番外編 第112.5話 ストレガ
アモン視点では無いので番外編です。
113話でなく112.5話としました。
世界は冷たかった。
私も冷たかった。
気が付けば私は乾いた骨だけだった。
当時の私には脳はもちろん
その代用品も無かったので
当時の記憶は曖昧を通り越し
現在からの想像に近いかも知れない。
ただ、最初の日は一日ずっと泣いていた。
乾いた骨だけの私には
瑞々しい涙は出なかったが
それでも一日泣いていた。
日の光が苦痛だった。
昼間はどこか日の当たらない場所に
じっとしていて、活動は夜になってからだ。
眠くもない、休ませる脳が無い。
腹も減らない、入る胃袋が無い。
喉も乾かない、喉が無い。
骨だけの魔物に
私はなってしまったのだ。
何日目かに
人の気配を感じ
私は嬉しくなり助けを求めようとして
気が付いた。
骨だけの魔物が現れたら
人はどうするだろうか。
人種・国家・宗教、全て越え
私を滅ぼす事に異議を唱える者はいないだろう。
生きていた頃の私ですらきっと
倒す事に賛成する。
殺される。
人に見つかれば
殺される。
日の光だけでなく
私は人からも逃げた。
そんな日々の中
あまり悲しく無くなっている
自分に気が付いた。
悲しむとは
掛け替えのない物を失った時に発する感情だ。
もう私は大事だった物を何も思い出せなくなっていた。
自分の名前と生前の性別くらいしか
思い出せない。
悲しむ為の材料がもう無いのだ。
繰り返す何も無い日が
生きていた頃の記憶を何倍もの速さで
上書きしていくのだ。
昼間は潜み
夜は意味も無くうろついた。
もう私は誰が見ても魔物だ。
世界は私に無関心だった。
私も世界に無関心だった。
互いに何の影響も無いのだ。
生きる為の贄を世界から授かる必要は無い。
私が活動する事に世界には何の影響も無い。
私達は冷たかった。
このまま私は
いつか滅ぶ
それだけなのだろう。
でも
そうならなかった。
とびっきり熱い物が
月夜の晩に私の元に舞い降りたのだ。
「おぉスケルトンじゃあないか」
その人は悪魔だった。
絵本で見た通りそっくりだった。
ただ、なんというか怖さが全くない。
スケルトン
私はそう呼ばれる魔物なのだ。
この人が初めて教えてくれた事だ。
熱い
この人は熱い
世界も私も冷たいのに
この人だけは情熱の塊だった。
こんな、骨だけの私を見て
喜んでくれている。
そして、この人は
私のペースなど考えずに
矢継ぎ早に
色々なモノを与えてくれた。
女としての羞恥心
身にまとうローブ
重くて持てない鎌
無理だと言ったら
軽い鎌に変えてくれた
ただ、切れないらしい
この人は一体
何がしたいのだろうか。
血が通った様な錯覚を覚えている。
何も考えなくなっていた私が
急激に考え始めた。
考えなくなった私は
虚ろで朧気な存在だった。
物理的に骨でも
私はその瞬間から霊的に
自己の形を再構成していった。
どうでも良かった世界と私が
その出会いから
どうでも良くなくなった。
滅びたくない。
痛烈に感じた。
考えるのを止めるまでは
神様に祈った。
元に戻してくださいと
でも世界が冷たいように
その世界をお作りになられた神様も
きっと同様なのだろう。
冷たかった。
神様はもちろん
使いの天使も来てはくれなかった。
そして悪魔が来た。
ああ
私はやっぱり
そっち側なんですね。
これから
そう
それまで考えた事も無い
これから
未来だ
将来だ
それを考えた。
でもどうしていいのか全く
見当もつかない。
私は目の前の悪魔にすがった。
これから
どうしたら良いかを
東の地なら私の存在が
許される国があるそうだ。
そこを目指せ。
啓示だ。
その為の護身の杖までくれた
私を動かしている力
魔力
それを使用した雷を発生させる杖だ。
たった一つの私の武器。
何も無かった私に
あらゆるモノを授け
悪魔は飛び去った。
もっと話したかった。
出来れば一緒にいて欲しかったが
彼にもしなければならない事があるのだ。
ぐっと堪え見送った。
東の地を目指そう。
彼には
ゼータ・アモンには
きっとまたいつか会えるわ。
その
いつかが
すぐ来た。
ビックリした。
神をも恐れぬ傍若無人なゼータは
別人の様に
泣く泣く
まるで母親に捨てられた子供のようだった。
ゼータは、それまでの冒険を全て
話してくれた。
東の大火で掛け替えのない人を失っていたのだ。
許せない。
私の目的地だけでなく
恩人の大事な人まで奪った炎。
でも
そのお陰で
彼は私の所に来てくれたんだよね。
複雑だわ。
そして
私は誕生した。
悪魔ゼータ・アモンとの契約によって
同じ悪魔の体を持つストレガ・アモンとして
その後は冒険者として
目まぐるしい毎日だった。
魔王図鑑とゼータは言っていたが
本当に魔王の知識とは考えにくい
でも、悪くて言えなかった。
ただ、記載されている膨大な知識は
私を虜にした。
恩を返そう。
ゼータの役に立とう
そんな日々の中
兄が増えた。
先に契約した司教だそうだ。
ゼータと気ごころ通じてる感が
羨ましい
憎い。
ううん
この人も私の兄なのだ。
ゼータの信頼する人なのだ。
私が役に立たねば
忙しさの中で気が付いた。
生き急いでいる感じは本当だった。
ゼータに残されている時間は少ない。
その貴重な時間で私とヨハンお兄様の
今後の為に
家や仕事を与えて行った。
負担になりたくない。
役に立たない上に
足まで引っ張る訳にはいかない。
独りの時に私は泣いた。
血肉ではないけれど
今の私には人間を模した体がある。
涙の生体模写は圧倒いう間に完璧になった。
不審に思う事があった。
人は後世にその名を刻みたがるモノだ。
しかしゼータはその逆で
自分という痕跡を残さない様に
行動していたのだ。
いつだったか
一生懸命、軽い感じの演技で
聞いて見た事があった。
「お前たちだけでいいよ」
殴られた様な衝撃だった。
これほどの力を持ちながら
これだけの偉業を成し遂げながら
英雄
いや
救世主と言っても過言では無い人が
残す軌跡が
私とヨハンお兄様だけで良い
そう言ったのだ。
何も無かった私に
ちょっと
与えすぎでは
お重い
なんだか
よく分からないけど
責任とか
すんごい重たいんじゃ
最後のお手伝い
ばってりーとか言う箱から
生えた端子を地上に突き出す。
合図に合わせてスイッチを押すだけの
簡単なお仕事でした。
それが終わり。
ゼータお兄様は
居なくなってしまった。
私は
また
涙の練習を一杯してしまった。
教会
本来なら敵のハズの教会側にも
ゼータお兄様の偉業を
称える人達がいてくれた。
ただ世間体が悪いので
内緒の集まり
Secret Partyとして
裏で聖人認定だ。
ささやかではあるが
誰も辿り着けないトコロに
ゼータお兄様は行ったのだ。
私がやりたかった事はひとつだ。
ゼータお兄様の軌跡をこの世に刻む
表立っては教会が許さないので
子供向けの絵本を作った。
ゼータお兄様も盛り盛りでイケメンに
描いた。
かなり本体と違うけど
ゼータお兄様なら
きっと笑って許してくれるわ。
許せない
許せないのは勇者。
なによあの女
ハンスさん担いで走り回ってただけじゃない
なのに
ゼータお兄様の手柄を独り占めしちゃって
王子様と結婚なんかしちゃって
許せないわ。
憎かったのよ。
憎かったのよーーー!
豚小間300g
はい、毎度
肉買ったのよーーー!
許せない
もう一つある。
ゼータお兄様の偽物。
教会の人達から「殺さないで」と
言われていたので
ギリギリ生きてい居る状態で止めた。
殺すより難易度が高いわ。
・・・後ですんごい怒られた。
でも、私の怒りも分かって欲しい。
その後は不思議な変化が訪れた。
私は偽物に喜びを感じるようになったのだ。
偽物が出るという事は
本物にそれだけの価値がある証明だもの
ゼータお兄様が風化し忘れ去られていない
その証だわ。
私がやりたかった事
ゼータお兄様の軌跡をこの世に刻む
その事業の仲間。
そう考える様になってからは
ダメージの残らない電撃で
優しく襲い掛かってあげた。
みんな良い悲鳴をあげてくれた。
私に託された事
それは二つあった。
一つは魔法の普及
一つはヨハンお兄様の世話
ヨハンお兄様は
直ぐに立ち直って
冒険者としてバンバン活動し始めた。
どうもこれが本来の姿なのね。
怠け者じゃなかったのね。
そうなると魔法の普及なんだけど
理解出来ない。
これまでもそうだったが
魔法が無くとも世界は困っていない。
なぜ普及させる必要があるのか
分からない
分からないけど
何が何でも遂行しなければ
ゼータお兄様が私に託したのだから。
教会の人達も裏で全面的に協力してくれた
学校の設立
その卒業者の中で特に魔法に有望な者達を
集めた魔法専門の施設、魔導院の設立。
信徒の手前、表立っては対立関係の
演技をしながらと
ややこしく
面倒くさかったが
それなりに上手く行っていた。
そして私は後悔した。
自分を呪った。
自分の怠慢
自分の傲慢
自分の頭の悪さを
あのゼータお兄様が
あれだけ懸念していた理由が
事件として露見してしまった。
バングだ。
魔法攻撃が有効
いえ
魔法以外は効率の悪い敵だ。
それが大群だ。
ゼータお兄様はこの為に
魔法の普及を望んでいたのだ。
教会側は見事な対応だった。
不可侵条約が仇になり
追い詰められたドワーフを
超法規的措置で受け入れたり
難民や差別問題も
保護地区などの対応で乗り切っていた。
私だけでは無い
ゼータお兄様は
きっと教会の人達にも
何か託していったのだ。
その言いつけを守っているのだ。
私は失敗した。
魔法の普及が間に合わなかった。
ゼータお兄様が信じて託してくれたのに
出来る事は私自身が
矢となり盾となる事
育成は後輩に頼み
私は最前線に行った。
その戦いの中で
惨めに苦しんで滅ぼう
自分が許せなかった。
何年過ぎたのだろう
惨めに苦しんで滅ぶ予定が生き延び
鬼神などと呼ばれる様になってしまったわ。
そんな中
パウルさんから久々の秘術での連絡
「あのお方の偽物が現れたがストレガには
それが出来るだけ伝わらない様に」
私を心の底から信じていないのを
知っていたので
クリスタルに伝えられた内容が
反射して受信出来る魔道具で
聞いてしまった。
105人目の偽物さん
うふふ
待っていてね。
途中で火薬を生成・補充しながら
私はネルドから偽物の滞在する
ドーマに文字通り飛んできた。
よりにもよって
私のホーム、魔導院のある都市でだなんて
至れり尽くせり
ふふ、そんなトコロは
まるで本物みたい。
久々のドーマ帰還に
都市の人々も手を振って歓迎してくれていた。
私も出来るだけ振り返して笑顔笑顔
って
そこで笑顔が固まった。
何アレ
見た事無い
目立つ
まるで
俺を注目しろと言っているかのよう
事実その通りなのだろう
視線を集める目的もあるに違いない。
だって目立つもの
馬を繋ぐ気の全くない車。
乗っているのは
冒険者ゼータじゃない方の
人間Verのお兄様?!
・・・・若くない?
子供?
どっかで仕込んだの?
じゃ
私、叔母さんね。
あ
逃げた!
待って
は
話を
何で
何で逃げるのぉー?!
出展
肉買ったのよーーー! 漫画「ついでにとんちんかん」でのギャグ