第百八話 ベレン脱出
その後は定例報告会は
お開きの方向になった。
彼等が去ってからはもちろん
先程の命令が隅々まで行き渡ってから
外に出た方が利口だ。
「そうだ。武器は無いが」
俺はアモン埋蔵金を思い出した。
地下道を掘る際にもついでに
鉱石を体内に収納していたが
金は武器として使い道が無く
別個で纏めて置いた。
地下道に隠してあったのだ。
ただ、ストレガにその所在を
伝え、好きに使う様に言ってあったので
残っているかは定かではない。
俺が皆にそう説明すると
ミカリンは言った。
「多分、丸々残っていると思うよ」
「だといいんだがな」
俺は半信半疑で隠し場所を探す。
一部の壁のブロックを外すと
まるで、それ自体が
光を発しているかの様に
光り輝く黄金が手付かずで残っていた。
「なんで、残っていると分かったんだ」
俺なら盛大に使う。
俺はミカリンに聞いた。
「これは只の金銭でなく
ストレガちゃんにとっては
絆が具現化したモノだもの
切羽詰まるまでは手を付けないよ」
そう聞いてしまうと
持っていきづらいが
元々俺のだ。
今は懐が厳しいのだ
ちょっと持っていくぞ。
ダメなお兄ちゃんを許しておくれ
俺は「ちょっと使うぞアモン」と
メモ書きを残し
根こそぎ金塊をストレージにしまい込む。
「直ぐに倍にして返すからよぉ」
「ダメな大人の典型だ」
ミカリンにそう突っ込まれながらも
俺は作業の手を止めない。
いやマジで金の金属操作が可能に
なったら元に戻すから
悪魔騎士で走査出来る金属だと
大した額にならない
やはり黄金はいつの時代でも
どこの世界でも頼りがいMAXだ。
ボイラーが停止し彼等が去った。
時間を見計らって裏庭から俺達は
地上に出た。
すっかり夜は更け
辺りは暗くなっていた。
乳製品の運搬
その馬車の荷台に潜り込むと
一息ついた。
「これ出口の検閲マズいんじゃないの」
ミカリンが心配したが
俺はこの業者がノーチェックで
内壁から出られるのを知っていた。
この14年で変わっていたとしても
先程の定例報告会から時間が
結構経っている。
俺達は無事に出られるだろう。
俺は盗み聞きした内容を
皆に説明し
こちらがそれを知らない前提なので
真似でも忍び足でベレンを出る事にした。
馬車はストップする事無く
内壁から市内へ出ると
都合良くもアモンキャリアを
停めてある近くまで行ってくれた。
適当な所でそっと降りる
その際に銀貨を一枚わざと
荷台に落としてから行った。
途中でもそうだったが
衛兵は皆、普通にパトロールをしていた。
アモンキャリアの駐車場付近でも
すれ違うが、反応は無い。
まぁ顔が割れているワケでは無いが
褐色の少女とワイルドな美女と
トランジスタグラマーなエロ女を
連れた少年。
これで手配されていれば一発なのだが
おっと
この世界にはトランジスタは無かったな
因みに小柄な美女って意味だ。
トランジスタの登場は
それまでの真空管をあっと言う間に駆逐した。
真空管より遥かに小型なのに高性能だった。
これで家電は一気に小型化していったのだ。
真空管を使った電卓は
それこそレジスターサイズで
14kgもあったそうだ。
それがトランジスタに置き換えると
今でもお馴染みの手の平サイズだ。
どれ程、小型化の驚きが大きかったかが窺える。
調子こいたカシオは腕時計にも
電卓を仕込んだが
数字のボタンが小さすぎ
爪楊枝の先などを使い
ルーペで見ないと操作出来ないサイズ
だったため覇権は愚か
壮大に転倒した商品だった。
もちろん今の技術なら
もっと小さい電卓も可能だが
人間が使うに当たって不便でないサイズ
つまり、わざと大きく作っているのだ。
因みに真空管は絶滅せず
一部のオーディオマニアや
ミュージシャン達がこぞって
「やっぱ真空管じゃないと、この音は出ないよね」
などと意味不明の供述をドヤ顔でし
一般人には、もはやオカルトの領域での
差別化がなされアンプなどの為に
生き残ったそうだ。
日本に亡命してきた
当時のソ連最新鋭機ミグ25にも
真空管が使用されていて
世界の笑い者になったが
後になって真の意味を知り
ソ連に驚愕することになった。
真空管は電磁パルスにたいして
耐性が高いのだ。
電磁パルスの攻撃や妨害で
次々と米の最新鋭機が目潰しを食らう中
ミグは悠々と迫って来る。
そんな悪夢のような米ソの空中戦が
展開されていたかも知れなかったのだ。
そんな事を考えていると
停留場まで到着し
受付で支払いを済ませると
アモンキャリアまで来た。
念の為に半魔化しデビルアイで
走査するが、誰かが隠れていたり
何かが仕掛けられたりはしていないようだ。
ふと周囲を見渡すと
停留場を見下ろす恰好になっている
建物の窓に映る人影がゆっくりと
後方に下がった。
「パウルによろしくな」
俺はその人影に向かって
そう呟くと
皆でアモンキャリアに乗り込み
ベレンを後にした。