第百九話 宿題にさせてください
ド-マのゲートは
もはや顔パスになっていた。
いいのかそんなザルで
そう思いつつも
楽なので助かる。
いつもの駐車場にアモンキャリアを
回すが、こっちはいつもとは違った。
「お戻りになられたぞ」
駐車場係が叫んだ。
彼はゲアが俺達の魔車を
分解するのを止めようとしてくれた
整備士の人族だ。
彼の言葉に駐車場の詰め所みたいな
小屋からゾロゾロと人が出てきた。
ナリ君とルークス、そしてゲアだ。
こんな掘っ建て小屋から
出て来ていいような身分じゃないんだが
何してんだお前ら
「何してんだお前ら」
アモンキャリアを止めて降りると
俺は半ば呆れてそう言った。
三人は顔を見合わせ
誰が一番に言うかを決めている様だ。
ナリ君が一歩前に出た。
権力順の様だ。
「置いてけぼりなんてヒドいですマスター」
多分
三人の中で一番どうでもいい話題だ。
「面白い場所を見つけて置いた。
今度行こう」
「ふっ仕方が無い付き合うとしよう」
はい終了。
次の方どうぞ。
次はルークスだ。
「今日は会議の予定でしたのに
遊びに行かれるとは」
えーっ
お前ら全員、広場で死屍累々だったじゃねぇか
俺がそう言うとルークスは
さも当たり前かの様に答えた。
「午前中には皆、復活して
いつも通りですぞ。」
あの位、普通だそうだ。
あの状態から短時間で通常営業に
戻れるのが普通とは
魔族は酒に強いのか弱いのか
よく分からん種族だ。
酔いやすく、冷めやすいのか
B型か。
「明日、教会連中が来るんだろ」
俺は悪びれず言った。
切り札だらけだ
高圧的で良いだろう。
「・・・ご存じでおられたか。」
ふふ
驚いているな
まだまだ、これからだぞ。
「それに9大司教のユーとか
言う奴も急遽参加することになった」
「なんですと!!」
よろめくルークス。
年の割に、すんごいリアクションだ。
俺は笑いそうになるのを堪え
努めてクールに高圧的に続けた。
「何にも知らないで会議の席にただ座っている。
それでは意味が薄かろう
先に持っておいた方が良い情報
優先してそいつを集めてきたんだ。
遅くなって申し訳なかったが
それだけの価値はあるぞ。
始めようじゃないか会議を」
「・・・なんという。」
絶句しているルークスに
自分の事の様に自慢気に
ナリ君が追加攻撃を入れた。
「これがマスターだ。」
「直ちに招集を掛けて置きますが・・・」
そう言ってルークスはゲアの方を見た。
彼の用事も急を要する様だ。
視線に答える様にゲアは一歩前へ出ると
何とも言えない表情で話し始めた。
「兄ちゃん。魔導院で何かやらしたか?」
どれの事だろう
色々やらかしたぞ。
俺は例の気持ち悪い笑顔で答えた。
「あぁ色々したが、どれの事だ?」
「いやな具体的には俺にも
言って来ねぇんだが、どうしても
兄ちゃんに取り次いでくれって
泣きつかれてんだよ」
俺は気持ちの悪い笑顔のまま
言い切った。
「追い返せ。どうしても俺に
会いたければマリーの首を持ってこい
そう言っとけ」
ゲアは凄くビックリした顔になった。
「ななな何があったんだよ」
俺のセリフは予想以上の衝撃だった様だ。
「マスター。マリーとやらの首がご所望か?」
ナリ君が殺気立って、そう言った。
そうだと言ったら採ってきそうだ。
怖い、抑えよう。
「いや、俺に関わって来なければ
それに越した事はないんだ。
さぁ会議を始めよう。」
ブリッペが会議を嫌がった。
そう言えば休みたいってずっと言ってたもんな
会議は俺1人だと言い
皆を休ませようとしたが
ミカリンは同席を申し出た。
なので、アルコにブリッペの面倒を
頼み俺とミカリンで会議に参加した。
会議は最初の部屋で行われた。
参加している面々は皆、魔族で
どれも見かけた顔だ。
「早速ですが、ユーの参加は
本当なのですか。いつそうなったのやら」
事前に通告されていたメンバーには
当然入っていなかったのだ。
「その前にユーってのはそんなに偉いのか」
俺はルークスにそう尋ねた。
ユー
これは愛称で正式名称は
ユークリッド・サー
現皇帝エロルと新大陸遠征に同行していた
9大司教の「厚」だそうだ。
バリエア壊滅の知らせに
急ぎ蒸気船で帰国。
そのままエロルは新皇帝に即位。
ユーは「厚」のままベレンで
9大司教の総指揮にあたっているそうだ。
「最高指導者じゃないのか」
前降臨の際に遺体を確認してはいない
もしかして行方不明の扱いのままなのか
なんだっけフィロソマだかピエトロだか
そんな名前だったような気がする。
「最高指導者は何でも最前線とやらに
詰めっぱなしなそうですぞ。
どこの最前線かは存じませんが
一度もお見受けした事はございません。
なので教会側の現時点でのTOPが
そのユークリッドと見て相違ないでしょう」
ルークスの言葉に俺はひとまず
最高指導者の事を考えから外した。
ユークリッドがTOPの認識で行こう。
「ユーが来るのは事実だ。本人がそう言った。
その内、こっちにも通達が来ると思うぞ。」
俺の言葉に他の首脳陣も
先程のルークスの様に大袈裟に狼狽える。
ナリ君は得意顔だ。
俺は続けた。
「で、何を要求してくるか何だが・・・。」
現在、バルバリスが直面しているバング問題。
その最前線のネルド。
魔族の王の帰還とその力を知った教会は
保護地区の貸しをチラつかせ
魔族に出兵を要求してくる。
俺は大体こんな感じで説明した。
俺の話の最中も魔族首脳陣は
話に聞き入り、眉間に皺を寄せる者
腕を組んで考え込む者、それぞれだった。
ルークスは表情を変えずに聞いていた。
「成程・・・それではユーが出てきますな」
聞き終わったルークスは普通にそう言った。
「で、どーすんだ」
俺の問いに答える者は無く
皆黙り込んで様子を窺っていた。
「仮に断ったら、ドーマはどうなる」
俺はそう水を向けて見た。
そしたらアチコチから
出るわ出るわ
想像される制裁の数々
ライフラインはもちろん
食料、物資、などなど
自力ではどーにもならん魔族だった。
これは仕方が無い。
言ってみればドーマは巨大な収容所だ。
狩場もなければ畑も無いのだ。
「じゃ出兵だな。後はどっちに出兵かだが」
「どちらに・・・とは」
俺のセリフにルークスが突っ込みを入れた。
分かっているクセにと思うが
ルークスが言うより俺が言った方が
効果的なのだろう。ルークスも
そう思って俺に言わせようとしているのだ。
このタヌキめ。
「最前線でバルバリスに加担するのか
ここでベレンを制圧するのかだ。」
ベレン制圧のセリフに
一様に皆に嫌悪の感情が走った。
「・・・不義ですぞ。」
そう漏らす声も聞こえた。
うん、やっぱり君ら
ジャパニーズサムライっぽいよ。
すかさずルークスが発言した。
「では最前線に出兵でよろしいか」
首脳陣は皆、頷く。
ずるいなルークス。
俺に魔族のプライドを刺激させ
出兵に引き寄せてから
決だけ自分が取りやがった。
俺の印象だけ悪いじゃないか。
タヌキめー
いいけどね別に
「どの位の戦力を出せる」
ルークスは隣に座っている
軍事顧問っぽい魔族にそう言った。
「出兵の協力を申し出てくるのでしたら
対ベレン用に兵力は必要無くなります。
防衛を抜きに考えれば・・・」
「信じ切るのもどうかと・・・。」
軍司顧問の答えに苦言を呈すルークス
俺はベレン側に兵力が無い事実を
教えて置いた。
「そいつも今日、この目で確認済みだ」
嘘だけどね。
戦力が無いのは事実だからいいや。
そこからは具体的な数字の話になった。
纏まりそうになったので
俺は慌てて追加の提案をしておく
「出兵の時期はこっちが決める事に
しておいてくれよ」
「我らはいつでも行けますが」
軍事顧問の答えに
俺はネルドの気候について説明した。
雪上戦の訓練を手前の訓練場で行うべきだ。
「成程、それは確かに未知の戦闘になります」
案の定魔族も雪上戦は経験が無かったようだ。
しどろもどろになる軍事顧問。
俺は更に追加する。
「後、今の段階でバングにダメージを
入れられるのは王だけだから」
バングと魔法の関係についても
説明して置いた。
これは予想外だったようで
軍事顧問を始め皆うなだれてしまった。
「それでは、盾にすらなれるかどうか」
「行ったトコロで無駄死にではないか」
見苦しく騒ぎ始めた魔族首脳陣。
「静かにせよ!!」
ナリ君が一喝した。
水を打った様に静まり返る室内
やだカッコイイ
「マスターは時期と申された。
何か策が、あるのですよね」
そう言って俺をゆっくりと見るナリ君。
首脳陣の視線も釣られて俺に集まった。
俺は静かに頷いた。
「「おぉ」」
首脳陣は感嘆の声を上げ
明日の会議の方向性はそれで確定した。
やばい
何も考えてない
急いで考えないと