第百十二話 ここでインド人を
夜も更けて来たので
魔導院の二人を帰した。
許すから改めて招待しろと
その条件で二人は納得した。
朝方にベレンから使者が来て
参加メンバーの変更と
主だった議題を書状で
先に通告してきた。
その事でルークスに起こされた。
もっと寝ていたいのに
「仰る通りの流れですぞ」
「メシ食ってからでいいか」
書状を手に興奮するルークス。
教会サイドと度々交渉をしてきた
ルークスにしてみれば
俺の持ち込んだ前情報は
半信半疑だったのかも知れない。
それ程に教会側のガードは固いのだ。
なんとルークスは朝飯にもついて来た。
食事しながらで構わないと言うが
こっちが構うんだが
「マスター。こっちです」
既にナリ君が席に座っていた。
テーブル二つを連結し
ビュッフェ形式なのに
全ての料理を既にテーブルに
乗せている。
取りに行かなくて楽だが
一般的にはマナー違反だ。
しかし、王となると
これが普通だろう。
「お取りします」
人アルコが気を利かせて
そう言って来た。
「あぁおはよう適当に頼む
・・・ミカリン達は?」
人アルコは流れる動作で
俺の好みの料理をキレイに
盛り付ける。
やはりこういう日常業務は
獣人の手よりも人型の方が
圧倒的に便利だ。
アルコも人状態になんら違和感を
感じて居ない様子だ。
「まだ寝ています。今メイドが
起しに行ってくれましたが・・・。」
ミカリンの寝起きは手ごわいぞ。
ブリッペは知らんが
昨日は走り回ったので
筋肉痛で今日はまともに
行動できないだろう。
まぁ動いてもらう案件も無い
残り少ない宮廷暮らしを
のんびり楽しめば良いのではないかな。
食い始めるとお腹も起きた様だ
急に空腹感に襲われ
俺はガンガン食った。
その間もルークスとナリ君が
やいのやいの言っていた。
「いや、人族の子供が同席するのは
やっぱり変でしょう」
俺はお茶を飲みながらそう言った。
二人とも会議に俺を出席させる
前提で話していたのだ。
「それが、ですな。」
なんと教会の書状にも
救世主の同席を是非希望すると書かれていた。
信じられなかったので
実際の書状を見せて確認した。
「本当に書いてある」
「左様。」
「我らも希望しますがマスターに
ただ無理強いをしたくはない。」
うーん。
魔導院に行きたかったが昨夜の今日じゃ
向こうも準備とか周知とかあるから
どっちにしろ今日は無理か。
俺はあくまでもオブザーバーとして
同席と言って置いた。
積極的に意見や決議の判断を
投げられるのは勘弁だ。
それを聞くと二人は準備の為に
席を立った。
会議は正午からで昼食を交えた形式で
行うと言って去った。
会議でがっつくのも恰好悪い
テーブルにはまだ山ほど料理があったので
俺はここで満腹にしておくことにした。
その内にミカリンとブリッペも
現れ4人での朝食になった。
会議にはミカリンも同席したがっていたが
残念ながら無理だった。
ブリッペは案の定、筋肉痛に参ってしまって
今日は動きたくないとボヤく
アルコもそれならば自分もと言いだした。
まぁ連日色々起こりすぎだ。
疲れも貯まるだろう。
なので今日は俺以外は休日にした。
とはいえ
正午までヒマだ。
まだ行っていないお店でも
午前中は見て回る事にした。
1人なのでアモン2000で行くことにした。
「頼んだぜ」
「はい。マイケル」
適当に車を流していた。
元の世界でも運転は好きだった
転がしているだけで楽しい。
そんなご機嫌な俺の頭上を
ジェット機が低空飛行で
迫って来る。
ふふ
なんか映画のワンシーンみたいだな
あれは車じゃなくカワサキのバイクだったっけか
・・・・・・。
ジェット機だと!?!
俺は音のする方向を見上げた。
この世界にジェット機なんて
あるハズが無い
だが聞こえて来る音は
耳慣れたあの音だ。
高い建造物の隙間の空から
そいつは現れた。
上空30m程度の低空を
鳥などとは比較にならない
速さで飛んで来た。
長い錫杖を持ち
黒いローブを身にまとった
人間が踵から煙をたなびかせ
滑空していく。
その人物は
間違いない
ストレガだ。
「ストレガ様だ」
「久しぶりだな」
あちこちで通行人が声を上げた。
なんか見慣れた光景のようだ。
手を振る者もいた。
ストレガも気が付く限りは
手を振り返していた。
「人気者じゃないか」
俺が居なくなってからの事を思い
前回、色々したつもりだが
俺が何かしなくても
この子は受け入れられたんじゃないかな。
イイ子だったもんな
この人気っぷりを見て
俺は嬉しさ半分
僻みも半分だな。
ふとストレガが空中で急停止した。
俺の方を凝視している。
見つかった。
俺はバックギアに入れ急アクセル
速度が乗った所でインド人を
じゃないハンドルを右に切り
アモン2000の向きを変え
ギアを2速に入れ
再び急アクセル。
ん
何で逃げるんだ。
向きを変え終わってから
そう思ったが
ゆっくり考えてはいられなくなった。
ストレガが追って来ている。
音で分かる。
確実に俺に迫って来ていた。
追いかけっこで
車はヘリに勝てない。
今のストレガはヘリ以上の
性能を有していそうだ。
フワフワ浮くだけだったハズだが
俺の居ない間に
一体何を身につけたのやら
俺は嬉しさ半分
恐怖半分になった。
ともかく街中は色々とよろしくない
思いついた一番近い場所。
魔導院だ。
どうせそこにも行くんだろうし
減速せずに橋を渡る
その時点で門番が青ざめて逃亡を
試みているのが見えた。
すまんな
木製の遮断機みたいなバーを
軽くヘシ折って
魔導院の正面広場に入ると
俺はハンドルをじゃない
インド人を右に
いや
合ってた
ハンドルを右に斬り
ギアをニュートラル
サイドブレーキを引いて
派手に半回転して停車した。
その俺の目の前に
ゆっくりフワフワと
ストレガが舞い降りて来た。