表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第1章
9/34

人神騎士団と悪魔族

 『人神騎士団』――『人神教』という宗派がある。

 人族の中で最大の宗教派閥だ。

 人神教は人族こそが最も偉大な種族という教え故、亜種族への差別意識が高い宗教だ。

 その中でも悪魔族に対しては非常に高い忌避感がある。

 亜種族から人族を守るという名目で『人神騎士団』という子飼いの武力組織を所有している。

 『人神騎士団』には世界中に10個の大支部があり、各大支部最強の者を集めた特殊部隊『聖騎士団』を組織している。

 『聖騎士団』に所属する者は人神教で崇める神から神名を与えられし者、神名持(レリジアスネームド)と呼ばれ他と一線を隔す強さを保持している。


 ーー


 水晶の街クリスタルティアには集会場と呼ばれる大広場がある。

 いつもは何もない無駄に広いだけの広場なのだがその日は様子が違っていた。

 大きな処刑台――広場に集まる人が注目できるよう大きく高く作ってある。

 

 そしてその隣にはフェンスで囲まれた大きな十字架。

 罪人を磔にし、放置することでその罪を悔い改めさせる装置だ。

 その大きな十字架には黒いボロボロの衣服を纏う金髪の長い髪の少女が磔にされている。

 普通の者ならこんな幼い少女になんと惨いことをと思い、目を背けてしまう光景だろう。

 しかし、その少女の頭からはヤギの角が2本生えていた……


 「やってらんねー」


 薄い月明かりに照らされる夜、静寂に包まれる大広場にそんな声が響いた。

 つまらなそうに叫ぶ黒いローブの男。

 「なんで僕がこんなことを……」とぼやいている。

 タナカだ。タナカは「はぁ」と一息ため息をつき、これまでの経緯を思い出していた……


 ーー


 「「1日で金貨10枚ッ!?」」


 仰天したような顔で声を揃える黒髪の少女と銀髪の女性。

 「そうだ」と茶髪のロングヘアーの騎士風の女性が真面目な顔で頷きながら相槌を打つ。

 タナカは「やれやれ」と言いつつ、騎士風の女性に内容の説明を促した。

 騎士風の女性ことレオフィーネは口を開いた。


 「先日、近隣の街で『悪魔族』を捕縛した。何でも薬屋で薬を盗もうとしたところを店主に捕まったらしい。我々はそれを引き取ったというわけだ。そこで本部から通達があってな。この街に我が人神騎士団の威を知らしめろというのだ。つまり処刑をこの街で行えということだな。そこで一晩十字架に磔にし、悪魔族の脅威をこの街の者に知らしめ、その後処刑することになった」


 「なるほどな」とタナカは呟く。

 クリスタルティアは人神教の信仰者が多い。

 そこで人神教子飼いの『人神騎士団』が悪魔族を処刑したとなれば、信仰者はより熱狂的な信者になるだろう。

 所謂プロパガンダだ。

 「どこの世界でもやることは一緒か……」とタナカはため息をつくとレオフィーネが続きを話し出した。


 「そこでだ。もし万が一でも悪魔族を取り逃がしたりしたら大惨事だ。『人神騎士団』は信用を失ってしまうだろう。そこでだ。この街の優秀な冒険者に警備を一晩頼もうと思ってな。私達は今日この街に来たばかりだ。一晩ぐらい体を休めたい。処刑に備えてな。そういう訳で警備を一晩頼めないか? 先ほども言ったが一晩でドール金貨10枚だそう!」


 タナカがまぁ今はそこまで金に困ってるわけじゃないし、やんわり断るか……と思っていると


 「「やりますッ!!」」


 エミルとミカリーナが速攻で承諾してしまった。

 顔が引きつるタナカ。

 レオフィーネは「では頼んだぞ!」といいお供の3人の騎士を引き連れ去って行ってしまった。

 「頭痛がする」とタナカが手で目を覆っていると、


 「では、後は頼みました」

 「よろしくね! タナカ君!」


 と言い放つエミルとミカリーナ。

 タナカは「おい! ふざけんな!!」と二人を引き留めようとするが……


 「タナカはゾンビでしょう。睡眠が不要なはずです。私は歌劇を見てお眠なのですよ」

 「やっぱり適材適所だと思うのです。エヘヘ……」


 「フフフ……今夜はいい夢が見れそうです」と言い残し去っていくエミル。

 それを追うようにして「エヘヘヘヘヘ……」と言い残しミカリーナも去っていった。

 タナカの「なんでこうなった……」という虚しい呟きがクリスタルティア冒険者ギルドに響いた。


 ーー


 「全くよぉ……」


 タナカは改めて思い出すとイラッとしたのか乱暴に呟く。

 話し相手がいなくて退屈なのかタナカは悪魔族の少女を見つめた。

 すると悪魔族の少女もタナカを見つめていた。

 自然に二人の目が合う。

 タナカは暇つぶしには丁度いいかと口を開いた。


 「お前悪魔族なんだって? なんでわざわざ人族が多い街中で薬なんて盗んだんだ? 悪魔族の領地でひっそりと暮らしていればこんな目に合わなかっただろ?」


 タナカはレオフィーネの話を聞いて疑問に思っていた。

 何で人族の領土の街中でわざわざ騒ぎなんか起こしたのかと……


 静寂が二人を包む。


 タナカがやっぱり喋りたくないか……と思っていると、悪魔族の少女が虚ろな紅い眼でタナカを見つめ、ポツリポツリと話し出した。


 「お母さん助けたかった……」


 そう呟くと少女は俯く。金髪の長い髪が少女の顔を覆い隠す。


 「お母さん……?」


 タナカは問い返す。


 「私の村……病気が蔓延してる……お母さん……病気にかかった……私が助けないとって思った……でも村に薬がないから村を飛び出した……」


 そういえば悪魔族は種族的に魔法や状態異常に対する耐性が生まれつき高いって話だったな…だから薬が必要ないから薬を作れるものがいない。

 話は繋がるな……とエミルから聞いた知識をタナカは思い出す。


 「人族は薬を作るのが得意って聞いた…だから人族の街に行った……でもお金なくてそれで…それで……グスッ……」


 ふーむ……とタナカは思う。

 魔族の中でも特に残虐な一部の種族が悪魔族と呼ばれていて、全ての魔族が悪い種族だと思っている人も多いから迷惑してると、エミルが言っていたことを思い出すタナカ。

 エミルから聞いた話と大分齟齬があるなとタナカは思った。

 少なくともこの子は母親を助ける為に盗みを働いたのだから悪ではないのではないか……と。


 「お願い! ……私はもうここで死んでしまう……けど……お母さんを助けたい……村を助けたい……だから私の代わりに村を救って……! ……私の体には魔核がある……私の体から持って行っていい……お金になるはず……だからお願い! ……グスッ」


 「…………」


 何の返答もないタナカを見て、絶望したようにうなだれる少女。すすり泣く声だけが静寂に響いた。


 ーー


 「お疲れ様ですタナカ!」

 「タナカ君お疲れ様!」


 夜が明け大広場に人が集まり始めると、フェンスの前で警備しているタナカにエミルとミカリーナが労いの言葉をかけた。

 「全くだよ!」と強めの口調で返すタナカ。

 十字架に貼り付けられている悪魔族の少女を見てエミルとミカリーナが話し出す。


 「うわッあんな幼いサキュバスを捕らえて磔なんてドン引きですねぇ~」

 「流石、人神教って感じですね。やることがえげつないです」


 「え?」とこぼすタナカ。

 「はい?」「どうしました?」とエミルとミカリーナが反応する。


 「お前らって悪魔族嫌いなんじゃないの?」


 訝しげにタナカが二人に問いかける。

 二人は「何言ってんの?」というような顔をして問いに答えた。


 「あの子はサキュバスって言って人の生気をちょっと吸うぐらいですよ。サキュバスは生気を吸わないと死んでしまいますからね。生気の財源を殺したりしませんよ。そうですね……あの子は悪魔族じゃなくて魔族です。人族は見た目が自分達と少し違うだけですぐに悪魔族悪魔族と騒ぎ立てますからね」


 そうだったのか……とタナカは思う。

 でももう一つ疑問が残る。


 「ミカリーナって人神教でしょ? 信仰心薄くない?」

 「私はモグリですよ。エルフの里にいた時は森神教って宗教に入ってましたし……宗教変えると働き口が増えるんですよね。エヘヘ……」


 全く悪びれた様子もなくミカリーナは堂々と言い放った。

 「やっぱりこいつ……」と諦めたようにミカリーナの顔を見てがっかりするタナカ。

 3人が何時ものごとく平凡な話をしていると白い騎士風の装束に身を包む一団が大広場に現れた。

 人神騎士団だ。

 豪華な装飾が付いた装束を身に纏う女性レオフィーネが清涼な声で叫んだ。


 「悪魔族を処刑台に引き立てろ!!」


 レオフィーネが叫ぶと人神騎士団の団員達数人が、十字架を横に倒し、極太の鎖で雁字搦めにされているサキュバスの少女を十字架から解いていった。

 人神騎士団の団員に両腕を掴まれ引きずられていく少女。

 手枷は外してもらえなかったようだ。

 その様子を見てタナカは呟く。


 「後よろしくね! 僕ちょっとお腹痛くなっちゃたから抜けるよ!」

 「ちょっ! 待ってくださいタナカ!」

 「待ちなさいタナカ君!!」


 タナカは「すぐ戻るから~」と言いつつ人込みを掻き分けていく。

 悪魔族の処刑を見ようと広場には多くの人が集まっていた。

 邪魔くさいなと思うタナカ。

 何とか人込みを突破し急いで暗い路地裏へと駆け込む。


 「やるしかないな……」


 暗い路地裏に入ると一言そう呟き、アイテムストレージからある物を取り出す。


 タナカの手には不気味な仮面が握られていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ