第百二十二話 ドーマ会議後
司教軍団の強い強い要望で
その日の夜に宴会になった。
名目状はドーマとの軍事同盟の
お祝いなんだが
パウルやストレガの入れ込み具合から
俺を肴にする気だ。
準備が急ピッチで進んだ。
いきなり開催など出来るものかと
疑っていたのだが
宴会に掛ける魔族の情熱を舐めていた。
連チャンの宴会なのに
飽きるとか嫌そうな感じは
見受けられなかった。
皆、笑顔でこま鼠のように働き
早送りでも見ているかのように
夕方には例の広場に立派な会場が
出来上がっていた。
また朝には死屍累々なのだろう
なんなんだ魔族
どんだけ祭り好きなんだ。
二階のベランダから見える会場準備の様子を
眺めていた俺とミカリンに
会議終了を聞きつけたアルコが出てきた。
「また宴会なのですか。」
アルコは若干呆れた様子だ。
どちらかと言うと静かに過ごす方が
彼女は好みのようだ。
「うん。もう毎日でもイイ感じだ。」
「・・・ブリッペは?」
俺も若干、呆れ気味に返事し
ミカリンはブリッペが一緒で無い事を
疑問に思ったようだ。
「シャーリーと一緒に準備のお手伝いに」
ブリッペが屋台に協力するとなれば
今日の料理は期待大だな。
俺は少しホッとした。
「こちらに居られましたか」
ルークスが現れた。
どうも俺を探していたっぽい
「なんだ。地図みたいなの持って」
ルークスは手に丸めた大きな紙を
持っていたのだ。
「地図ですぞ。目ぼしい住居の
候補がいくつかありましてな」
今ならミカリンも一緒だ。
これは丁度良い。
テーブルに地図を広げ
ルークスは指さししながら
紹介していく
とある地点でミカリンが突っ込んだ。
「あれぇ?そこ雑貨屋だよね」
ルークスの指した場所
ゲッペの教会の真ん前。
確か人族の中年男性が経営している
雑貨屋の場所だ。
言われて俺も思い出した。
「それがですな。店主の父親が
ベレンの雑貨屋を引退するので
そっちを引き継ぐそうで
近々店じまいするとの事だそうですぞ。」
所詮、雑貨屋。
ライフラインや生活必需品でなく
趣向品が多いので無理して続ける必要は
無いのだろう。
「そのまま雑貨屋でもやるか」
人族のど真ん中だ。
なにより教会が近いのは
ミカリン的には好都合だろうし
ベレンとの行き来も楽だ。
同じ距離で魔導院にも行ける。
皆の意見を聞いて
そこに引っ越す事に決定した。
ブリッペは聞かなくても
別にどこでもいいだろう。
「では早速、手配いたしますぞ。」
こんな国家の命運を左右する状況の中
俺の用事を覚えていてくれたのか
素直に感謝だ。
去り際に宴会の開始時間を告げ
ルークスは退場していった。
入れ替わりにヨハンが入場して来る。
「おう、居た居た」
もう舞台劇並みのタイミングだな。
ヨハンはネルドが心配なのですぐに発つと
言って来た。
ストレガとヨハン、更にハンスと
強力な魔法の使い手が三人も同時に
抜けるのは危険だそうだ。
「ストレガとハンスの奴には
せめて今夜ぐらいゆっくり兄貴と
一緒にいさせてやりたいしな。」
ヨハンは見た目と言葉遣いとは
裏腹に優しい奴だ。
俺はネルドまでの道順や日程などを
ヨハンに尋ねた。
どうせ俺もいずれは行くハメになるのだろう
先に色々知っておいた方がイイ
なんと馬車だと4~5日
早馬でも2日は掛かるそうだ。
「それなら、今夜は一緒に宴会で
明日の朝一番で俺の車で送った方が
絶対に速いぞ。」
悪路走行を前提にバギータイプで作成した
アモン2000は地上を走行するなら
恐らくこの世界で一番速い。
恐怖心さえ克服出来れば
時速100kmを超える速度でいける。
知らない道だとおっかなくて出来ないが
道を予め熟知しているナビが同乗すれば
ガンガン飛ばせるはずだ。
「・・・そうなんだが、今度は
俺が役に立つ番だと思っていたのに
早速また兄貴に世話になっちまうのは」
「お前の為じゃない。ネルドに
最短で辿り着ける方法を提示しただけだ。
最短がイイんだろ。だったらそうしろ」
ヨハンは長いため息をつくと
頭を下げた。
「それでお願いします。」
「決まりだな。」
頭を上げ腰に手を回し
少し首を傾げヨハンは言った。
「なんか・・・前と変わんねぇな」
「二人とも変わってないんだろ。
宴会、楽しみだな」
「ああ、今夜は飲むか」
ヨハンはしばらく雑談をした後
手配した馬をキャンセルする為に
退場していった。
「マスターって・・・なんと申しましょうか」
ヨハンとは面識が無く
初対面だったアルコは
俺とヨハンのやり取りを
一歩下がった位置で終始観察していた。
ヨハンの退場に合わせて
俺の横に来てそう切り出して来た。
「スゴイのは知っていたのですが
私の想像を超える凄さだったのですね。
改めて恐縮しました。」
メニュー画面は開けないが
アルコは野生の勘で相手の強さを見極める
ヨハンが強者なのを感じ取ったのだ。
その自分達を上回る強者に対して
デカイ態度で言いたい放題のチンチクリン。
相手の俺に対する敬意も含めて
知らない人にはもはやコメディのような
絵になってしまっているのだろう。
「そうでもないさ。」
「いいえ。お兄様は凄いです。」
上空からジェット噴射の音を立てて
ストレガが舞い降りて来た。
聞きなれない音にアルコは思わず獣人化した。
「妹だ。危険は無い。」
逆立つ体毛に服が下から押し上げられ
パンパンに膨らんでいるアルコに
俺はそう言って警戒を解く様に促した。
「その技。俺にも教えてくれないか」
前回は重力操作が便利すぎて
ジェット、正確にはロケット噴射に
当たるのであろうストレガの飛行方は
考えもしなかった。
「わーい。ストレガちゃーん」
「ミカリーン」
ストレガとミカリンは互いに
手を細かく振り合っている。
肩を軸に窓でも拭くような男振りでは無く
腕を正面に出し手首でグリグリ小さく
手の平を振る女子特有の手の振り方だ。
なんで女子ってそんな振り方するの
ストレガとミカリンはすっかり仲良くなった様子だ。
俺が会議に全力忙殺されている最中に
親睦を深めたようだ。
「魔導院に会議の結果を告知
全員協力の了承を得てきました。」
ストレガはキラキラした目で
そう俺に訴えて来た。
了承ねぇ
どうやって脅したのかは
・・・マリオ辺りに聞こう。
「うむ、良くやった。えらいぞう」
俺は少し大袈裟にストレガの頭を
撫でてやる。
尻尾があるなら全力でブンブンしそうな
ストレガの喜び方だ。
「後、宴会にも警備を残して
残りは出席するそうなので
お兄様は好きに物色なさって下さいね。」
それもやっぱり脅したのだろうか。
ん
じゃ、あの召喚の間も無人になるのか。
俺は宴会前、ちょっとだけ抜ける事にした。