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【19】









 友人の結婚式とは何を着ていくべきなのだろうか……。かつては華美さを競ったというウエディングドレスだが、今では白が主流だ。どこぞの王妃様が結婚式で着てから流行りだしたのだ、と言うことだが、ヒルトラウトも詳しくは知らない。今度調べてみようか。

 ひとまず、白は花嫁の色なので、避ける。すると、招待客は必然的にカラフルになるのだ。ひとまず、ヒルトラウトは招待されている他の友人たちとドレスの色がかぶらないように調整し、ヒルトラウトは淡い青のドレスを着ていた。


 式場は帝都内の、さほど大きくはないが、歴史と格式はある教会だ。誓いを済ませた新郎新婦が幸せそうに笑っている。どこの誰が始めたのかはわからないが、花道を歩く新郎新婦に向かって花びらを投げる。たぶん、格式ある貴族はやらないだろうから、中産階級か若い人が始めたのだろうな。


「珍しいしきたりだな」

「しきたりではないと思います」


 ヒルトラウトが出席した結婚式では漏れなくやっているが、ギルベルトは初めて見るようだし。彼は歴史も格式もある家の出身だ。こうした雰囲気が新鮮なのだろう。

「……ヒルト、真顔で返事するものじゃないと思うぞ」

 隣にいるルートヴィヒが妹に言った。さらにその向こうにはギーゼラが笑っている。彼女はオレンジ色のドレスを纏っていた。


「……最近、若い人の間で流行ってるらしいです、こういうの」

「花びらを投げることがか?」

「見た目綺麗じゃないですか」

「まあそうだが……」


 ギルベルトは未だに釈然としないようだ。なので、ルートヴィヒが花びらを適当に投げながら助け舟を出した。


「まあ、深く考えずに祝福してやればいいんですよ。どうせ、大した意味なんてないんですから」

「でも、聖職者が聖水をかける行為をまねしたって聞いたことあるよ」

「お前は! いいんだよ、そう言うのは!」


 ルートヴィヒに怒られた。何となく、ヒルトラウトもギルベルトも理屈っぽいのである。しかし、ルートヴィヒはそういうことは考えずに単純に祝福して楽しんでやれ、という。確かに、結婚式に小難しい顔をしているよりは、へらっと笑っている方がいいだろう。

「怒られちゃいました」

 ルートヴィヒとは反対側の隣にいるギルベルトを見上げて言うと、彼は「そうだな」と目を細めた。少し和んだところで、新郎新婦……マルガレーテとその夫となったエルマーが通りかかった。少し、籠の中身をそのままかけようか、などと考えたが、さすがに実行しなかった。代わりに花弁をつかみ、「おめでとう!」と笑顔でマルガレーテに向かって投げた。すでに白いウエディングドレスを様々な色の花びらで彩ったマルガレーテが驚いた表情をした。


 だが、幸せのおすそわけか、彼女は今まで見たことないくらいきれいに微笑んだ。つられるようにヒルトラウトも微笑んだ。

「マルガレーテ、きれいだったわね」

 コルネリアの言葉にギーゼラが勢い良くうなずく。きれいに結った髪が少し崩れたが、まあ、もういいだろう。

「幸せだって全身からあふれてたわね……あーあ、あたしもああいう結婚がしたい……」

 政略結婚が目の前まで来ているらしいコルネリアがうらやましそうに言った。ヒルトラウトが「そうね」とうなずくと、コルネリアが怒ったようにヒルトラウトに言った。


「あなたが言う!?」

「いたたた」


 ついでに腕をつねられてヒルトラウトは顔をしかめる。冗談ですむ程度の強さだったので、それ以上騒ぎたてはしなかったが。コルネリアはヒルトラウトとギーゼラを引っ張って男性陣から少し離れ、言った。

「二人とも、恥ずかしがらないで結婚するときは連絡するのよ!」

「……」

 恥ずかしがることがすでに悟られている。ひとまず、二人ともコルネリアにうなずいた。


 帰り際、ヒルトラウトはギルベルトに遠乗りに誘われた。すぐさまルートヴィヒに却下されたけど。代わりに近くの公園に出かけよう、と言うことになった。短時間で行って帰ってくるだけなら大丈夫だろう、というお兄様ジャッジである。彼も、ギーゼラと出かけるときは気を付けているようだ。二人は婚約者と言う名目があるが、それでも貴族である以上周囲の目が気になる。そう言った約束もないギルベルトとヒルトラウトの場合は余計に。後は、ヒルトラウトが決断するだけのような気もするが。


 ヴァイデンライヒ侯爵家に帰宅してから、ヒルトラウトはルートヴィヒに尋ねた。

「参考になった?」

「お前、辺境伯と別れた瞬間にからかう姿勢になるのやめろ」

「……最近はギルベルト様の前でも結構遠慮なくからかってると思うのだけど」

「開き直ってきたな……むしろ、それでもぶれない辺境伯がすごい」

 確かに、ギルベルトはぶれない。まったく。最近、たまに笑ってくれるので個人的にはうれしいけど。


 やられっぱなしの兄は面白くないらしく、妹に向かって尋ねた。

「お前も、うらやましくなったんじゃないか。辺境伯に口説かれてるんだろ。返事をしてやればどうだ」

「……口説かれている気はするけど、明確に言われたわけじゃないもん。それに、私がいなくなるとお兄様さみしくなるんじゃないの」

「……くっ」

 なんだかんだでエルネスティーネが嫁いでいった時も寂しそうにしていたルートヴィヒである。だが、彼も妹に向かって言った。

「お前だって寂しがるだろ」

「……それはそうだけど」

 唇をとがらせてすねたように言う。すると、ルートヴィヒは再び声をあげた。

「だから! そう言う顔は辺境伯に向かってしてやれ!」

「……考慮しておく」

 以前は一刀のもと『無理』であったが、少し進歩している。ルートヴィヒは「前進している!?」と驚いていた。そんなにびっくりされると、腹が立つのだが。


「……いいか、ヒルト。あまり羽目を外し過ぎるんじゃないぞ。未婚の若い娘なんだからな!」


 危機感を覚えたのか寂しさを覚えたのか、ルートヴィヒが説教じみたことを言いだした。


「そんな事、私ができるはずないでしょ!」


 鋭く否定すると、ルートヴィヒが「それもそうか」とうなずく。ヒルトラウトとルートヴィヒは本質的なところで似ているのだ。二人とも、どこか臆病。


 最近、アイスナー辺境伯ギルベルトとともにいるところを目撃されているので、ヒルトラウトは『婚約者を妹に奪われた面白みのない女』から『年上の男をたぶらかそうとする悪女』にグレードアップしている。この情報を持ってきたのは、本日めでたく式をあげたマルガレーテと、情報通なコルネリアである。二人して、「ヒルトの顔を見てそんなことを言えるやつは頭がおかしい」と素晴らしい口の悪さを発揮してくれた。それにしても、ヒルトラウトはどんな顔をしていると言うのだろうか。

「……お前、辺境伯と出かけるの、楽しい?」

「うん」

 ヒルトラウトが素直にうなずくと、ルートヴィヒは彼女の頭を撫でた。

「そうか……お前もついに、他の男にとられる日が来たか……」

「……」

 もはやどこから突っ込んでいいかわからず、ヒルトラウトは沈黙で返し、それから言った。

「いや、どこに行っても、私はお兄様の妹だから」

「そうだな……」

 それにしてもルートヴィヒ、気が早すぎである。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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