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人形劇

作者: ポチ

かちり、と音がした。数回鐘の音がしたのちに、箱に収められていた人形たちが踊りだした。

 「からくり時計だね。」

 いつの間にかそばに来ていた女性が言った。

 「この国はからくり産業が発達しているんだって。一部ではからくり人形が人間の代わりに働いているとかって言ってた。まあ、人形遣いには関係ないか。」

 そうだね、と言いながら、差し出された観光パンフレットを受け取る。

 「じゃあ、行こうか、ししょう。」

 行こうか、そら。言いながら、歩き始めている彼女のあとを追いかけてぼくは歩きだした。


「『ようこそ、芸術と機械の地へ!』

『穏やかな気候が数々の巨匠を生み出しました。』

 『人と機械の共存を目指して。』

 …ひねりの無いつまらないパンフレットだねー。って聞いてる?ししょう?」

 きいてるよ。寝ぼけた頭で返事をする。

 「明日、領主のとこに行ってみようか。なんかあるかも。」

 わかった。半分寝ながら返事をする。

 「じゃあ、もう寝ようか。…明日、何か見つかるといいね。おやすみ。」

 彼女がくすくすとしている気配を感じながら、僕は夜に身を任せた。


 箱の中、人形たちが踊り狂っている。

 「入国審査の時もあったよね。それ。」

 いつの間にかそばに来ていた女性が言った。

 そら、と彼女に返事をする。

 「あったよ、ししょう。普通に展示してた。

ちょうど運びやすそうな大きさの絵画でした。」

 ぐにゃりと口をゆがめながら彼女は言う。

 「じゃあ、返してもらいにいこっか。」

 そういって歩き出した彼女の後にぼくはついていった。

 

 けたたましく音が鳴っている。その音をまったく気にしないまま、そらは小さな絵画を壁から取り外した。

 「『町の風景画』を手に入れた!」

 けたけたしながら、彼女は言う。その時、野太い大声が聞こえた。

 「あ、領主だ」

 そらが野太い声の主を見ていった。「領主」が何かわめいている。それを遮ってそらは言った。

 「私たちはただの旅人。この風景画はもともと私の国のモノ。だから、返してもらうね。」

 「どうやってこれをあなたが手に入れたかなんて関係ないよ。私の国のモノ。だから、返してもらう。何回も言わせないで。」

 「無茶苦茶?何言ってんの?大人たちで勝手に戦争して、勝手にほろんで、ほろんだからって勝手に何もかも奪い取っていって。無茶苦茶なのはそっちの方だろ!」

 「っと、熱くなってしまったね。ともかく、これはもらっていくから。 いこう、ししょう。」

 そういって、そら「領主」に背を向けようとしたとき、がしゃがしゃとやかましい音が近づいてきた。

 「今更警備員?遅いんじゃないの?」

 そらが言い終わる前に暗闇から姿を現したのは、無数の甲冑だった。


 部屋の中、甲冑たちが踊り狂っている。その中心にいるのはそらだ。

 「生け捕りにするつもり?甘い!」

 甲冑相手に踊っていたそらが、正面から切りかかってきた甲冑の懐に入ると、鋭い上段蹴りを放った。甲冑の頭が飛んだ。

 「っ、からくり人形か!なんかびりっとした!」

 いうが否や、そらは甲冑の輪の中からするりと抜け出してきた。

 「肉弾戦とは相性が悪いみたい。ししょう、出番だ!」

 親指を立てながら、そらはにこやかに言ってきた。

 「いっけぇ、ししょう!でんこうせっか!」

 何に影響を受けたのか、こちらに向かってきている甲冑たちを指さして、そらが叫んでいる。

 そらの叫びは無視して、ぼくは甲冑に意識を向けた。甲冑が動きを止めた。

 攻撃的な、野太い叫び声が聞こえた。

 「ふふん。人形使いにかかればこんなものよ。すべての人形は人形使いたるししょうの支配下にあるのだ。」

 そらが胸を張って言い放つ。

 「今度こそ、じゃあね。」

 そらが甲冑たちに背を向け、出口に向かおうとする。奇声が聞こえ、襲い掛かってくる人影が見えた。


 瞬間、時が止まった。

 そらが動き、時が再び流れ出す。

 「言ったでしょ、領主さん。すべての人形はししょうの支配下だって。『ヒトの形』をしたものは、ししょうに勝ち目はないよ。」

 そらが冷たく言い放つ。

 「もう、旅人に館を無料開放しない方がいいんじゃない?」

 動きを止めた人形たちを残して、そらとぼくは館を後にした。


 踊り狂っていた人形たちはお辞儀をしたのちに、箱の中に引っ込んでしまった。

 「今回は、すぐに見つかってよかったね。」

 隣で人形の踊りを見ていたそらがいう。

 「次は、どこに行こうか。暑いのは嫌だけど、寒いのもな。」

 ぼくの頭をなでながら、そらはぶつぶつとつぶやいている。

 「そういえばさ、領主が最後に『お前らは壊れてる』って言ってたけど、壊れてるのも、滅茶苦茶なのもこの世界のほうなのにね。」

 けたけたと声をあげながら、彼女は言ってきた。

 そして一泊しかいなかった国を後にする。

 そらが壊れているのか、世界が壊れているのか、ぼくにはわからない。

 どちらにしても同じことだ。

 ぼくの世界にはそらしかいないのだから。

久しぶりに書いてみました。相変わらずつたない話です。

もしも見ていただければ、感謝感謝です。

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