第百二十七話 パンジャンドラム
ババァルの捜索ってどういう事だよ。
どういう事も何も言葉通りだろ
落ち着け俺。
問題は降臨から一切魔界に帰って来ないのか
一度魔界に帰って来てから居なくなったのかだ。
「もしかして降臨から戻っていないのか」
ダークの回りくどい話から推測すると
地上、人間界でも捜索をしたがっている
これは魔界で散々探し回った挙句
見つかっておらず
「まだ、向こうに居るんじゃねぇの」という
話し方だ。
俺はダークにそう聞いた。
「如何にも、魔王の行方不明など
2~3百年程度はよくある事でござるが
しもべとして心配にござる」
ミカリンと一緒だな
2~3百年の行方不明がプチ家出程度かよ。
天使も魔王も規模がデカいな。
ん
ミカリンと一緒・・・。
呪い等何らかの制約を受けているのか
少なくともダークはそう考えているのだろう。
「アモン殿、よろしければ姫の
前回降臨での最後を詳しくお聞かせ
願えないであろうか。
不敬な問いであるのは重々承知の上
恥を忍んでお頼み申す。
僅かでも手掛かりが欲しいのでござる。」
回りくどいなぁ
アモン何か知らね?が
この長文になるんだから
最後かぁ
あまり思い出したくないんだよね。
泣いちゃうからな
『・・・・ポッ』
幻聴は気楽でいいな
本体はどこほっつき歩いているんですか
俺は業火から逃げた先での
ババァルとの最後の会話を
ダークに語って聞かせた。
「辛い事を思い出させてしまい。
申し訳無いでござる。」
「べべべべ別につ辛くなんかねぇしグスツ」
ここでダークの雰囲気が変わった。
「アモン殿、拙者とヨハン殿は
顔見知りでござるが・・・。」
「ん・・・戻って来てるのか」
アモン2000に近づいて来ている者がいる
それだけでなく誰なのかまで感知しているのか。
流石は忍者だな。
「んーヨハンがババアルの事知ってるはずも無いし
内緒にしておこう、このまま影に潜め
俺の生命が危うい時以外は隠れていてくれ」
「御意。」
そう言うとダークは俺の影に飛び込んで消えた。
気を使って入ってくれたのだろう
最初の時のような違和感を全く感じなかった。
目の前で見ていてもこれだ
視覚外から忍び込まれたら
絶対に気が付かない自信がある。
1分程度だと思うが
かなり長く感じた。
随分手前から感知するんだな。
その時間は緊張が無意味だと気づくのに
十分だった。
俺は姿勢を崩して寝転ぶ様に
車外に足を投げ出す。
「悪ぃなあ兄貴。お待たせ」
ヨハンはそう言って戻って来た。
「おぅ用事は済んだのか」
俺は今寝転んだばかりなのに
もっさりとした動作で起き上がる。
「何だそれは」
ヨハンは色々抱えていた。
「食料その他だ。断るのも悪くてな」
準備は食料・水も含めて全て準備済みだ。
後ろのやっつけ設置荷台の荷物の中に
しまい込んで行くヨハン。
ビンだけは直ぐに取れる様に
外のポケットだ。
「酒は昨日、散々飲んだだろ」
俺は半ば呆れてそう言ったのだが
ヨハンは予想外の返答をした。
「まぁそうなんだが、水じゃ凍っちまう」
「そんなに寒いの?!」
「そうか、初めて行くんだっけな
兄貴、防寒は大丈夫か」
椅子にベルトで体を固定しながら
ヨハンは聞いて来た。
「俺はこの体のお陰で何ともない。
兄貴も悪魔化だっけ、それで行くなら
多分、ストレガと同じで平気だとは
思っているんだが。」
そうさせてもらう。
ミカリンを置いてきて良かった。
同時に変身出来ないから
どっちかは防寒しないとならない。
ミカリンは引っ越しの用事の為に
ドーマに残しているのだ。
ついて来たがったが
とんぼ返りになる事と
誰の都合の引っ越しか、予想外の不備が無いか
困るのはミカリンの方だ。
それの確認も頼み残留を納得してもらった。
次の停車予定は
ネルド手前に兵の訓練の為に新たに設立された村。
「何て言ったっけ」
「ネルネルドだ。ネルドに近いって
そのままの名前だ。」
「駄菓子みたいな名前だな」
ヨハンの言った通り
ここからは登りが続いた。
本当に馬車で登れるのか心配な
急勾配がいくつもあった。
「さっきの集落で馬を山羊に
チェンジするのが一般的だ。」
追い抜いて行く、すれ違う馬車
それを引いているのが山羊な事に
注目した俺の様子を察して
ヨハンがそう教えてくれた。
さっきの集落
確かに人より山羊や馬の方が
数が多かった気がする。
「冒険者協会だと専用の馬なんで
そうもいかず、特別に訓練した馬で
何処に行くにも全部馬で済ませているがな」
「馬かわいそうー」
そう言ってから
今の俺はその馬と同じ立場な事に気が付いた。
まなぁ自分から言い出した事だ。
文句は言えん。
「おぉ雪だ」
あちこちに雪が見えて来て
俺ははしゃいだ。
思えばこっちの世界で初めて見るな。
当然、道の上にも雪が見え始める。
「うぉおあああ!!兄貴!滑ってないかー」
不自然に横にスライドする車体。
その度にヨハンが悲鳴を上げる。
うるせぇな、この程度で
そう思ったが馴れていないのか
圧倒的に速度の遅い馬車では
発生しないのかも知れない。
「そろそろ交換するか」
どうせ変えるのだ
作業しやすい場所の有る内に
やってしまおう
細い山道だけになってしまう前がいいだろう。
「交換?」
「車輪を雪用にな」
俺は道脇のちょっと広めで平らな場所に
アモン2000を止めると
ジャッキアップボタンを押す。
「うお、この車、勝手に棒が生えて
持ち上がっているぞ。」
油圧で動くジャッキを四隅に設置してあるのだ。
元の世界の車もコレ付ければ良いのにと思うが
増加する重量とコストを考えると
パンタグラフ式ジャッキ一個搭載になるのだろう。
「ヨハン手伝え」
「おう」
俺達は荷台に搭載していた
鋲付きの車輪を降ろした。
元の世界では禁止になった
いわゆるスパイクタイヤだ。
「成程ね。これなら雪の上でも
滑り難くなるな。武器かと思っていたぜ。」
お前はイギリス人か
車輪は車輪として使え。
出展
パンジャンドラム 第二次世界大戦中に英国が開発していた自走爆雷。メカ輪入道