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ぞくデビ  作者: Tetra1031
102/524

第百二話 水もの

まだ時間があるので

市内をブラブラした。

杖用の素材やクリスタルなどを

物色して回る。


自宅が気になったが

内壁内にはおいそれと入れない。


ストレガの奴もネルドに行きっぱなし

ヨハンはもうこの世にはいまい。

行ったトコロでもぬけの殻

もしかしたら人手に渡っている可能性もある。

ヨハンが去り魔導院の院長なら

あの家に居続ける利便性は無い。


「うん、俺なら売っぱらうな」


少しだけ

いや

かなり寂しいな。


気がつけば内壁に近づいて来て

しまっていた。

我ながら未練がましい。


内壁に隣接する様に見慣れない

大きな建物がある。

気になるので足を伸ばしてみた。


近づくにつれ、同じ制服に身を包んだ

若者をよく見かけるようになった。


ガルド学園だ。


以前、あの辺は何があったか

思い出せないが

かなりの広さが開拓されている。

立ち退きなどもあったに違いない。


内壁内に住居を持つ講師が通い易いよう

設計されているのだろう。

ベレンの中枢を担う者が多く居住する

地域をバックに学園は

まるで背負って立っているかのようだった。


「あれぇアモンじゃないか」


通りがかった馬車から不意に話しかけられた。

振り返れば観光用馬車からミカリン達が

俺を見ていた。


「ここは見て置きたくてな。」


疲れた寝かせてくれ

そう言って断ったのに出歩いている。

ツッコミが来る前に防衛線を張ってしまう。

後ろめたく感じなくても良さそうだが

なんか今の俺はナーバスになっているのか。

やはりオリジナル俺の情報は

色々と心身に来るのだ。

情報が多すぎて整理しきれていない。

それで落ち着かないのかも知れない。


「はは、じゃ合流しちゃおうよ」


変な咎めも無く

あっさりと明るく受け入れられた。


そうだな

こういう時は

自分で考えて行動するより

何かに身を任せている方が良いだろう。


俺は提案に乗った。


観光馬車は予想外に楽しく

俺達は盛り上がった。

知っている様で知らない事も多く

行っていない場所も大量にあった。

情報として見ても大収穫と言えた。


最初から乗っていれば良かった。


いや

オリジナル俺との遭遇を逃すのは

勿体なさすぎだ。

だから、これでベストな行動だったんだと

自分に言い聞かせ

後はすっかりただの観光客をして楽しんだ。


夕飯もオススメ料理が食える場所まで

エスコートされた。


ミカリンは断然こっちの方が

魔族料理よりイイと喜んだ。


アルコはどっちも美味しいと言っていた。

本当にこの子は手が掛からない

もしかして何か無理して我慢しては

いないかと心配したが

食いっぷりを見る限り

それは杞憂だった。


ブリは材料から調理法まで

もう分かったようだ。

シェフ側にしてみれば嫌な客だ。


「うわっ!」


突然ミカリンが声を上げた。

見てみれば、びしょ濡れだ。


「あら、ゴメンなさい」


落としたカップを拾いながら

水を掛けた犯人が謝罪した。

ガルド学園の制服だ。

18歳くらいだろうか上級性っぽく見えた。


「本当に御免なさいね」


そう言いながら、その女性は

懐からハンカチを出して

ミカリンの顔を拭きに掛かる。


「あー大丈夫だよ」


そう答えるミカリンだったが

大丈夫では無い事態に転がって行った。


「あらー黒い顔が綺麗にならないわー」


その女性のバカにしたような響きのある

言葉に、仲間だろうか同じ制服を着た

隣のテーブルの男女数人が笑う。


差別か。


確かにバルバリスの一般人の多くは

元の世界で言う白人

アングロサクソンや北欧系が多く

褐色の肌の者は見かけるには

見かけたが皆、奴隷だった。


「奴隷が出入りするなんて

この店も落ちたな」


男女の中の誰かがそう言っているのが

聞こえた。


「奴隷だと?!」


俺はドスを効かせて言ったつもりだったが

いかんせん声変わり終わってない

なんか甲高い声になってしまい

間が抜けた。

クソ恥ずかしい。


「奴隷だよ。主さま」


濡れたままミカリンは笑顔で言った。

自虐でもヤケクソでも無い

こいつは基本的に

俺より器がデカいんだっけ。


「あ、そうか。」


そう言えばミカリンは奴隷だった。

すっかり忘れていた。


笑う俺とミカリン。

しかし

残りの二人はそうはいかなかった。


ブリは指先をクルクルと動かすと

ミカリンを湿らせていた水分を

空中にまとめ始めた。

見る見る乾燥していくミカリン。


「あーブリッペありがとう」


ミカリンは普通に受け止めていたが

俺を含めて、からかって来た連中は

その現象に目を丸くしていた。


スゲー

流石、水系大天使。

受肉で人間なのに

呪文の詠唱無しで水分子を

自在に操っている。


ブリッペを賞賛しようと

俺はブリッペを見て声が喉で止まった。


ふんわかした表情のブリッペが

見た事も無い表情だ。

額に青筋が立っている。


激オコですわ。


ブリッペはそのまま

デコピンのような仕草をすると

水の球体は水を掛けた犯人の女性に

飛んでいき顔面に炸裂した。


「おい、アバズレ

面白い事するじゃないか

覚悟しろよ」


声も普段の甘ったるい声じゃない

ドスが俺より効いてる

おい

ブリッペ

お前の方がアバズレっぽいぞ。


「何をしやがる!」


テーブルの方の仲間

その中でも体格の良さそうな男が

席から立ち上がった。


バキョキョ!!


その途端、耳障りな金属音が鳴り響く

車をキューブ状にする解体工場の音だ。

音源を見てみるとアルコが

料理を蓋する半球状の・・・なんだっけ

クロッシュだ。

それを片手でゆっくりと握り潰している。

わざと勢いを付けない。

瞬発力無し純粋な握力で潰している。


「マスター。彼等を潰す許可を」


こっちも激オコだ。


いいなぁミカリンは人気者だ。

周囲から良い恐怖が入り込んで来る。


「二人とも止めなよ。折角、主様と

楽しい食事なのにさぁ。僕は

水を掛けられる位なんでも無いよ」


水を掛けられた事に怒ってはいないが

場の空気を戦慄させた二人の脅しに

腹を立てている様子のミカリン。


変なオーラが出てる。

ミカリンとブリッペの戦意が

急速に縮こまっていくのが分かった。


「えっミカリンの為に」


瞬間でいつもの調子に戻ったブリッペは

焦って言った。


「僕の為?違うね

自分勝手な自分の気分で怒った」


うわ

怖い

おいおい、お前の事が大事が故の

怒りだろうが

何か面倒くさそうな事になって来たぞ。


ふとアルコを見ると

焦りながら潰したクロッシュを

元に戻そうとしていた。

かわいい。


さて

どうするか


三人とも、それは思っている様で

俺に最終判断を委ねて来た。


「主様どうする?」

「どうしよう」

「マスター指示を」


俺はゆっくりと席から立ち上がった。


「全て水に流す!!」


ちょっと残念そうな表情の

アルコとブリッペ。


ほっとする学院連中。


変な表情になるミカリン。


流石だなミカリン。

俺の心の狭さを知っているな。


俺は続けて叫んだ。


「物理的にな!!!」


ストレージから簡錫を取り出すと

高速でない、本格詠唱で

暴走陣を形成し続けて

出せる限り最大出力の

ウォータシュートで

俺は文字通り全ての人と

設備を水で流してやった。


すっとした。



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