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ハクアとクー

 つぎの日。

 ハクアは、ふるさとから遠くはなれた大きな町にいました。

 そこは山とはちがってさわがしく、自然もほとんどありません。

 山そだちのハクアにとって、町は分からないことだらけ。

 エサをさがすのもひとくろうです。

 しかも、町のカラスたちはまっ白なハクアのことをきみわるがって、話しかけてもむしするばかり。

 だれも、ハクアに近づこうとしませんでした。


「どうしよう、お腹がすいてもう飛べないよ……。どこかに食べものないかなぁ」


 ひとばんじゅう飛び続けて、ハクアはもうクタクタです。

 このままじゃ力つきてしまうかもしれません。

 はやく何か食べないと……。

 ハクアはさいごの力をふりしぼって、町の上を飛びつづけました。

 すると、


「あれ……?」


 ふと、小さな白いものが目にとまりました。

 まんまるで、ふかふかしていて、なんだかぴょこぴょこ動いています。


「なんだろう、あれ。食べものかなぁ?」


 ハクアは気になってしかたありません。

 地面におりて、その小さくて白いものへと近づいてみることにしました。

 そっとそっと、気づかれないように……。




「おにいちゃん、だあれ?」


 そこにいたのは1羽のハトでした。

 しかも、まだまだ小さな女の子です。

 エサじゃないことにがっかりしたハクアでしたが、


「ぼくはハクア。きみは?」


「クーだよ! はじめまして、ハクアおにいちゃん! よかったぁ、やっとなかまがみつかった!」


 クーはおおよろこびで、おしりをふりふりしてみせます。

 真っ白なハクアのことを、なかまのハトだと思ったのでしょう。

 そのようすを見て、なぜだかハクアまでうれしくなってきました。

 ようやく、いっしょにいられるなかまをみつけたような気持ちになったのです。


「クー、とってもかわいいなまえだね。でも、こんなところでどうしたの? お母さんとお父さんはいっしょじゃないの?」


「えっとね、クーがむしさんとあそんでるあいだにはぐれちゃったみたい。ハクアおにいちゃん、みなかった? クーとそっくりの、しろいハト!」


 ハクアは首をよこにふりました。

 どうやら、クーはまいごになってしまったようです。


「そっかぁ。みんな、どこへいっちゃたんだろう? クーのこと、ちゃんとみつけてくれるかなぁ?」


 話をきいているうち、ハクアはだんだんクーのことがかわいそうに思えてきました。

 自分がひとりでさびしいように、きっとクーもさびしいにちがいありません。

 せっかく出会えた、自分と同じまっ白な女の子。

 何かしてあげられることはないだろうか。

 お腹がすいていたことなどすっかりどうでもよくなって、ハクアはいっしょうけんめい考えます。


「……そうだ。じゃあ、ぼくがいっしょにさがしてあげるよ、クー」


「ほんと!? ありがとう、ハクアおにいちゃん! クー、おにいちゃんのこと、だいすき!」




 それから1日じゅう、町のなかをさがしまわったハクアたち。

 そのあいだ、ハクアはクーにじぶんのことを教えてあげました。

 生まれた山のこと。

 家族のこと。

 フーカのこと。

 そして、じぶんがいまひとりぼっちだということも。

 ぜんぶぜんぶクーに教えてあげました。


 でも、ひとつだけ。

 じぶんがカラスだということだけは話しませんでした。

 だって、話したらクーになかまじゃないことがバレてしまいます。

 そしたらクーに嫌われてしまうかも……。

 なんとなく、そんな気がしたからです。


 自分はクーとおなじ、まっ白なハトなんだ。

 ハクアは、そうおもいこむことにしたのでした。




 やがて日もくれはじめ、駅まえの大きな公園にたどりついた時です。


「クー? クーだよね!」


 どこからともなく、声がきこえました。

 ふりむいたハクアたちのまえにいたのは、


「あ! パパとママ!」


「よかった、クー。ほんとうによかった! ずっとさがしてたんだよ。とつぜんいなくなったものだから」


「ごめんなさい。でも、クーもおパパたちのことさがしてたんだ! ハクアおにいちゃんといっしょに!」


「ハクアおにいちゃん?」


 クーのお父さんは、ふしぎそうにハクアを見つめました。


「ねえ、パパ。ハクアおにいちゃん、このまちにきたばっかりでひとりぼっちなんだって。おうちがみつかるまで、クーたちといっしょにいてもいいかなぁ? いいよね!」


 クーのことばに、じっと考え込むお父さん。

 なんだか、とってもむずかしい顔をしています。

 ハクアは不安になりました。

 お父さんは自分のことをあやしんでいるように思えたからです。

 しばらくして、

 

「ざんねんだけど、この子はカラスの子だ。ぼくたちのなかまじゃないんだよ、クー」


「うそ! だって、ハクアおにいちゃんくろくないもん! クーとおなじまっしろだもん!」


 クーはひっしにうったえます。

 

「まっ白でも、ハトじゃないんだ。いっしょにはいられないよ。クーだって知ってるよね。カラスはハトのてんてきだって」


 お父さんの話をききながら、いたたまれないきもちになったハクア。

 それでもクーはあきらめません。

 ひっしにお父さんをせっとくします。

 なんどもなんども、ついには目もとに涙をうかべてまで。


 しかし、お父さんの気持ちはかわらないようでした。

 これいじょう、めいわくはかけられません。

 ハクアはとうとうけっしんします。

 


「お父さんのいうとおりだよ、クー。だまっててごめんね。ぼく、本当はカラスの子なんだ」


 さびしげな声でそう言うと、ハクアはクーにせをむけました。

 そして、なきじゃくるクーをふりかえることなく、


「まってよ、ハクアおにいちゃん! クーをおいていかないで! おにいちゃんがカラスでもかんけいないよ! だって……」


「ありがとう、クー。すこしのあいだだったけど、きみとおともだちになれてよかった」


 まっかな夕日にむかって、しずかに飛びさっていったのでした。

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