第百十三話 アモン集合
俺は簡錫をストレージ取り出すと
接地を展開した。
それから半魔化する。
予想される最初の攻撃は電撃か
金属弾の射出だ。
右手なら電撃
左手なら射出
電撃に対しては接地で対応済み
射出に関しては壁は間に合わない
悪魔騎士の耐久力頼りだ。
ただ、この情報は14年前のストレガだ。
今のストレガが俺の知らない攻撃方法を
身に着けていると考えるべきだろう
現に火を噴いて飛ぶなど
明らかに当時より体を使いこなしているのだ。
そして俺はストレガを見て驚いた。
レベルが表示されていない。
これは俺よりもレベルが上位である事を
示している。
まぁ最前線でバングを相手にしているのだ。
とんでもない経験値を稼いできているはずだ。
勝ち目は薄い
しかし勝つ必要は無い。
むしろ勝ってはいけない。
ストレガを傷つける気なんでコレぽっちも無い。
ただ、やられるワケにはいかない
防衛しきるしかない。
その意味でもココは最適解だ。
近かったのはもちろん。
ここは魔力の集まりが良いのだ。
もしかしたらドーマ自体が
巨大な魔法陣を描く作りなんて
オチかもしれない。
表情の読めない冷酷な顔だったストレガだったが
俺が半魔化した瞬間に戸惑いが透けて見えた。
悪魔を認識できるのかも知れない。
「院長?!」
「あーゼータ・アモンっすね」
派手に乗り付けたせいで
野次馬が次々と飛び出して来た。
ストレガは帰って来る予定では無かったのか
ストレガの姿に驚く者が多い
野次馬の中にクフィールもいた。
俺の名を叫ぶのが聞こえた。
そしてその名前を耳にしたストレガは
誰が見ても分かる程、動揺していた。
互いに睨み・・・見つめ合いか
第一声をどちらも出さない。
ゆっくりと回転する接地による
地面の魔法陣は俺達をいろんな角度で照らす。
ただならぬ緊張感に周囲も息を飲んだ。
裏腹に場は静寂だった。
その静寂は意外な人物によって破られた。
「兄貴じゃねぇか?!」
不覚にも声の方向に顔を向けてしまった。
相手が攻撃する気なら
致命的な隙だったが
俺はその声
聞き覚えのある声を無視する事が出来なかったのだ。
声の主は若い大男。
冒険者っぽい恰好をしていた。
俺自身を含め、この14年で色々
変わったというのに
ストレガとこの男
この二人だけは時が止まっているかのようだ。
「ヨハンか?何で生きてるんだ」
俺の言葉にくしゃくしゃに表情を崩し
ヨハンは両手を広げて叫ぶ。
「感動の再会。その一言目がソレかよ
相変わらず痺れるぜ!」
攻撃する気は無かったようだ
ストレガは一連の流れを
ただ見ていた。
そして震える声で
やっとの思いで声にしたんだろうな
か細く震える声で
やっと喋った。
「お・・・お兄様なんですか?」
「ストレガ、お兄ちゃんは悲しいぞ。
ヨハンは初見で見抜いたというのに」
両手を口元に持っていき
両目から大粒の涙を溢し始めるストレガ。
俺の言葉には
歩きながらヨハンが答えた。
「いや、普通疑うって
なんで餓鬼になってんだ
性根の捻くれた悪魔と契約でもして
若返っちまったのか」
俺は接地を解除すると
こちらに無警戒に歩いてくるヨハンに
向かって言った。
「そんなバカな事をする奴がいるのか」
「中身は全然変わって無ぇなヒデェぜ
で、何があったんだ」
ヨハンは目の前まで来た。
前回も俺よりデカかったが
今回は俺がかなりチンチクリンなせいで
巨大に見える。
「知ってるだろ。俺には色々やっかい事が
常につきまとってだああああああ」
セリフは最後まで言えなかった
ストレガが泣きながらタックルしてきたのだ。
半魔化のせいで体重が見た目よりあるお陰で
突き飛ばされず、受け止める事が出来たが
それにしても全力タックルとか
「おいおい」
非難しようとする俺に構わず
ストレガはものすごい早口で
いっぱい話し出すが
泣きながらの絶叫なので
何を言っているのか
さっぱり分からない。
俺は非難するのは止めて
慰める事にした。
「よしよし」
ストレガの頭を撫でてやる。
まだ何か言っているが
泣きの比率の方がどんどん増えて
もう、傍目にはただの号泣だ。
野次馬はワケが分からず呆けている。
ストレガが院長として普段どんな態度を
取っているのかは知らないが
こんな姿は恐らく初めて見るのだろう。
その輪の中から
責任感に押されてなのか
1人こちらに向かって来る者がいた。
魔導院・副院長のマリーだ。
顔のキズは全く跡が残っていない
我ながら完璧だ。
「あ・・・あの、何事なのでしょうか
最高指導者様」
はぁ?
最高指導者だ?
マリーの視線はヨハンに向けられていた。
「え?9大司教の最高指導者って」
俺の言葉にヨハンはバツが悪そうに答えた。
「あーまぁその、今俺がやってんだ」
思わず大声が出た。
「馬鹿じゃないの?ナニしてんの」
ヨハンもこれにはキレた。
大声で言い返して来た。
「俺だって好きでやってんじゃ無ぇんだ
こっちだって色々大変だったんだよ」
ストレガは泣いている。
「うわああああああああん」
俺はヨハンを上から下から
ジロジロ見ながら捲し立てた。
「その恰好でか?司教の仕事してるようには
見えないぞ。どう見てもEクラス冒険者です」
「いやや式典とかでも無い限りは
あんな動きづらい服は着ねぇよ」
ストレガは泣いている。
「あああああああああん」
「パウルは着てるぞ」
「あいつ基本、動かないし」
「ハシビロコウ並みに動かないよな」
情報を集めさせているのだから
逆に動かれると迷惑か。
届け先が逃げ続けるんじゃ
エージェントの仕事が終わらない。
ストレガは泣いている。
「ひーっひっひっぼ」
追加でヨハンがボソっと言った。
「後、俺今G級だし」
「何?!」
負けた。
俺H-1だったよな。
ちょっと自慢気な顔をするヨハン。
むかついたのでイジワルを言うことにした。
「司教が冒険者やっていいのか」
ヨハンは身をかがめ
ヒソヒソ声で答えた。
「司教はヨハン・ブルグで
冒険者はヨハン・アモンなんだ」
俺は腕を組み説教調で言った。
「そんないくつも身分を持つな」
ヨハンは真顔で怒った。
「兄貴にだけは言われたく無ぇな
いくつ名前と顔と種族使い分けてんだ
ついには子供Verまで追加かよ」
俺は謝罪した。
「ごめんなさい」
ストレガはまだ泣いている。
俺は話題を変えた
身分の話は分が悪い。
「つか、いつ死ぬか分からないのに
最高指導者なんて責任の重い仕事して
中途半端はイカんぞ」
ヨハンは後頭部を掻きながら答えた。
「俺もよ。そう言ったんだよ。
したら、死ぬまでいいからだってよ
ヒデぇよな」
「ヒデぇな」
俺達は笑った。
「で、なんでまだ生きていんの
寿命どうなってんの」
ヨハンは怒った。
「こっちのセリフだぜ。兄貴
俺の体どうなってんだよ」
自分の質問をスルーされ
先程からテニスの観客のように
視線を左右に動かして
話を聞いていたマリーが
辛抱堪らず大声を上げた。
「ととにかく
こんな所ではなんですので
どうぞ、中の方へ!」
「ヨハン。ここお茶出ないぞ」
「嘘だろ」
「っだ出しますから!!」