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僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第1章
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6人の英雄と不死王

 『歌劇』――それは大衆娯楽とされ世界中の人々に愛されている。

 この世界では生前タナカの生きていた世界よりひどく文明レベルが劣るため、テレビやインターネット等が当然ない。

 その為娯楽の要素が少なく、少ない娯楽の一つとして『歌劇』は大変人気がある。

 しかしその人気故鑑賞料は非常に高い。

 その為貴族や大商人等の「金持ちの娯楽」となってしまっている。

 この娯楽に手を出せることは一つのステータスである為、憧れる者も多い。


 ーー

 薄暗い大部屋。

 中央には大きなステージが有り、赤い垂れ幕が垂れ下がっている。

 そのステージと向かい合うようにして敷き詰められている赤い座席。

 ステージに一番近い席の列が最も低い位置にあり、離れれば離れるほど位置が高くなっている。

 前の座席に座る者で視界が遮られないように工夫しているのだろう。

 

 その最前列に座る3人の男女。

 二人の女性は今か今かと開演を待ちどおしく思っているようでソワソワしている。

 それと対照的に黒いローブの男は「ふわぁ」と欠伸をして大変につまらなそうな顔をしていた。

 タナカとエミルとミカリーナだ。

 何故3人がこんな所にいるかというと……


 「「歌劇を見に行きましょう!!」」


 エミルとミカリーナがそんなことを急に言い出した。

 先日倒した「ヨルムンガンド」。

 なんとその魔石には金貨30枚の値が付いた。

 エーン換算に直すと300万エーンだ。

 

 この金額をギルドの買取嬢に言われた時、崩れ落ちそうになる意識を必死に気合で耐えたタナカは立派であろう。

 受注していたギルドの依頼報酬も合わせると350万エーンもの大金がタナカ達一行に舞い込んできた。 当然入ってきた大金を見て気が大きくなってしまう3人。

 Bランク昇格祝いとして何かやらないかという話になり、エミルとミカリーナが希望したのが『歌劇』だった。


 「僕こういうの興味ないんだよ……」


 「ふわあ」と再び欠伸をしながらそんなことを呟くタナカ。

 女性陣二人からは「この男絶対モテませんね」とジト目を向けられている。

 ジト目を気にする素振りも見せずタナカが3回目の欠伸をしようとした時、カシャンっとステージにスポットライトが当たった。


 「大変お待たせしました。今よりモベラ座の公演を開始したいと思います。演目は『6人の英雄と不死王』。それではお楽しみください」


 黒いシルクハットに黒いスーツを着込んだ精悍な顔つきの青年が手をお腹の前に出し貴族の様な一礼をすると赤い垂れ幕がゆっくりと上がっていった。



 ーー


 『6人の英雄と不死王』


 昔々、1000年も昔のお話。この世は争いに溢れていました。


 平地や高原に居を構えその高い知識で新しいものを次々と生み出す『人族』。


 森を住処とし、生まれ持った肉体の強さが自慢の『獣族』。


 海や湖、水があるところを縄張りとし、水に対する強い適性を持つ『海人族』。


 エルフや森妖精(ドルイド)といった、自然の力を引き出すことに長けた『森人族』。


 魔物と共存し、他種族から生気を奪うことができる『魔族』。


 そして全ての種族よりも優れた知恵と力を持ちつつも世界に干渉しない『竜人族』。


 この6つの種族に分かれ常に争いが起こっていました。


 続く戦い。積みあがる屍。世界に混沌が溢れる日々。


 そんなある日世界は更なる危機にさらされることになります。


 『不死王』の降臨です。


 『不死王』は積みあがる死体に仮初の命を与え、自らの配下にします。


 膨れ上がる死者の軍勢。拡大する争い。いくつもの町が戦火に晒されます。


 それを見かねた最強種『龍人族』がついに動き出します。


 蹴散らされる死者の軍勢、収まり始める戦火。ついに『不死王』の命運も尽きたと思われたその時……


 『不死王』は最凶種”魔女”を召喚します。


 5人の魔女を従える死の王。圧倒的な強さを持つ『竜人族』でしたが、一人また一人と無残に殺されていきました……。


 世界の命運は尽きた。そう思われたその時。


 6人の英雄が立ち上がりました。


 体の一部に『聖痕(スティグマ)』を持つ6人の英雄達。

 

 種族や能力は全く異なる6人でしたが協力し、ついに『不死王』とその配下の5人の魔女を追い詰めます。


 しかし『不死王』と魔女達は強く、6人の英雄は逆に罠にはめられ窮地に追い込まれてしまうのです。


 6人の英雄は決意しました。


 「世界の為にこの命を投げうとう」と……。


 6人の英雄は自らを生贄にし、最凶種魔女の頂点に立つ存在『暗黒の魔女』を召喚するのです。


 そして『暗黒の魔女』と『不死王』と5人の魔女は相打ち世界に平和がもたらされたのでした。


 ーー


 「やっぱり暗黒の魔女はカッコイイですねぇ~」


 歌劇を見終わり夕暮れの空に紅く照らされながらタナカ達一行は街道を歩いていく。

 エミルは愛用の黒い長杖を取り出し「我が深淵なる魔力において……」と厨二病台詞を言い出し暗黒の魔女ごっこをしだした。


 「やっぱり一番は森人族の英雄様ですよ!」


 ミカリーナは光魔法でゾンビ達を次々と浄化していった森人族の英雄に心打たれたようだった。

 まあ……役者が上手いだけであって実際のところはわからないけどなと、タナカは苦笑いする。


 「なぁ、6人の英雄と不死王って実際にあった話なのか?」


 タナカは暗黒の魔女ごっこをしているエミルを視界から追い出しミカリーナに尋ねる。

 うーんと手で顎を触りながら考えるミカリーナ。


 「実際のところどこまで本当かわからないんですよね……。一応、史実に基づいて創られたってことになってますよ。今も尚、当時の戦いの爪痕が残っている場所も世界中にたくさんあるみたいですから」


 そういえばこの街クリスタルティアも「氷の魔女」が古の大魔法を放ったから氷漬けになっている部分があるんだっけな……とタナカはこの街に来たばかりの頃聞いた話を思い出す。

 何か印象に残る話だったなとタナカが考え込んでいるとミカリーナが話しかけてきた。


 「それより、折角こっちまで出てきたので新しいクエストが貼りだされていないか見に行きませんか?」


 歌劇を見た劇場は街のメインストリートにある。

 因みに冒険者ギルドもメインストリートの一角だ。

 タナカが寝泊まりしている『月夜の白狼亭』はメインストリートからかなり外れた街の外れ部分にある。

 因みにミカリーナとエミルも『月夜の白狼亭』利用者だ。

 タナカとは別室だ。宿は基本的に街のメインストリートに近づけば近づくほど高額になってゆく。

 Bランクに昇格したし、もう少し中心街に近い宿に移ってもいいかもと思っているタナカではあったが、『月夜の白狼亭』の料理は中々旨く離れられないようだ。


 「新しいクエストでがっぽり稼いで次は『英雄マクスベルと蛇神の魔女』を見に行きましょうよ! エヘヘ……」


 こいつ……完全に嵌まってやがる!とミカリーナを悲しい視線で見つめる。

 「はぁ」と一息ため息をつき、冒険者ギルドへ向かうタナカであった。


 ーー


 冒険者ギルドに着くと、ザワザワと騒ぎが起きていた。

 いつもはあまり活気のないクリスタルティア冒険者ギルドだが、いつもとは全く違った熱気を感じるようだ。

 タナカは「何かあったのか?」と近くにいた冒険者に尋ねてみた。


 「人神騎士団が来ているんだよ! しかも神名持ち(レリジアスネームド)だぜ!!」


 人込みを掻き分け騒ぎの中心にタナカは行くと、そこにいたのは銀の十字のロゴが入った白い騎士風の装束に身を包む4人の男女がいた。

 その中でも一際豪華そうな装飾が付いている装束に身を包む茶髪のロングヘアーの女性が騒がしく叫んでいた。


 「私は”神速剣”のレオフィーネ!! この度優秀な冒険者を探している。Bランク以上の者は名乗り出ろ!!」


 厄介ごとだこれ……と思い静かにその場を離れようとするタナカ。


 だが……


 「我が名はエミル!! 深淵なる魔力を持ちし大魔導士。この街最高位のBランク冒険者だ!!」


 タナカはその場に崩れ落ちた。

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