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僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第1章
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プロローグ

 MMORPG『ゾンビーズ』。

 死をもたらし死者を創るアンデットの王『不死王(ノーライフキング)』の呪いによってプレイヤーはゾンビとしてこの世界に復活し、ゾンビとして冒険していくMMORPG。

 初期の装備や職業と言ったものは完全なランダムとなっている。

 例えばレア職業ゾンビ・オブ・アーサーを引き当てた場合、最初の所持品に『聖剣エクスカリバー』が入っている。

 かなり偏った初期設定だ。

 そのため初期の引き次第でかなり冒険を有利に進めることができる。

 このような偏りが逆に面白いと人気に火が点いた変わり種のMMORPGだ。


 『ゾンビーズ』の世界ではギルドと言ったチームを組むことができる。

 最小2人から最大100人までの構成員を組むことができる。 

 その男は『金の亡者』というギルドを作った。

 なんでそんなギルド名なのか

 ――それは彼が最初の引きで『成金ゾンビ』というレア職業を引き当て無限の財力を持っていたことから由来しているのだろう。


 ギルド『金の亡者』は生きる伝説だった。

 有り余る財力で最高級なギルドホームを所有していた。

 ゾッゾンビヒルズという最高級な一等地に聳え立つ外壁が全て金でできている塔をまるごと所有していた。

 

 『金の亡者』に所属する者の装備も桁違いだ。

 構成員は皆オリハルコンやアダマンタイトという伝説の金属でできた武器や鎧に身を包んでいる。

 希少素材で作ったアイテムや魔法具など吐いて捨てる程所有している。

 ゾンビーズの世界には『爆弾ゾンビ』という職業がある。

 その職業は材料さえ揃えばいつ、いかなる場所でも無制限に爆弾を生成できる能力をもっている。

 『金の亡者』に所属する爆弾ゾンビ達の爆弾は純金製だ――固すぎて逆に爆発力が落ちる。

 

 すごいのはギルドホームや物品だけではない。

 数々の伝説を打ち立ててきたことも『金の亡者』を伝説たら占めている要素の一つだ。

 ”灰色山の煙龍王 スモークス””水神都の守り手 ポセイニクス”……etc

 『金の亡者』は数々の高難度レイドボスを打ち破ってきたーー高額な懸賞金をかけ、優秀なゾンビ達を雇うことで。

 

 『金の亡者』は伝説だった。

 金の力で全てをねじ伏せてきた。

 その由緒正しき最強最高のギルドの創設者にして、現ギルドマスター……その名を『成金ゾンビ タナカ』と言う。

 彼は英雄だ

 ――『ゾンビーズ』の世界では……。


「おい田中。納期が迫っている。お前今日残業」

「はい。工場長」


 鉄格子が付いた窓が等間隔に並ぶ、薄緑色の通路で二人の男が会話している。

 キリッと整ったオールバックにお洒落な黒淵の眼鏡。

 いかにもデキる雰囲気を纏う男がよれよれの緑色の作業着を纏う冴えない顔をした男に指示を出す。


 「また今日も残業かぁ……」


 冴えない顔をした男は愚痴をこぼしながら休憩所へと向かう。


 「お疲れ様田中君! 今日はもうアガリ?」


 冴えない顔の男タナカが休憩所に入ると可愛らしい顔だちをした女性が明るく声をかけた。


 「マチコちゃんお疲れ様!! いやぁ、今日も残業だよ。少し休憩したらまた仕事場に戻らないと」


 田中はだらしない顔をして嬉しそうに答える。


 「そっか。大変だね。体壊さないように頑張ってね!」


 マチコはタナカを気遣うような顔をしつつ休憩所を後にした。


 (マチコちゃん本当に天使だ。癒されるぅぅ)


 気持ちの悪い笑みを浮かべながら、缶コーヒーを休憩所の自販機で買い、飲み終わるとタナカは仕事場へと戻っていった。


ーー


 「お疲れ」

 「お疲れ様です」


 同僚とお決まりの挨拶をして職場を後にする田中。

 体を酷使し過ぎたのか足取りがおぼついていない。

 目も余り開いていない

 ――眠たそうな目だ。


 会社の出入り口を通り抜けるとその日は丁度満月だった。

 薄い月明かりと街灯の光が田中を照らす。

 会社へと続く小道を抜け大通りへと田中は出る。

 会社から田中の下宿先は歩いて行ける距離だった。

 大通りの横断歩道を渡り、小さな路地に入ればそこは行きつけの自販機がある。

 その自販機で仕事帰りに缶コーヒーを一本買うのが田中のルーティンだ。

 仕事終わりの一杯が疲れた体に良く染みるようだ。



 その日だけはいつもと少し様子が違った。

 大通りで田中が立ち止まることはないのだがその日はよく知る顔が二つ大通りのタクシー待場にあったからだ。


 「マチコちゃん……それに工場長……?」


 親しげに体を密着させている男女。

 可愛らしい顔立ちをした女性が頬を赤らめながら男の腕を握っている

 ――マチコと工場長だ。

 マチコは会社から支給されている事務服ではなくお洒落なワンピースを着ている。

 工場長も社員服ではなく今日はスーツだ。

 ただでさえできる男の雰囲気を醸し出している工場長だが、黒いストライプのスーツがよりいっそうできる雰囲気を引き上げていた。


 「そっかぁ……」


 田中はただでさえ疲れで丸まっている背中をさらに丸くさせ、自販機の待つ路地に消えていった。

 街灯や行き交う車のヘッドライトが田中の背中を照らす。


 自販機の前に立つ田中。

 ふと空を見上げた……物寂しげな瞳で満月を見つめる。


 「人生やり直したいな……」


 田中は何度もそう考えたことがあった。

 絶対にそんなことは起きえないと知っていながらも。

 田中は何かに夢中になったり一生懸命になれたことはなかった。

 彼は小さい頃は勉強ができた。

 わからないことは教師や両親に聞きわからないことをわからないままにしない少年だった。

 

 そして中学生になった時自分は周りよりできる子だと自覚するようになった。

 同級生にわからない問題をよく聞かれたからだ。

 田中は何でも丁寧に教えてあげた。

 すると今度はプライドができた。

 教える側の自分が周囲に教えてもらうのはかっこ悪い

 ――田中は教えを乞わなくなった。


 しかし彼は天才じゃなかった。

 努力はしていたがどうしてもわからないことがたくさんあった。

 しかしプライドが邪魔をして聞けない。

 教えを乞えない。

 そんなことを続けるうちに彼が教えていた者たちは彼を追い越していった。

 田中は勉強が嫌いになった。


 その後もスポーツや芸術等に少し手を出すことがあったが長続きしなかった。

 自分よりうまいものがいても教えを乞いたくない。

 そして彼は社会に流されるようにして社会人になり、今の会社に就職した。

 そんな時に出会った

 ――『ゾンビーズ』に。


 『ゾンビーズ』では恥も外聞も気にならなかった。

 自分から現実世界の自分を名乗らなければ自分だと誰にも気づかれないからだ。

 だからわからないことは素直に聞けたし、田中も周囲に教えた。

 学生時代から本当に友人ですと言える友人は誰一人としていない田中だったが、『ゾンビーズ』の世界では仲間ができた。

 嫌なこともあったし喧嘩もたくさんした。

 汚いこともいっぱいした。

 「金にものを言わせた」こともあるけれど、それだって立派な戦略だと田中は思う。

 仲間と共に考えた。

 そうして田中の作った『金の亡者』は伝説になり、彼は英雄になった。

 しかし……


 「現実の世界での僕はこんなだ……」


 毎日のように残業を突き付けられ使われるだけ。

 自分でやりたいことの一つもない。

 好きな子ができても思いの一つも伝えられない自信の欠片もない自分。

 『ゾンビーズ』の中の自分は仮初で現実の自分は英雄のエの字もない人生を歩んでいる。


 「ふぅ。缶コーヒーでも買って帰ろう。『ゾンビーズ』のアップデートあるし……」


 満月が田中をみて嘲笑っているようだった。

 田中は月にすらバカにされるのかと感傷に浸るとポケットに突っ込んだ財布を取り出す。


 「アッ」


 財布を取り出すと田中のポケットから500円玉が零れ落ちた。

 きっと昼休憩でコンビニに立ち寄った時、お釣りを財布に入れ忘れたのだろう。

 そんなことを田中が思い出していると500円玉は大通りの方へと転がっていく……。


 「待ってくれえー僕の500円!!」


 その時疲れや、動揺で集中力がかけていたのだろう。

 自分に迫りくる車に気づきもせずに、田中は大通りへと飛び出していた。


 キキイイイィーードンッ!!


 「キャー! 人身事故よ!!」


 大通りが騒ぎになり人が集まりだす。


 「ううっ……」


 田中は力なく呻く。

 一体自分に何が起きたのかがよくわからない……。

 ただ一つだけ言えるのは体中が痛いということーー激痛だ。

 きっとガソリンを体に振りかけられ火をつけられたらこんな痛みになるのだろう。


 (痛い痛い……誰か……助けて……)


 声を出したくても声にならない。

 車にはねられた衝撃で臓器が壊れたのだろう。

 田中はただ呻くしかなかった。

 その時人込みをかき分け田中に近づく男女がいた。


 「どいてください!! 知り合いなんです!!」

 「会社の部下なんです! 通してください!」


 男女が田中の傍らに座り込む。

 マチコと工場長だ。

 マチコは涙を流しながら田中に声をかける。


 「田中君!! 今救急車を呼んだから!! もう少し頑張って!!」


 マチコは田中の手を取り懸命に励ます。


 「田中……しっかりしろ……もうすぐだ。後ほんの少しでお前は病院に搬送される。だから気をしっかり保て」


 普段厳しい工場長が柄にもなく情けない声を出し田中を励ます。


 その時田中が少しだけ気を取り戻した。


 (あれ? マチコちゃんに工場長? 助けに来てくれたんだ)

 

 (でも……僕はきっと助からない……もう意識を保ってられないんだ)

 

 (眠い……本当に……体中から痛みが消えて今はただただ寒いんだ……きっと僕はこのまま消える……)

 

 (だから…だから……せめて最後に自分の……僕の気持ちを伝えたい……僕の本当の気持ちを……)


 体中の力を総動員して田中は喉に力を込める。

 これが田中の25年間の人生の最後の言葉になるのだろう。

 田中は絞り出すように最後の言葉を囁いた……





 「ぼ、僕の……500……え…ン……」




ーー


 目が覚めるとそこは木の板で囲まれた箱の中だった。

 木の腐った香り……。

 居心地の悪い空気に耐え切れず、田中は目の前の木の壁を力いっぱい殴りつける。


 バキッ! バキキッ!


 すると木の板に小さな穴が開いた。

 田中はその穴に手を突っ込むと力いっぱい横に広げる。

 ミシミシという音と共に外の世界が田中の視界に飛び込んできた。


 「ここは……墓場……?」


 辺り一面墓だらけ。

 西洋風の墓だ。

 墓標があり、申し訳程度に十字架が刺さっている。

 

 そこは所謂墓地だった。

 薄暗い紫色の空。三日月型の月には顔がついており気味の悪い笑顔を浮かべている……。

 カアーカアーと鳴くカラスの様な黒い鳥が墓地の不気味さをより引き立てている。


 見たことがある

 ――田中はそう思った。

 その瞬間……


 ピコーン


 甲高い効果音が頭の中に響き白い文字が田中の視界に表示された。

 日本語表記で……。


 『荷車ゾンビタナカ 復活しました』


 文字が消えると黒いモヤが田中を包み込む。

 そしてモヤが消え去るとそこにはボロボロの小さな荷車が現れた。


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