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僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第1章
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月夜の白狼亭

 薄気味悪い笑い顔を浮かべる月が闇夜を月明かりで薄く照らす。

 「ガヤガヤガヤ」夜の静けさをぶち壊すような賑やかな喧噪がその宿から聞こえてくる。

 3階建ての大きな木造建築。

 焦げ茶色の外壁に十字の木枠が付いた窓ガラスが並ぶ。

 入り口の両開きのドアの上には水晶製の看板が掲げられ『月夜の白狼亭』と彫られている。

 看板についた木製の笑う黄色い月の彫刻がほのぼのとした雰囲気を利用者に与えてくれることだろう。


 『月夜の白狼亭』の1階は昼は飲食店、夜は酒場に姿を変える。

 2~3階は宿となっている。

 リーズナブルな値段設定で飲食店としても酒場としても宿としても駆け出し冒険者にとってはありがたいと評判だ。

 クリスタルティアの冒険者ギルドに所属する駆け出し冒険者の中では一番の人気宿だ。


 1階の酒場には5~6人で囲める大きさの丸テーブルがいくつか置いてある。

 その一角に座るのは3人の若い男女だ。

 何やら楽しそうに笑っている。


 1人は銀髪のロングヘアーだ。

 髪に浮かび上がるツヤから細目に手入れを欠かさずしていることがわかる。

 顔は少々幼さが残る可愛らしい顔だ。

 笑うと浮き出るエクボが見た者を癒してくれる。

 十分美人と言っていい顔立ちだろう。


 その隣に座り、楽しそうにジョッキを持ち上げる少女。

 全体的に黒の装飾品や衣類が一見暗い印象を与えるがよく見ると整った顔立ちをしている。

 肩に着くぐらいの長さの黒髪と透き通った紫色の瞳が美しい白い肌によく似合っている。


 そしてその二人と向かい合うようにして座る男。

 白い髪にやる気のなさそうな目。

 瞳が死人のそれだ。

 170cm程だろうか。

 大きくもなく小さくもない到って平凡な体格。

 椅子に掛けてある黒いローブは高価な素材で編まれているようだが、今は纏っていないのでただのボロイ服の男として彼の見た目の評価が一段と下がる。

 一言でいうなら平凡。それ以外の何者でもない。



 銀髪の女性が声を上げる。


 「タナカ君のパーティ加入を祝って~……」

 「乾杯!!」

 「「乾杯!!」」


 ガキンッ


 ジョッキグラスがぶつかり合い、中の金色の液体が少しこぼれる。


 ゴクゴクゴク


 「「「プハ~!」」」


 タナカのパーティ加入祝いが始まった。


ーー


 「ふぅ。やっと一息つけたな」

 

  冒険者ギルドでは色々とアクシデントがあったが、無事ステータスプレートを発券してもらえたタナカ。

 内容はこんな感じだった。


 ーー

 冒険者”タナカ”

 種族:荷車ゾンビ

 ランク:F

 冒険者歴:0年

 ーー


 本当に簡素である。

 ランクというのは上からS、A、B、C、D、E、Fとなっている。

 タナカは登録したばかりだから当然一番下のFランク。

 因みにFランクはCランク以上の冒険者の同伴が最低二人いないとクエストを受けれないらしい。

 D、Eランクで一人同伴。

 Cランクで一人前という認識らしい。


 パラメーターが表示されないのはホッとしたなと思うタナカ。

 心の中で冒険者ギルドでのことを思い出す。


 (冒険者ギルドで何人か注視してLvを探ってみたけど大体の人がLv15~20だ)


 (弱い……)


 タナカのパラメータが表示でもされたらギルド内がお祭り騒ぎになるだろう。

 「大物新人現る」だ。

 

 (そういう展開もまあかっこいいから好きだけど流石に周囲と差があり過ぎる)


 (面倒ごとに巻き込まれるのも嫌だからここは我慢だ)


 (然るべきところで力を見せていこう)


 (僕の中の『英雄像その1 普段目立たないけど脱いだらすごい』だ)


 (普段から調子に乗って威張り散らしていると噛ませ犬Aっぽくて微妙だからな……。僕の目的は『英雄』だ。脱線してはいけない)


 そんなことを考えるタナカ。

 続けて思い出す……


 カジノのディーラーの様な服を着た受付の青年が言うにはこのプレートを所持しているものはギルドでの素材買取価格が1割アップするということだった。

 因みにタナカが『死者の森』で手に入れた素材は全て売った。

 

 ・バブルスライムの核×55個

 ・ゾンビ狼の牙×20個

 ・ゾンビ狼の毛皮×10個


 換金額はドール金貨8枚と銀貨5枚。

 つまり85万エーンだった。


 ちょろくね? と嗤うタナカ。

 スライムの核は弱点でもあるから美品が中々出回らないようだ。

 核を攻撃せずに倒すには液体部分にかなりダメージを与えないといけないらしく討伐難易度が高くなるらしい。

 これが結構な金になった。

 

 因みにミカリーナ達にタナカは換金額は見せていない。

 その理由は……


 (『英雄像その2 人におごるな』だ。英雄は気高く高潔でなければならない。人に媚びを売ってはいけない。僕がケチなわけではない。英雄を目指す上で必要な心掛けだ)


 タナカは冒険者ギルドでのあれこれを心の中で反芻し終えると、徐に口を開いた。


 「それで……僕をパーティに誘った理由はなんだい?」


 エミルとミカリーナは「ギクッ!」と効果音が聞こえてきそうな表情を浮かべる。


 「わ、我が深淵なる第3の眼がお前を捉えた時天啓が下ったのです……この男を仲間にせよ。と……」


 タナカはエミルの前髪を持ち上げ第3の眼がついていないことを確認するとポケットから冒険者ギルドの受付から盗んできたペンをとりだす。

 「ご自由に持ち帰ってはダメです」と書いていなかったからもらっていいと思うと自分に言い訳をしながらエミルの額に第3の眼を書き込む。


 「や、やめてくださいいィ~」


 エミルはジタバタしてタナカの手を振り払う。


 (ほう……。反省の姿勢が足りないな)


 タナカは「ついてねーじゃねーか」と言いながらエミルの額をペシッと叩く。


 「我が深淵なるおでこになんてことを~……」


 ヒリヒリする額をエミルがさすっていると、隣のミカリーナが言いずらそうに口を開く。


 「実はですね……私達一応Cランクなんですけど……あのですね……その……友達がいないというか何というか……」

 「時代が我が深淵なる魔力に追いついていないだけですよ!」


 タナカはエミルの額に「深淵」と書き込む。


 「つまり、Cランクになったはいいが実力が無いからパーティを組んでくれる奴がいないと。そこで旅人で実戦経験がありそうな僕が都合よく教会で懺悔しているのを見かけ、親切な人を装いつつ、冒険者ギルドで決められているFランクはCランク以上の同伴が必要ってルールを逆手にとって強制加入させたと。そういうことかな?」


 タナカの容赦ない突っ込み。


 「そ、そういう感じですねはい……エヘヘ……」

 「深淵を貴様が覗き込むとき、深淵もまた貴様を見ている!」


 タナカは丸テーブルの上にあった「白原鳥のから揚げ」についていた黄色い果実を掴むとエミルの眼に向かって絞り汁を飛ばす。


 「眼があああああああ!!!」


 エミルは椅子から転げ落ち床をのたうち回る。


 (はあ……。まあいいか。こいつら「死者の森」でも男二人が頑張って、あんまり役立ってない感じだったもんな。エミルに到っては死にかけてたし)


 カランカラン~


 入り口の扉についているベルが音を鳴らす。

 2人の屈強そうな冒険者風の男が入ってきた。


 (……ん? こいつらって「死者の森」で鬼熊と戦ってた奴らか?)


 屈強そうな男二人が店内を見渡し、空いているテーブルを探しているとエミルとミカリーナが急に小さくなりだす。


 あーやっぱりか……と思うタナカ。


 男達がこちらに気づくと、近寄ってきた。

 頬に切り傷が有る方の男が口を開く。


 「おいエミルとミカリーナじゃねえか! ……ハハーン。お前らまた懲りずに新人勧誘か。懲りねえ奴らだな全く。言っておくが俺たちはお前らとはもう絶対に組まねえからな!」


 ペッと唾を吐きながら男は怒鳴り散らす。


 「わかってますよ……こないだはその…すいませんでした。」

 「我が第3の眼が言っているお前達とは組むに値せず!!」


 ミカリーナが慌ててエミルの口を塞ぐ。

 頬に切り傷がある男は「アアッ?」とすごむ。


 (まあ……今のは完全にエミルが悪いな。あの感じからして守ってもらっといて逆切れしたようなもんだもんなあ)


 タナカはそう思うと「不死王のローブ」を着込んだ。

 どうやら傍観に徹するようだ。

 巻き込まれてもダメージが無いように防御態勢を整える。

 その間ミカリーナがエミルの頭を手で掴み頭を下げさせる。

 「すいませんすいません」と言いながらミカリーナも一緒に謝っている。


 切り傷の男は腹の虫が収まらないのか、イラついた顔で口を開く。


 「あのおかしな仮面野郎がいなかったら今頃俺達は死んでたぜ! あんなおかしな仮面を付けている上に、死んだ魔物までゾンビ化させやがったイカレ野郎だ!! もしかしたらあいつがあの悪名高い『不死王(ノーライフキング)』かもな! 全く使えねえ上に妙な者まで呼び寄せやがって!! とんだ疫病神共だ!!」


 傷の男は再びペッと唾を吐く。


 その言葉を聞きエミルはミカリーナの手を振り払い、火が点いたように反論した。


 「あの人の悪口は言うな!! 私の命の恩人だぞ!! よりによって『不死王』呼ばわりなんて許せない!! 変な仮面を付けてたっていいだろーが!! 変な仮面だって!! ふざけた仮面を付けてたってワタシの恩人には変わりないんだ!! 変な仮面の人に謝れ!!」

 「このガキ!!」


 傷の男は剣を鞘から引き抜き、エミルに振り下ろした!


 ガキンッ!!


 その瞬間、タナカは「不死王の剣」を引き抜き、傷の男の一撃からエミルを守る。

 街に入る前に使っていた「変色薬」の効果で黒い刃身は白銀に染まっている。


 「なんだてめえは!? やる気かこの野郎!!」


 鬼の様な形相で傷の男はタナカを睨み、後ろで控えていた付き添いの男は腰の鞘に収まっていた安そうな剣を引き抜く。


 タナカはいつもの眠そうな目をカッと開き、目は充血していた。

 完全にキレていた。

 タナカ的英雄像「その3 悪口は許すな!」を傷の男は犯していたからだった。

 ついでにエミルも。


 (エミルは別にどうなってもいい……。好きなだけ罵ればいいさ)


 (だが、僕はダメだ!! 僕の悪口は許さん!!)


 (僕の『英雄』評価が下方修正されたらどう責任取ってくれんだ!!)


 (前世でも有名人のブログが炎上したらすぐネットニュースになって更なる炎上を引き起こすんだぞ!!)

 

 (僕は今の内から『タナカの英雄ブログ』なんてモノを将来的に作ろうと画策してるんだぞ!!)


 (それなのに、それなのに……! それに変な仮面、変な仮面って連呼しやがって……。僕は結構あのデザイン気に入ってんだぞ!!)


 ……ということだった。


 タナカは剣のハラで傷の男の頭部を素早く殴りつけ意識を奪う。

 傷の男を助けるためにタナカを切りつけてきたもう一人の男の斬撃を軽くいなすと、柄を男の鳩尾に突き刺し地面に沈めた。


 「タナカ君すごいッ!」

 「マジですか……オッホン!! 我が第3の眼に狂いはなかった!」


 ミカリーナとエミルはびっくりしたように目を一瞬見開くと、興奮したように口々にタナカを褒めたたえた。

 エミルとミカリーナがタナカに近づき、ミカリーナはタナカの左手を、エミルはタナカの右手を取る。


 「タナカ君ありがとうございました」

 「大儀であった。タナカよ。」


 タナカはミカリーナには「気にしないで仲間だから当然のことだよ」と優しく微笑み、エミルには無言で拳骨を落とした。


 ゴツッ


 「ウピャッ!」


 エミルがタナカに「我が優秀なる頭になんてことを」と文句を言い、タナカが「中身が終焉してるようだな」と問答していると、男達が気が付き起き上がりだした。

 タナカの顔を見つめる……そして……


 「ウギャアアアアア!!」


 風のように男たちは去っていった。


 「さてと、今日は僕の歓迎会ですよね? 料理が冷めちゃいましたが、飲み直しましょうか」

 「「おお~!!」」



 そして楽しい時間が過ぎていった。


 ーー


 「飲み過ぎました……気持ち悪いです……」


 エミルが白い顔をさらに白くさせ、机に突っ伏している。

 今にも女の子が決して口から出しては行けないものが出てきそうだ……


 「アハ~。タナカ君が5人にみえますぅ~」


 ミカリーナはエミルとは対照的に顔が真っ赤になりハイテンションだ。

 「友達増えた~5人も増えた~」と謎の歌を歌いながらタナカと肩を組み揺さぶっている。


 「世紀末だ……」


 タナカがボソッと呟くと、エミルがタナカの服の袖をつまんで引っ張る。


 「我が深淵なる魔力が暴走し溢れだしそうだ……トイレヘ……我を……早く……」



 「ウップ」と言いつつ口を押えるエミルを見てタナカは思う

 ――これもう限界なヤツだ……と。

 ミカリーナをそっと丸テーブルに寝かせ、エミルにできるだけ刺激を与えないよう、エミルの腕を自分の肩に回しかけ、背中を擦ってあげながらトイレへと移動する。


 一歩一歩と慎重にそれでいて確実に。

 ついにトイレというオアシスへ二人はたどり着く。


 タナカは扉を開け、エミルを連れ中へ入ろうとすると……


 カツンッ


 トイレの入り口の段差につまずいた。

 タナカはトイレの床へ仰向けに倒れ、エミルはその上に覆いかぶさるように倒れる。


 見つめあう二人……美しい紫色のエミルの瞳がウルウルと濡れタナカを顔を覗き込む。

 そして……


 「オエエエエエエエエ!!」


 タナカの顔にエミルの溢れ出る魔力が口から吐き出された。

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