男爵1人で
この二人に敵うハズは無いんだが
敵うとか
勝算とか
どうでもいいわ
この怒りを速くなんとかしないと
俺が破裂しそうだ。
脳裏に蘇る様々なババァルの姿
ヒドイ暴力の果て戒められ処刑台に
括りつけられ、それでも笑っていた。
黒こげの炭になって崩れていった。
このフクロウがオーベルか
考え無し全力の一撃でいい。
俺の体内で暴れまわるエネルギーを
って
あ
今なら悪魔光線出せそう。
そうそうこんな感じだよ。
いける
塵も残さねぇ
食らいやがれ
「悪魔光・・・。」
『お待ちになって!』
「ごめんなさい!!」
幻聴ババァルの制止と
目の前で土下座するビルジバイツを目にして
俺の内圧は見る見るしぼんでいった。
眼球正面の光球は散り散りになって消えた。
「爺のした事、全ての責任は妾にある。
妾を救い出す為に爺は全てを敵にまわし
騙し、裏切った。」
オーベル、ビルジバイツ、救出
あー
ヨハンが言っていた
毒沼に沈んだ城事件・オーベル騒動
はいはい
確かにビルゲイツとか極悪人みたいな名前だった。
思い出した思い出した。
「あれ、でも確か胎児みたいな姿だったって
ヨハンは言ってたんだがな。」
「ヨハン殿をご存じか」
偉そうな態度が完全に消え去ったフクロウが
驚いてそう言った。
「・・・えっ・・・とぉ?」
事態の変化について行けず
土下座から顔を上げキョロキョロするビルイジバイツ。
「まぁ・・・弟だな。」
俺達の事情をヨハンはどの位話したのだろうか
まぁ隠す必要もないか
フクロウの問いにそう返事する俺。
「そそっそれでは、あなた様こそが地上のアモン!!」
「なななんと爺、まことか」
なんか戦闘はもう無さそうだな。
「まぁ立ち話も何だ。座って茶でも飲みながら話すか」
そう言ってから俺はストーレージから
テーブル、椅子などのお茶会セットを
取り出していった。
・・・流石に止まり木は無い。




