第百十八話 ドーマ会議前
慌てまくるルークスに
背中を押される様に
俺達は会議の部屋に
押し込まれた。
俺達が本気で海に行くと思ったらしい。
・・・みんな冗談だよね。
教会側が到着する前に
打ち合わせておかないとな
「事前に予定された人しか無理ですぞ」
こちらから約束を守らない。
ルークスはそこに拘っている様子だ。
「教会側が俺の飛び入りを断るはずは無ぇって」
ヨハンはそんなルークスの内心など
興味も無い様子でそう言った。
「お兄様から伺いました。
魔導院も巻き込まれると、
それならば私が居た方が話が進むはずです。」
ストレガも引く様子は無い。
しかしルークスは渋い表情だ。
「ルークス。到着と同時にその旨伝えよ。
これは我の希望でもあると言え。」
ナリ君は賛成してくれている様だ。
いつもの無理して出している低音ボイスに
更に渋みが増していた。
ストレガ効果とでも名付けるか。
「分かりました。その様に
しかし、その前に確認させていただきたい。」
王に言われては、もうやるしかなかろう
ルークスは渋々了承するが
何か知りたがっていた。
座っている面々を一巡して見やると
ルークスは口を開いた。
「お二人、或いはそれぞれ、どちら側の味方ですかな」
そりゃヨハンは最高指導者だし
ストレガは院長だ。
それぞれの抱えている団体の味方だろうに
そう俺は思ったのだが
二人の答えは違った。
「どっちでも無ぇ兄貴・・・ゼータ・アモンの味方だ」
「同じく。お兄様が滅ぼせと言った相手を
滅ぼします。それが例え魔導院であってもです」
二人とも考える時間ゼロ
迷わず即答だ。
「教会と全面戦争と言われてもですかな」
真顔でルークスはそう言ったが
ヨハンは涼しい顔で語り出した。
「ああ、俺はとある目的の為に一度信仰を捨てた。
でも兄貴が戻れって言ったから戻った。
その先で最高指導者なんてモノに祭り上げられたが
俺がなりたかったワケじゃ無ぇんだ。
今の俺は老後なんだ。
やりたい事、成すべき事の為に
兄貴に世話になった。
そして俺の用事は終了した。
そうなれば残された余生
この人生のロスタイム全てを
返しきれない恩のある
兄貴の為に使う。相手は選ばねぇよ」
顔は涼しいが目の奥に真っ赤に燃える
紅蓮の炎が見えるようだ。
やだ怖い。
続けてストレガも語り出した。
「同じです。何も無かった私に
お兄様は全てを授けてくださいました。
命、感情、体、人生そのものをです。
言わば私の全てはお兄様のモノ
お兄様が居なければ私はいません。
お兄様が居る限り私は誰の命令も聞きません。
全てはお兄様のお言葉で私は動くのです。」
こっちも本気だ。
そうか
じゃあ俺があの飾ってあるパンツ返せって
言ったら返してくれるのだろうか。
「・・・ゼータ殿」
薄っすらと青く光るルークスの瞳
魔眼とやらで見て
本気なのは理解したようだ。
そのルークスが俺に話を振ってきた。
「はいはい。」
「これもあなたの魔法か何かなのですかな」
「そんな魔法があるなら、真っ先に
ルークスに使ってるよ。その方がココでは便利だろ。」
ナリ君がちょっと怒って
割り込んで来た。
「ルークス無礼だぞ。
このお二人の言われる事
我にも分かる。
我も厚い恩義を感じている。
だからマスターと呼んでいるのだ。」
王の怒りにルークスは表情が一変
青ざめた。
「まぁまぁ、ルークスからみれば
俺は世話になりっぱし
借りばっかりだからな。
恩義ウンヌンは理解しにくいだろう」
このままではルークスがフルボッコになりそうだ。
俺は牽制の意味で予防線を張った。
これが視覚外から来る恩の着せ方だ。
「そそのような借しなどとは
思っておりませぬ。王の帰還
この恩義をまだ何も返せていないに等しい」
ほっとした感が隠しきれていないぞルークス。
「お兄様がお世話になった事には
純粋に感謝いたします。」
座りながらだがストレガは頭を下げた。
「そうだな。俺からも礼を言うぜ」
言うだけで頭を下げないヨハン。
俺はルークスに打合せ通り
この二人もそれに協力してくれる事を説明した。
そこで扉がノックされ伝令が入って来た。
「御着きになられました。」
ルークスは伝令に飛び入りの件を伝えると
振り返って俺達に声を掛けた。
「では、会場の方へ移動をお願いします」
会議は昼食を交えた形式で
肩肘張らない緩やかな形式で
行う予定だったが
ルークスの表情で幹部を含めた
周囲の魔族は急な緊張に浮足立った。
正反対にナリ君は余裕の表情で
どこかしら自慢気だ。
「案ずるな。」
戦慄する周囲にそう言って
闊歩していた。
先程の伝令が走って戻って来た。
「り了承するとの事です。」
「うむ、ご苦労」
少し安堵した様子のルークス。
ここで教会側が話が違うと
言い出されたらどうにもできないのだ。
「おっと、ちょっと外すぜ」
ヨハンがそう言って
腰のポーチに手を伸ばし
列から離れた。
それを見たストレガは
なんだかお洒落なクリスタルの着いた
イヤホンみたいな物を耳にセットした。
「パウルさんから秘術で交信が
入ったようです。私が盗聴しているのは
内緒でお願いします。」
ストレガは俺に向かってそっと囁いた。
「ああ、今ドーマにいるぜ・・・・
なんでって四型の掃討でよ・・・
おう・・・・でるよ。・・・・
ああ、その件に関しちゃあ
俺が何か言うより自分の目で
確認した方が速いな。
・・・・泣くなよ。
じゃ会場でな。」
何でもないような顔で
ヨハンは小走りで戻って来た。
ストレガの方は素早い
交信の終了と同時に
イヤホンは仕舞ってしまった。
「どうかしたのか。」
俺はそうヨハンに聞いて見たが
ヨハンは濁す。
「いや、何でも無ぇんだ。へへ」
「そうか。」
別に追及しなくてもいいか。
そう思った俺の背中を
指でトントンつつく者が居た。
「僕は参加出来ないんじゃなかったっけ」
振り返るとミカリンだった。
流れで一緒に行動してしまったが
会議の参加予定者では無かったのだ。
「昼メシは食ったのか」
「いや、まだだよ」
ミカリンは周囲を見回していた。
発見され摘まみだされるのを
警戒しているようだ。
「じゃ、一緒に食おう」
俺はそう言ってミカリンの手を引っ張る。
「うん」
嬉しそうだ。
この食いしん坊め。