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僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第1章
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ヨルムンガンド

 『進化』

 ――魔物は生存競争の激しい生き物だ。

 自然界で生息しているため常に外敵に狙われることになる。

 

 また魔物の素材は文明の発展には欠かせないものである為冒険者に狙われることも多い。

 ある者は同じ魔物に。

 またある者は冒険者に。

 生まれた瞬間に同族に捕食される者すらいる。

 

 しかし、稀に生への渇望が異常に高い個体が発生することがある。

 異常な生への渇望は同種の種族、魔物、冒険者を次々と捕食することで自身を強靭な肉体へと作り変える。

 

 その個体も元は『毒蛇(ポイズンスネーク)』という脆弱な魔物としてこの世に生を受けた。

 『キアナの縦穴』には無数の魔物がいる。その個体は自身の生存の為次次に周囲の魔物を食らい自身を強靭な生物へと変化させていった。

 そして……


ーー


 「なんでこんなところにあんな化け物がいるのですかッ!?」


 ミカリーナが悲鳴にも似た叫びをあげる。

 『ヨルムンガンド』はAランク冒険者でも討伐に失敗し命を落とす危険がある程の魔物だ。

 決して中級冒険者御用達の『キアナの縦穴』、それも3階層程度で出てきてよい魔物ではない。

 

 あまりの重圧と恐ろしさにミカリーナは体が弛緩し動けないでいた。

 迫り来るヨルムンガンドの牙。

 ミカリーナは噛み殺される恐怖から逃れるように目を閉じる。

 そして……


 「危ねぇッ!!」


 タナカはミカリーナを突き飛ばした。

 突き飛ばされるミカリーナ。

 地面に突っ込むヨルムンガンド。

 けたたましい砂ぼこりが舞う。


 「調子に乗るなよ!蛇風情がッ!!」とタナカは叫び、鉄の剣を引き抜いてヨルムンガンドの頭部に振り下ろした。


 ガキンッ!!


 「なっ!?」


 固い金属と金属がぶつかり合うような音が響く。

 ヨルムンガンドは『ギシャア』と一鳴きし頭部をプルプル振るうとタナカを睨む。

 そして頭部でタナカを薙ぎ払った。


 ドガンッ!!


 「グワッ」

 「タナカ君!!」

 「タナカッ!!」


 タナカはあまりの衝撃に吹き飛ばされるが、地面をくるりと後転し、すぐに臨戦態勢へと戻る。

 タナカは「大丈夫だ」と叫ぶとヨルムンガンドを注視した。


 ーー

 ヨルムンガンド Lv42:蛇種の魔物が上り詰めた最上位種の一種。『石化吐息(ストーンブレス)』と『強酸牙』を使いこなす。体皮は硬魔石の強度も持つ『黒石皮(ブラックダイヤモンドイエロ)』で覆われ、魔剣でなければ切り裂くことができない。頑張れタナカ。ぷ。


 ーー


 ――とタナカの視界に表示される。

 睨みあうヨルムンガンドとタナカ。

 ヨルムンガンドの口からは唾液が滴り落ち地面をジュウーと溶かしている。


 (不死王の剣を使えば倒せるけど……。こいつらにあまり実力を見せたくないんだよなあ。ミカリーナは悪知恵が回るから無理難題のクエストとか受注してきそうだし……エミルはアホだし……うーむ……)


 ミカリーナはともかく何故かエミルまで心の中で罵倒しつつ、ヨルムンガンドを睨むタナカ。

 そんなタナカに業を煮やしたのかヨルムンガンドはタナカへと突っ込んでくる。

 そして『強酸牙』で噛みついた。


 ガキンッ!


 「グウウッ……!」


 鉄の剣で受け止めるタナカ。

 ヨルムンガンドの口から滴り落ちる強酸の唾液がタナカの顔をジュウゥーと溶かしていく。

 ズルズルズル……タナカはヨルムンガンドに力負けし徐々に徐々に後ろ後ろへと後退させられていく。

 

 後ろに迫るのは底の見えない深い亀裂。

 「やべえ……」タナカは掻かない汗が頭部から落ちてくるような幻覚を感じつつ踏ん張る。

 そして……


 『ギジャアアアア!!』


 ヨルムンガンドは悍ましい咆哮を上げると一瞬タナカと距離をあけグルンと回転する。

 遠心力によって勢い付いた無数の棘が付いている尻尾がブオンッと風を引き裂きタナカに直撃した。


 バギャン!!


 「ウワアアアアアッ!!」

 「た、タナカア!!」

 「タナカ君!!」


 吹き飛ばされたタナカは底の見えない闇に落ちていった……。

 『ギシャッ』と厄介そうな邪魔者を始末したヨルムンガンドはエミル達へと振り返る。

 ズルズルと巨大な体躯を引きずりエミル達に近づいていくヨルムンガンド。

 エミルとミカリーナは恐怖で蛇に睨まれた蛙になっている。

 ――動けない。

 そしてエミル達を見下ろしながらヨルムンガンドは大きな口を開いた。


 「アワワワワワワワ……もうダメです。」

 「ハヒャアアア……神よお助けください!」


 死を覚悟し、抱きしめあう二人。

 ヨルムンガンドの大きな口が二人を飲み込もうとした瞬間……


 ドゴンッ!!


 『ギャシャアアア!!』


 ヨルムンガンドは強烈な衝撃で吹き飛び岩壁に激突した。

 恐る恐る目を開ける二人。

 そこには黒いローブに身を包んだ黒髪の仮面の男が立っていた。


 「あなた様は!!」

 「あの時の……!」


 話しかけてくる二人を無視し黒い刀身の剣を引き抜く仮面の男。

 頭部をプルプル振るい『ギシャアア』とうめき声をあげるヨルムンガンドを睨む。

 相当痛かったのか血走ったような眼で仮面の男を睨むと『ギシャウザアアッ』と唸り声をを上げながら仮面の男に突っ込んできた。

 今までとは桁違いのスピードでヨルムンガンドは噛みつく。


 タンタンタン……


 「すごい……」

 「綺麗……。」


 まるで美しい舞でも踊るかのように、ヨルムンガンドの噛みつき攻撃を全て躱す仮面の男。

 「寄生虫作戦」で様々な冒険者や旅人とパーティを組んできた二人でさえも見たことのない様な華麗な動きに目を奪われていた。

 二人は熱い視線で仮面のとこを見つめる。


 『ギジャアアアア!!』


 攻撃が当たらないことに業を煮やしたのか、ヨルムンガンドは仮面の男と距離を取り、大きく息を吸い込んだ。

 胸部が尋常じゃない程膨らんでいく。

 そして……


 『ウアバアアアアア!!』


 灰色の吐息が吐き出された。

 仮面の男の視界を覆い尽くすほどの灰灰灰。

 触れる者全てを石化させていく死の吐息。

 「受けてはダメです!」「逃げてくださいッ!!」エミルとミカリーナが悲鳴にも似た叫びで仮面の男に叫ぶ。


 ブオンッ!!


 「なッ!?」

 「ありえません……」


 仮面の男は剣を一薙ぎするとその風圧で全ての吐息は天井へと方向を変え吹き飛んでいった。


 「もう終わりか……?」


 奈落の底から響くような悍ましい声でヨルムンガンドへと問いかける仮面の男。

 『ギシャア』――「マジかよ……」と言っているような呻きを上げるヨルムンガンド。

 「もう終わりか……」そう一言呟き黒い刀身の剣をヨルムンガンドへと突き付ける仮面の男。

 美しい黒の刀身には怯えたような眼差しを仮面の男に向けるヨルムンガンドの姿が映し出されていた。 トンッと一足で踏み込みヨルムンガンドへと仮面の男は接敵する。

 そして……


 ザンッ!!


 『ギジャアアアア……』


 ヨルムンガンドの肩口から袈裟切りに黒い一閃が走った。

 ズズーンと力なくヨルムンガンドは地面へと沈んでいき、冷たい躯へと成っていった……。

 黒い男は徐に剣をヨルムンガンドの死体の頭部に突き刺し、ヨルムンガンドの頭部に埋め込まれていた紫色の魔石を穿り出した。

 ズボッと紫色の魔石を取り出すと黒いローブでヨルムンガンドの体液を拭い綺麗にする。

 そしてエミル達へと向き直った。

 コツコツコツ……エミル達へと仮面の男は近づいていき口を開いた。


 「これをやろう」


 仮面の男はエミル達へヨルムンガンドの魔石を渡そうとする。

 「受け取れませんよ」とエミル。

 「命を助けてもらった上にそんなものまで……」と両手を胸の前でイヤイヤと振るミカリーナ。

 ――仮面の男は「ふぅ」と一息吐く。


 「我はお前達に期待している」


 「なんですと……」とびっくりしたような顔をするエミル。

 「期待だなんてそんな……」と顔を赤らめ、両頬を手で覆いイヤンイヤンするミカリーナ。

 そんな二人を見つめ仮面の男は口を開く。


 「お前達には才能がある。この我にも匹敵するような……な。その魔石を使って自分たちの修練に励め」


 (いくら何でも弱すぎるんだよお前たち二人は! 寄生ばかりしてないで自分達を強くしなさい! その魔石を売って装備を整えるなり、新しい武器を作るなり、クリスタルティアで貼りだしてあった「これで今日から君も一人前魔術師養成セミナー」を受けるなりしてくれ! 僕がいくら強いッていったって守り切れない事だってあるんだからいい加減「寄生虫」は卒業してくれよ! そしてあわよくば僕を楽させてくれ……)


 ――と仮面の男ことタナカは考えていた。

 正直自分で売って金にしたいと思っていたが「必要経費だ。将来への投資だ」と自分に言い聞かせ諦めていた。

 仮面の男はヨルムンガンドの魔石をエミルに手渡すとヨルムンガンドの死体に近づいていった。

 そして『不死王の杭』を取り出すとヨルムンガンドの死体に突き刺した。

 「痛ッ」と聞こえてきそうな感じでヨルムンガンドの死体がビクッと一瞬痙攣すると黒いモヤがヨルムンガンドを包み込む。

 そして黒いモヤが晴れるとそこには……


 『ギジャアアアア!!』


 殺したはずのヨルムンガンドがゾンビとなって動き出していた。

 仮面の男はヨルムンガンドの頭部に飛び乗る。


 「待ってください!!」

 「お名前は何ですか!?」


 エミルとミカリーナが声を上げて引き留めるが、仮面の男は無視した。

 そしてそのまま、ヨルムンガンドと共にい大きな岩影に飛び込んで消えていってしまった。

 『不死王のローブ』により使えるようになるスキルの一つ『影移動(シャドウムーブ)』だ。

 一定の範囲内の影から影へと移動できる便利スキルだ。


 「死ぬかと思ったよお~」


 仮面の男が消えるとタナカが深い亀裂から顔を出した。

 

 「「…………」」


 タナカの奇跡の生還に全く反応のない二人。

 どこか熱にうなされたようにホワーンとなっている。

 タナカは二人に近づき目の前で手を振るが全く反応がなかった。

 仕方がない……


 「ワッ!」

 

 「何ですか!?」

 「ヒャッ!? びっくりしました!!」


 二人の耳元で叫んだ。

 二人はやっと現世に意識が戻ってきたようだ。

 「なんだタナカですか……」とジト目をするエミル。

 「タナカ君生きてたんですか」と興味の欠片もなさそうなミカリーナ。

 「頑張って崖をよじ登ってきたんだよ!」と言うタナカに「そうですか」とおざなりの返事を返す二人。

 「やるせねえな……」とぼやきつつ、タナカ達一行はその後無事「毒大蛇」の肝を入手し、クリスタルティアへ帰っていった。


 ーー


 「マジですかッ!?」


 クリスタルティアに帰ってきて受付に素材を売りに行ったタナカ達を待っていたのはこの一声だった。 クリスタルティア冒険者ギルドの素材買取カウンターの受付嬢は素っ頓狂な声を上げた。

 紫色の髪がよく似合うクール系のお姉さんと言う感じだが、クールの欠片もないびっくりしたような顔をしている。

 受付嬢は「マスターマスター!」と衛生兵を呼ぶ兵士のようにギルドマスターを呼び出した。

 するとそこにはダンディな黒い髭がよく似合う筋骨隆々のナイスミドルがタナカ達一行の前に現れた。


 「これは君たちが倒したのかね!?」


 ナイスミドルはヨルムンガンドの魔石を握りしめ、タナカ達に突き付けながら言い放つ。

 眼をカッと見開きタナカ達一行を睨む。

 普通に怖い。

 若干目が血走っているように見える。

 タナカが「あーそれは……」とギルドマスターに説明しようとするとミカリーナの肘打ちがタナカの鳩尾に突き刺さった。

 「グホッ!!」と呻きうずくまるタナカ。


 「当たり前じゃないですかぁ」


 「エヘヘ」と悪そうな顔で笑うミカリーナ。


 「我が深淵なる魔力の前では何人たりとも無に変える」


 黒い長杖をクルクルと回し決めポーズを取りながら自信満々に言い放つエミル。


 (こいつら……)


 タナカは心の中で罵声を吐きつつもあきらめたように寂しく笑う。

 すると筋骨隆々のギルドマスターが大きな声で叫びだした。


 「Bランククエストを難なくこなすだけではなく、Aランクですら討伐を失敗すると言われているヨルムンガンドすら討伐してしまうその手腕。そんな低ランクで遊ばせておくには実に惜しい人材だ。まさかこれほどの才能が埋もれていたとは……。よろしい! 君達は今日から全員Bランクだ!! 新たなクリスタルティア冒険者ギルド最高ランクパーティに栄光あれ!!」


 ――こうしてタナカ達は全員Bランク冒険者となった。


 ミカリーナの「エヘヘヘヘヘ」と言ういつもより「ヘ」の数が大分多い笑い声と、エミルの「我が深淵なる魔力に不可能は無い!!」という厨二病台詞がクリスタルティア冒険者ギルド中に響き渡っていた……。


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