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僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第1章
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始まりの墓

 「始まりの墓なのか……?」


 『始まりの墓』

 ――『ゾンビーズ』のプレイヤーが一番最初に召喚される墓地である。

 この墓地で最初の職業が決定する場所でもある。

 自分が入っている墓の中にはアイテムが保管されており、それもランダム。

 そのアイテムがそのプレイヤーの最初の所持品となる。


 タナカのつぶやきには誰も答えない。

 先程脳に直接効果音が流れたので誰かが干渉していると思っているようだ。

 ラノベの読みすぎであろう……。


 タナカは自分の両手や足、体を見つめる。


 「青い。それにボロボロだ。所々骨見えてるし……これってもしかしてゾンビ?」


 体をパチパチと叩き出し、次に顔、そして最後に頭部を恐る恐る触る。


 「よかった……髪の毛あるよ」


 髪の毛を1本引き抜くと白髪だった。

 タナカは渋い顔になる。


 (え……白髪ってことは僕の顔ってもしかしておじいちゃんになってるのか?)

 (体は特に皺とかはないけど全体的にボロボロだし、よくわからないな……鏡があれば……そうだ!)


 タナカは思い出したように自分の墓を漁る。

 どうやら『ゾンビーズ』の始まりの墓に類似しているなら、自分の墓にはアイテムが入っていることを思い出したようだ。


 「鏡はないなー何だこの汚いのは……財布?」


 タナカは自分が入っていた墓の中にあったアイテムを地面に一通り並べてみた。

 左から順に、ボロいピッケル、汚い黒の長財布、木の板、金貨3枚の4種類だった。


 (全然使えなさそうなものばっかりだ……どうしよう……)

 (……というかまず情報が少なさすぎる)

 (ここの雰囲気はまるっきり『始まりの墓』だ)

 (なら、もしかして……)


 タナカは手を横に薙ぐと見慣れたコンソールが目の前に表示された。


 「これ……まんま『ゾンビーズ』じゃん……」


 --

 荷車ゾンビ”タナカ” Lv1


 ーステータスー

 HP 12/12

 MP そんな高等な物はお前にはない

 攻撃力 4

 防御力 5

 素早さ 2

 知力  猿

 精神力 硝子


 ープロフィールー

 死因:車に轢かれて死亡(笑)

 前世:金に卑しい庶民

 性歴:童貞……草

 所持金:無限財布がアイテムボックス内にないので保管できません

 スキル:

 魔法:そんなな高等な物はお前には使えない

 称号:


 ーー


 となっていた……。


 いろいろ言いたいことがあると思うタナカ。

 この場には田中しかいない。

 虚しいだけだと感じたのだろう一先ずスルーした。

 

 静寂に包まれる墓場。

 少々動揺しつつも精神を立て直し、心の中でゾンビーズ時代の設定をタナカは思い出していた――

 

 (もしこのコンソールが『ゾンビーズ』と同じとするならば……)

 (攻撃力と防御力――これは物理攻撃に対する数値だ)

 (攻撃力は自分が相手に物理攻撃をする時の目安)

 (防御力は逆に物理攻撃される時の目安だ)

 (そして素早さ。これは移動速度や回避率の目安だ)


 はっきり言ってこの3つは低すぎる……話にならないとタナカは思う。

 もしこれが『ゾンビーズ』の世界ならチュートリアルで死ぬレベルだ。

 ゲームが始まらないだろう……。

 

 まあこれに関してはここが『始まりの墓』なら秘策があるのでいいだろう……とタナカは考える。

 問題はその先にあった。


 (知力。これは魔法攻撃をする時の目安だ)

 (逆に精神力は魔法防御力と言ってもいいだろう)

 (多分だけど……恐らくこのコンソールは魔法に関する数値が低いよって言いたいのだろう)

 (表示のされ方が酷く冒涜的だが……。僕何かしたか……? コンソールさんよお……)


 タナカはやっぱり気にしているようだった……精神を立て直し切れていない。


 (プロフィールは……まあいいだろう……事実……だしな……)

 (ただスキルと称号は無いから空欄なのだろうが、魔法に関してその冒涜的な文章いる……?)

 (空欄でいいよね……? 僕はそんなに魔法に対する適正が絶望的なのか……?)


 魔法に関しての表記が特にタナカの精神にダメージを与えたのだろう。

 動揺を隠しきれていない。


 タナカがコンソールのステータス表記で一番気になっていたのは所持金の欄であった。

 『無限財布』――これは無制限に色々な通貨を保管できるマジックアイテムでアイテムストレージに入れておくと、コンソールを開いたときにどの通貨をどのくらい自分が持っているかを一目でわかる。

 通貨を自由に換金できる機能もある。

 換金所と財布両方の機能を持つ便利使用にコンソールをアップグレードできる便利な代物だ。

 

 試してみるか……とタナカは思う。

 タナカは汚い黒の長財布を掴むとアイテムストレージのボタンをタッチし、財布をコンソールに近づける。


 「ウオッ」


 すると一瞬で財布はアイテムストレージに吸い込まれた。

 続けて金貨3枚をコンソールに近づけると同じように一瞬で吸い込まれた。

 吸い込まれた後コンソールの所持金欄が次のように変化する。


 ーー

 所持金 ドール通貨 30万エーン

     ?????  0エーン

     ?????  0エーン

     (以下省略)


 ーー


 たしかエーンというのは日本円1円=1エーンだったはずとタナカは思い出す。

 

 (ということはさっきの金貨3枚はドール通貨の金貨で価値は30万円分だったということか……)

 (というかあの汚い財布がまさかの『無限財布』って)

 (いやあ、まあラッキーだ。ツイてる!)


 残りのアイテムも全てアイテムストレージに保管すると田中の頭の中にピコーンという甲高い効果音が流れた。

 白い文字がタナカの視界に浮かび上がる。


 『称号 学ぶ猿 を獲得しました』


 ピキッ! タナカの額に青筋が浮かび上がる。


 (我慢だ……僕)

 (落ち着け……僕)

 (相手はただのシステム。機械だ。向きになってはいけない……)

 (僕は25歳。大人の男。つまり男性だ……こんなことでむきになってはいけない25歳男性童て……ちっくしょおおおおッ!!)


 少々取り乱しつつもタナカはコンソールを開き、称号の欄を確認する。


 ーー

 称号 学ぶ猿:猿がついに学習する意思を持った。嬉しいことだ。そんな猿にプレゼントを与えようと思う。猿が人間より優れた部分はなんだと思う?そう。言葉だ……役立ててくれることを期待しよう。   効果:言語理解


 ーー


 (殺すぞ?)


 タナカはぶつけようのない怒りをため息と共に吐きだし、辺りを見渡す。

 すると墓標に刻まれていた謎の文字が読めるようになっていた。

 因みにタナカの墓には「タナカここに眠ってるみたいよ~」と書いてあった。


 「さてと……」


 タナカはおもむろにアイテムストレージから『ボロいピッケル』を取り出す。

 顔は清々しい笑顔だ。

 どこか開き直った様な雰囲気がある。

 そして……


 「やりますか!」


 バキッ!ドゴッ!ギャリッ!!


 タナカは恍惚の表情を浮かべつつ、墓という墓を荒らした。


 「いい汗かいた~」


 今までのストレスが全て吐きだされたのか、実にいい笑顔で墓荒らしで手に入れた戦利品をアイテムストレージから確認する。


 「こ、これは……」


 荒らすのに夢中で片っ端から戦利品をアイテムストレージにぶち込んでいたから気づかなかったという驚愕の表情を出す。


 『不死王(ノーライフキング)の剣』

 『不死王(ノーライフキング)のローブ』

 『不死王(ノーライフキング)の杭』


 タナカの焦点はこの3つのアイテムで止まっていた。

 『ゾンビーズ』のアイテムや武器、防具には全てレアリティが存在した。

 下からコモン、アンコモン、レア、伝説(レジェンド)聖遺物(クレリック)神器(ゴッズ)の順だ。

 そしてこの3つは……


 「神器が3つ……おお神よ……」


 タナカは無宗教の癖に祈りを捧げだす。

 墓場、ゾンビ、祈り。神聖さの欠片もないシュールな絵を創り出しつつタナカは我に返る。

 そして『不死王の剣』『不死王のローブ』『不死王の杭』の3つを取り出し装備した。


 『不死王の剣』――それは禍々しい黒い刀身、銀色の柄、鍔の部分には王冠を被った骸骨が剣を抱きしめるような装飾が施され、骸骨の目が赤く揺らめいている。


 『不死王のローブ』――外観は単なる黒いローブだ。いい糸を使って編まれているのだろう程度の感想しかでてこない。だが内側には無数に蠢く怨霊の顔顔顔。「ウワアアアアア」「グオオオオオ」と苦痛で呻く声が装備者にのみ聞こえる。


 『不死王の杭』――これは漆黒の杭だ。どこまでも黒く吸い込まれそうなほどの……。こちらも杭を抱きしめるように冠を被った骸骨が杭を抱きしめるような装飾が施され、骸骨の眼が赤く揺らめく。


 この3つを装備し、ローブのフードを被ったタナカは黒魔術を推奨する怪しいカルト集団のボスの様な雰囲気になった。


 墓荒らしと戦利品の整理を一通り終えたタナカは地面に腰を下ろし、薄気味悪くあざ笑う月を見上げる。

 そして月に向かい独り言を言い始めた。


 「僕は前世では何も成せなかった」


 「本当に惨めだ……。最後に伝えた言葉が『僕の500円……』。救いようがない」


 「月もそりゃあ僕を嘲笑うだろう……でももう笑わせない」

 

 「ここは『ゾンビーズ』の世界にそっくりだ」


 「僕が仲間達と共に駆け回った……」


 「前世では本気で『ゾンビーズ』に入れ込む僕を見て、皆「ゲーオタ」「引きこもり」と馬鹿にした」


 「でも楽しかったんだ。本気だったんだ。世間の人間はそれは馬鹿にするかもしれない」


 「でも僕は本気だったんだ。本気で生きたあの世界にいる時だけは……」


 「だから僕を見ててくれ! この世界で僕は『英雄』と呼ばれてみせる!!」


 もしこの場に第三者がいたのであれば確実に「やばい奴だ」と思われるであろう雰囲気を醸し出しつつタナカは『不死王の剣』を抜き、月に刃を突き付ける

 ――そして誓いを立てた。

 

 すると、タナカの頭に甲高い効果音が鳴り響いた。


 ピコーン


 『称号 社会のクズ を獲得しました』



 空気読めよ……とタナカは思った。


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