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あなたが語る真実とは?  作者: 雲居瑞香
選帝侯会議編
6/41

【6】

予約入れておくの忘れてました…。すみません。


アイスナー辺境伯視点。









 明るい茶髪の女性との再会は、思ったより早かった。


 ギルベルトは夜会に参加していた。若い独り身のめったに姿を見せない選帝侯、と言うことでギルベルトは注目を浴びていた。似たような理由でエルシェも視線を集めていたが、見つめてくる対象が違うので一人当たりの人数が減ったりはしない。

 話しかけてくる女性たちをかわし続けたが、ついにかわし切れずに何人かと踊ったあと、ギルベルトはエーベルハルトの姿を見つけて彼の側に行った。

「エーベル」

「よう、ギル! 楽しんでるか?」

「そう見えるか?」

「見えんな!」

 そう言ってエーベルハルトは豪快に笑った。彼は笑って「相変わらず辛気臭いなぁ」と言ってのけた。余計なお世話だが、その通りであると思う。


「より取り見取りだったじゃないか。いい子はいなかったのか」


 などと言われて何のことかわからなかったが、すぐに先ほど寄ってきた女性たちのことを言っているのだとわかった。ギルベルトはため息をつく。

「別に。そう言うのは苦手だ」

「だろうな。お前、アイスナー領からめったに出てこないしな」

 嫁に来てくれる子でも探せよ、とエーベルハルトは言ったが、同じ言葉を彼に返す。すると、エーベルハルトは「そう簡単にいかねーの」と言った。


「一応俺、先代の皇帝陛下の異母弟なわけで。そうなると、継承権とか面倒なことが絡んでくるからなぁ」


 今回も彼は次の皇帝候補に名が挙がっている。まあ、ギルベルトは彼を選ぶつもりはないけど。

「お前は辺境伯で選帝侯だろ。いいよなぁ」

「うちは大概田舎だけどな……」

 帝国の東の国境あたりに位置するアイスナー辺境伯領は田舎もいいところだ。交易路にあたるので、珍しいものはよく見かけるが、華やかな場所が好きな人が来てくれるような場所ではない。


 ギルベルトはたった一人のアイスナー辺境伯家の血をひく人間だ。後継ぎをもうけなければならないと言うことはわかっているし、望まれているのもわかっているが、あまりそう言う気は起きない。おそらく、七年前、二十歳のころに政略結婚で娶った年上の妻を亡くしていることが原因の一つだろう。

「いいじゃん。田舎。煩わしく無くて。今度狩りに行ってもいいか」

「……事前に連絡をくれるんならな」

 突然やってきて「狩りに行くぞ!」と言うのはなしだ。あれは本当に困る。


 それにしても、人が多い。たまたまエーベルハルトは見つけられたが、人を探そうとしても不可能だろう。

「ごきげんよう、シュヴェンクフェルト公爵、アイスナー辺境伯」

 近づいてきたその女性は、赤いドレスをつまんで膝を折る。エルシェだ。女性にしては背の高い彼女も、この人ごみの中では声をかけられなければ見つけられなかっただろう。

「こんばんは、クラウスヴェイク大公。楽しんでおられるか?」

 声をかけたのはエーベルハルトだ。皇族である彼の方が身分が上なのもあるが、単純に性格が出ているのもある。

「そうですね。人が多いですけど」

 大公位を継いだばかりの彼女はこういう場に出るのは初めてだろう。思わず同情したところに、ギルベルトは、エルシェが昨日の晩餐会で連れていた護衛の男性と侍女以外にもう一人女性を連れていることに気付いた。


「ああ、昨日は紹介できませんでしたものね。クラウスヴェイク公国軍将軍のヴィルヘルムス・ファン・ハーレン。帝都で侍女として雇った、ヘレナ・エルツベルガーとヒルトラウト・アマーリア・フォン・ヴァイデンライヒです」


 男性と女性二人がそれぞれ礼をとる。女性二人は帝国貴族だろう。そして、あとに紹介された女性が、ギルベルトが今朝も会った花を摘んでいた女性だ。明るい茶髪を編み上げ、淡い紫の瞳をしている。帝国全土の美男美女が集まるこの場所では、どちらかと言うと普通の部類に入るだろうが、だが、整った顔立ちはしている。

 赤いドレスを着ているエルシェとかぶらないようにしたのだろう。ヒルトラウトは淡い青紫、もう一人のヘレナは緑のドレスを着ている。

「なるほど。ハーレン将軍はクラウスヴェイク継承戦争のころからエルシェ殿と?」

「ええ。私は大公の兄君の学友でしたので」

 エーベルハルトの探るような問いかけにハーレン将軍は落ち着いて答えた。エルシェはその隣でニコニコと笑っている。

「何をお聞きになりたいのかしら、シュヴェンクフェルト公爵」

 ああ、これは怒っている、とギルベルトは思った。ふいっと彼女の顔から視線をそらすと、同じように視線を逸らしたらしいヒルトラウトと目があった。


 たぶん、エーベルハルトはエルシェの触れてはいけないところに触れてしまったのだろう。二人ともしっかりとしたいい大人だから、大丈夫だとは思うが……。

「フロイライン、よろしければ一曲いかがだろうか」

 ギルベルトはヒルトラウトに向かって手を差し出した。彼女は戸惑ったようにエルシェを見上げる。

「いいじゃない、いってらっしゃい。わたくしはシュヴェンクフェルト公爵とお話をしているわ。ヴィルとヘレナがいるから大丈夫よ」

 にっこりと含む表情でエルシェが言った。ヒルトラウトはさすがに引き気味にうなずいた。

「わかりました。しばらくお側を離れます」

 そう言ってヒルトラウトがギルベルトの手を取った。それにほっとする自分がいる。

「私で良ければ、よろしくお願いします」

 にこりと微笑んだ顔に、ああ、外向きの笑顔だなぁと思った。ヒルトラウトもエルシェと同じく淑女教育が行き届いているのだろう。とりあえず許可はもらえたので、ギルベルトはヒルトラウトをダンスフロアまでいざなう。ひとまず、一曲くらいは踊らなければならない。


「突然、申し訳ない」


 ギルベルトが声をかけると、ヒルトラウトは「いえ」と微笑む。

「噂の辺境伯様に声をかけていただき、光栄ですわ」

 あ、嘘だ。と思ってしまうのは、彼女が男を返り討ちにした現場を見てしまったからだろうか。

「昨日、迫ってきた男を返り討ちにしていたな」

「まあ。なんのことでしょう」

 白々しくすっとぼけた。彼女、結構図太い。さらに足を踏まれそうになったがさっと足を退ける。ギルベルトは苦笑して言った。

「あいにくと、私は記憶力がいい方だ。かわいらしい顔で、なかなか過激なことをすると思ったので余計に覚えている」

 そこまで言うと、さすがに取り繕うのは難しいと感じたのか、ヒルトラウトはむくれたような表情になった。

「何故見ていらしたのですか。忘れてください」

「十年くらい経ったら忘れると思う」

「そこは嘘でも『わかった』と言うべきなのでは?」

 先ほどまでのお嬢様然とした態度はどこへやら、一度本性を見られているからかギルベルトに対してちょっとあたりがきつい。


 だが、変に猫かぶりされない方がギルベルトとしても楽だ。それに、ヒルトラウトはすまし顔よりも感情が出ている方が素敵だと思う。

 一曲を踊ると、ギルベルトとヒルトラウトは挨拶をして別れた。そのころにはもうエルシェとエーベルハルトの攻防戦も終了していて、早速ギルベルトはエーベルハルトに絡まれた。

「ギル!」

「エーベル。クラウスヴェイク大公はもういいのか?」

「ああ、いいの。美人で気が強くて結構好みだったんだけど、後ろにいた将軍とできてるみたいだし」

「……」

 そう言う下世話なことを聞いたわけではないのだが、まあいいか。面倒くさいし。

「それより、お前のこと! 珍しいよな、お前が自ら女性を誘うなんて」

「あの場から逃げたかっただけだ」

「そうかもな。でも、なんで彼女を選んだんだ?」

「……」

 あそこにはもう一人、ヘレナと言う侍女がいた。誘うのなら別に彼女でもよかったはずだ。


 それなのに何故ヒルトラウトを誘ったのか、と言うことを聞かれたのだが……。


 何故だろうか?








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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