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僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第1章
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シスター辞めました

 キアナの縦穴。

 『水晶の街 クリスタルティア』周辺にあるダンジョンの一つ。

 1000年前『光の魔女キアナ』が古の大魔法を放ちできたとされる大穴。

 現在は無数の魔物が生息してしまいダンジョンと化している。

 ダンジョン内には底の見えない程の亀裂が多数生じており、『キアナの縦穴』と呼ばれるに至った。

 生息する魔物はLv10~20程度であり、中級冒険者にとって程よい狩場であろう。


 世界のダンジョンから 著ダニエル=キース


 ーー


 「シスター辞めました……」


 ミカリーナのこの発言が事の発端だ。

 『タナカのパーティ加入祝い』から2日後、タナカはミカリーナとエミルに冒険者ギルドに呼び出されていた。

 冒険者ギルドは一階建ての所謂平屋造りとなっており、受付カウンターの他、依頼書が貼りだされている大看板が立ち並ぶ看板エリア、冒険者が情報交換をする憩いの場として酒場が併設されている。


 「なんだ? 苛めでもされたのか?」


 タナカは訝しげに問う。


 「違いますよ! えーとですねこれからは冒険者で生計を立てていこうと思いまして、エヘヘ……」


 ミカリーナは困ったように笑う。

 タナカはミカリーナの「エヘヘ……」は何かやましいことがある時に使うと看破していた。

 タナカは口を開く。


 「つまり、新しくパーティに加わった男が意外に強いとわかり、Bランク以上の冒険者を目指すことにした。Bランク以上の冒険者は実入りが大きいからな。僕をうまく使ってBランクに昇格し、楽して大金を稼いでいこう……そういうことかな?」


 タナカの容赦のない突っ込み。

 「ギクッ」と効果音が付きそうな反応をミカリーナとエミルは取る。「ハア」とため息を一つつくタナカ。


 実のところ冒険者は不人気の職業だ。

 冒険者はパーティを組んでいる者の中で最高ランクの者のランクの一つ上の依頼までしか受けられない。

 タナカで例えるならミカリーナとエミルがCランクなのでBランクの依頼までしか受けられない、といった具合だ。

 

 Dランク以下の依頼だけでははっきり言って生活できるような収入は得ることができない。

 Cランクで一般的な商人や労働者と同等の収入を得られる。

 ミカリーナとエミルはへっぽこCランクなのでバイトを掛け持ちしているが……。

 

 Bランク以上になると劇的に収入が増える為、体が動くうちに稼ぐだけ稼いで残りの人生を遊んで暮らす様な冒険者も少なくない。

 命を賭けなければならない職業の割にBランク以上に成れなければ夢のある収入は得られないため無理して冒険者にならなくてもいいよと考える者が多いことを田中は知っていた。


 「酒場で剣を抜いたのは失敗だったな……」


 タナカは小さく呟く。

 あの傷のある男はモッズ、もう一人の男はヘッズといいBランク冒険者だったらしい。

 この街周辺は治安が良く冒険者のレベルが低い為彼らはこの街最高位の冒険者だったようだ。

 

 因みにエミルとミカリーナは戦闘経験がありそうな旅人やよその町から移ってきた冒険者に片っ端から声をかけ、自分達のランク上げをやっていたらしい。

 二人を見かねてモッズとヘッズはランク上げを手伝ってやっていたようだ。

 意外に気のいい奴らなのだろう。

 それに比べてこの二人はまるで寄生虫だな……。救いようがない……とタナカは思っていた。


 「聞きたいんだけど、なんでそうまでしてランクを上げたいんだ? 命の危険がない安全な仕事にでも就けばいいだろう?」


 タナカは不思議そうに聞く。

 実のところクリスタルティアには結構な就職口がある。

 景観の美しさが人気の街なので世界的に見ても有名な観光名所らしく、観光客相手の商売が盛んなのだ。

 えり好みしなければ十分生活できるはずなのだ。


 「私はエルフでして……」


 ミカリーナはそう言うとポツリポツリとこの街に行きつくまでを話し始めた。


 ミカリーナはエルフ、エミルは黒魔族という種族でどちらも人族ではないらしい。

 エルフも黒魔族も森を住処にする種族のようで交遊もあるそうだ。

 

 ある日、ミカリーナは森で転んで泣いているところをエミルが助けてくれたらしい。

 それをきっかけに二人は仲良くなったみたいだ。

 

 ミカリーナはエルフの里、エミルは黒魔族の里の中でそれぞれ落ちこぼれ扱いされていたようだ。

「見返してやる!」決意する二人。

 ある日彼女達は村を飛び出した。

 冒険者になってBigになってやるぜ!……と。

 しかし現実は厳しくなかなかランクが上がらずバイトを掛け持ちする日々……。

 

 ある時、ミカリーナが「よそ者に寄生虫作戦」を思いつきランクを何とかCランクまで上げることに成功するが、そのころには「寄生虫」の噂がクリスタルティアの冒険者連中の中で広まってしまい限界に来ていた。

 

 何とか泣き落としでモッズとヘッズの良心に漬け込み『死者の森』で依頼を手伝ってもらえたが使えないわ、鬼熊に遭遇するわ、仮面の男に遭遇するわで愛想をつかされる。

 

 そんな時にタナカと出会って今に至る……そんな感じだった。……クズだ。


 「類は友を呼ぶか……」と残念そうにエミルを見つめるタナカ。

 「何ですか? やる気ですか?」とファイティングポーズを取るエミル。

 そんな二人を見つめ「エヘヘ……」と悪そうな顔をするミカリーナ。


 「依頼を受けてきました」


 タナカの「ゲボ吐き女」という発言が引き金になり、「言いましたね……」と幽鬼のような顔を浮かべるエミルがキャットファイトを冒険者ギルドの酒場で繰り広げ、周囲から生暖かい視線を向けられていると、唐突にミカリーナが依頼書を出しながら二人に告げる。


 ーー

 依頼書 


 クエスト名: 俺を救ってくれ!!

 依頼主:ブサオ=モテナーイ

 クエスト難度:Bランク

 概要:『キアナの縦穴』に生息する『毒大蛇(ポイズンアナコンダ)』の肝を1つ持ってきてほしい。俺はある日気づいたこの世の心理に。そう顔が不細工な男はモテないということだ……。顔が不細工でも金さえあればモテるよって? じゃあ教えてくれ!! 薬師として大成した俺に恋人の一人もできないのは何故だ!? 金さえあれば……皆そう言って俺を励ますが嘘だ!! 世の中には限界を超えた不細工がいて、そいつらは金を持っていても「流石にちょっと……」なんて言われて女性に避けられるんだ! 誰か解決策を知っているなら教えてくれよ!! ……答えをください。……でも俺は答えを出した。俺は薬師だ。薬を使って女を俺の虜にさせちまえばいい!! そう思ったんだ! 『毒大蛇』の肝から催眠作用が発生し、所謂『惚れ薬』が作れることが研究の末わかった。これは使命だ。神からのお告げだ!! 「汝、薬を使って恋人をつくりたまわん」と……。頼む。俺に……俺に希望を与えてくれ!!

報酬:ドール金貨5枚


 ーー


 「なんて不憫な奴だ……」


 タナカは目尻に涙を浮かべる。

 ミカリーナも「その通りです。神に仕えるシスターである私が何とかしなければ……」と神妙そうな顔をする。

 エミルはそんな二人を見つめ……とりあえず殴った。


 ーー

 

 『キアナの縦穴』を下りていく3人組。

 薄暗い大穴の岩壁には「魔法灯(マジックランプ)」が取り付けられている。

 ここは中級冒険者達の人気狩場だ。

 恐らく先人の冒険者達がつけていったのだろう。

 1つ下の階層に繋がっている亀裂には梯子が置かれ、移動し易くなっていた。


 「ところで「毒大蛇」は何階層にいるんだ?」


 タナカはミカリーナに問う。

 タナカ達は魔物と一切遭遇せず、現在2階層に降りていた。

 ミカリーナは思い出す様なそぶりをしてタナカに答える。


 「確か3階層ですね。以前知り合いになった冒険者に聞きました。3階層には蛇型のモンスターが多く生息していると教えてもらいました」


 あと一階層か……とタナカは思う。

 この世界に来てパーティ戦闘は初めてだ。

 『ゾンビーズ』の時代、仲間達との息の合った連携で強敵を倒していったことを思い出し、この世界でもあの感動を味わいたいと期待に胸を躍らせていた。すると物陰から「チューチュー」という鳴き声が聞こえた。


 「アッ! かわいいです!!」

 

 エミルが嬉しそうな声を上げる。

 赤い眼をした小さな石を背負ったネズミがいた。

 エミルが走って近寄ると逃げ出した。

 追うエミル……目が血走っている。


 「待ってください! 何があるか確認もしないでそんなに走っては……」


 追っていったエミルにタナカとミカリーナが追いつくとそこには……


 「「「チューチュー」」」

 「アワワワワワワ」


 大量の石ネズミと震えてうずくまっているエミルがいた。



 「ふう……」

 「すごいです! タナカ君!」

 「フフフ。我が深淵なる魔法を使うまでもない敵でしたね!」


 大量の石ネズミの死骸が岩壁に囲まれた通路に散乱している。

 結局タナカが一人で全て倒した。

 タナカの腰には安っぽい鉄の剣が収まっている。

 クリスタルティアの武器屋で購入した武器だ。


 (不死王の剣は強すぎる……ステータスだけでなく剣技まで最強になるからな)


 (だからこそあまり不死王の剣だよりだといざって時にどうしようもなくなるからな)


 (実力が均衡するような相手が万が一出てきて剣を弾き飛ばされたりしたら詰みだ)


 (僕自身の剣技を高めないと……)


 (不死王のローブさえ着ていれば大抵の攻撃で死にはしないだろうしな)


 (安全に実践訓練できる)


 (それにだ……こいつらにあんまり強いとこ見せて今以上にコキ使われるのも癪だしな。にしてもだ……)


「お前ら震えてるだけで役に立ってねーじゃねーか!」


 怒るタナカ。

 少しプルプルと震えている。

 そんなタナカに「エヘヘ」と笑うミカリーナ、「魔力を温存しているのです」と言うエミル。


 「お前ら魔法……使えないって落ちないよな?」


 「ギクッ」と効果音が聞こえてきそうな反応をするミカリーナ。

 「そそそそそそ……そんなことはありませんよ……」と手を振るエミル。

 怪しい……そう思ったタナカは「じゃあ見せろよ」と二人に迫る。


 「仕方ありませんね。後悔しても知りませんよ……?」


 エミルはそう言いつつ不敵な笑みを浮かべながら背中に背負っていた先端に紫色の魔石が付いた黒い長杖を取り出す。

 「おおッ……」と期待に満ちた目でエミルを見つめるタナカ。


 「我が深淵なる魔力よ。今こそ冥界の災禍を現世に顕現せん……」


 シュウウーと音を立て、エミルの黒い長杖の先端に黒い光が集まっていく。

 期待の眼差しを強めるタナカ。


 「……万人を灰塵に帰せん! 穿て『黒槍(ブラックスピア)』!!」

 「いて」

 「「…………」」


 黒い槍ではなく極小の黒い針がタナカの頬に軽く刺さると消えていった……。

 タナカの頬には蚊に刺されたような傷が残る。

 「全然使えねえじゃねえか!」と言いつつエミルの頭をグリグリするタナカ。

 「だから言ったではないですか後悔すると……」とジタバタするエミル。

 そんな二人を見つめていたミカリーナが口を開いた。


 「次は私の番ですね!」


 ミカリーナは自信満々に言い放つとタナカの頬に手を当てる。

 頬を赤らめるタナカ。

 少し緊張しているようだ。

 「いきますよ」とミカリーナが呟くと神聖な光がミカリーナを包みだす。


 「癒しの女神よ。この者を癒したまえ……『治癒(ヒーリング)』!」

 「いて」

 「「…………」」


 ミカリーナがタナカの頬から手を離すと蚊に刺されたような傷跡がもう一つ増えていた。

 タナカは「まさか……」と思い顔が引きつる。


 「僕ゾンビだから回復呪文でダメージが入るんだけど……」

 「うっかりしてました。でも大丈夫です!」

 「大丈夫って?」

 「私の回復呪文、蚊に刺された程度の傷しか直せませんから!」

 「…………」


 ニッコリ笑って頷くミカリーナ。

 「唾でも着けとけば治るわ!」と言いつつミカリーナの頭をグリグリするタナカ。

 「痛いです痛いです!」とジタバタするミカリーナ。


 「不安しかねえ……」


 ハア。一つため息を着き、タナカ達一行は3階層へと降りていった。


 ーー


 「蛇の石像……?」


 3階層も1.2階と変わらず岩に囲まれた道が続く。

 しかし一点違うのは蛇の石像がそこら中にあったことだ。

 よく見ると人、ネズミ、イノシシ……蛇以外の石像もたくさんある。

 「なんだろこれ……」とタナカが首をかしげていると……


 ガシャーン、ガシャーン!!


 石が砕けるような音が奥から聞こえてくる。

 嫌な予感がしつつも『毒大蛇』を探さなければと奥へと突き進むタナカ達一行。

 ガシャーンという音が大きくなっていくにつれ不安はドンドン高まっていく。


 物音がする場所は広い開けた空間だった。

 大きな亀裂を挟み、向こう岸にも岩壁に囲まれた開けた空間がある。

 その空間を埋め尽くす石像達。そしてその石像を叩き壊す異形……


 黒い体色。10mはあるであろう巨大な体躯。

 そして固そうな皮。

 尻尾には鋭くとがった大きな棘が何本も生えている。

 口からチロチロ這い出る舌は二股に分かれている。

 頭部には紫色の大きな魔石があり、鋭い爬虫類の眼がタナカ達を睨む。

 この魔物は……


 「……ヨルムンガンド!!」


 『ギシャアアアアアアッ!!』


 ヨルムンガンドは禍々しい咆哮を上げ、タナカ達に襲い掛かった。

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