ハクアとフーカ
とある山のいただきに、雪のようにまっしろな、一羽の子ガラスがおりました。
なまえはハクア。
お父さんにお母さん、二羽のお姉ちゃんガラスといっしょにくらす、ちょっぴり気弱な男の子のカラスです。
ある日のこと。
ハクアはお姉ちゃんたちにつれられて、山のふもとにある、小さな神社までやってきました。
そこは子ガラスたちの遊び場。
ハクアとおなじくらいの子ガラスたちが、カァカァカァとはしゃいでいます。
「さあ、ハクアもみんなにまざっておいでよ!」
でも、ハクアはなかなかう動きません。
白い体をぶるぶるふるわせ、おびえたような声をあげるばかりです。
「どうしたの? ほら、おともだちがあんなにいっぱい!」
「みんなで遊べばたのしいよ?」
お姉ちゃんたちがそう言っても、
「ぼく、こわいよ。だってみんな黒いのに、ぼくだけまっ白なんだもん。きっとみんな、ぼくをきみわるがって遊んでくれないよ」
弟のこたえに、お姉ちゃんたちはすっかり困ってしまいました。
ハクアは昔からこうなのです。
まっ白なからだのことを気にして、ほかのカラスたちに近づこうとしません。
このままじゃ、ずっとひとりぼっちになってしまう……。
お姉ちゃたちは、ハクアのことがしんぱいでした。
「どうしよう?」
「うーん、なにかいいてはないかなぁ」
そうやって、そろって首をひねっていると、
「ねぇねぇきみ。そんなところでどうしたの? こっちにおいでよ。あたしといっしょにあそぼうよ!」
カラスの女の子が一羽、トコトコと近づいてきて、ハクアに話しかけました。
「でも、ぼく……」
「いっておいでよ、ハクア」
「がんばってお友だちをつくらなきゃ!」
お姉ちゃんたちにすすめれるまま、ハクアは小さくうなずきます。
それを見たカラスの女の子は、うれしそうに羽をパタパタ。
「やった! ほら、きて! こっちだよ!」
「ま、まってよ! きみのなまえは!?」
「あたしはフーカ! さ、あそこの木まできょうそうしよう! えーと……」
「ぼ、ぼく、ハクア」
「ハクア! すてきななまえだね! よろしく、ハクア!」
こうして、はじめてのお友だちができたハクア。
その日も、そのつぎの日も、そのまたつぎの日も。
日がくれて、お姉ちゃんたちがむかえにきてくれるまで、ハクアとフーカはなかよくいっしょに遊ぶようになったのでした。
*
それは、フーカとお友だちになって、何日かたったころです。
いつものように、ハクアはフーカと遊んでいました。
フーカはとっても明るい子で、ハクアは毎日がたのしくてたのしくてしょうがありません。
すっかりじぶんの体のことなどわすれていたハクア。
そんなとき、数羽の子ガラスたちがやってきて、こんなことを言ったのでした。
「ねぇフーカ、どうしてアヒルなんかと遊んでいるの?」
「ちがうよ、ハクアはアヒルじゃないよ!」
「じゃあハトだ! それともツルのこどもかなあ?」
「ちがうよ、ハクアはハトでもツルでもないよ。あたしたちとおなじ、カラスの子だよ!」
フーカのことばに、子ガラスたちはそろって顔をみあわせます。
「そんなはずないよ、フーカ。だってこいつ、雪みたいにまっ白じゃないか。白いカラスなんてカラスじゃないよ」
「そうだそうだ。こいつはカラスなんかじゃない。ほら、いこうよフーカ。こんなきみわるいやつといっしょに遊ばないほうがいいって!」
子ガラスたちの言葉に、ハクアはとってもキズつきました。
それどころか、
「なんでそんなこというの! ハクアはあたしの友だちなんだよ! 体の色なんて関係ないよ!」
「なぁ、きいた? フーカ、この白いやつと友だちなんだって!」
「えー! へんなやつ! おれ、もうおまえと遊ぶのやめる! おまえなんかなかまじゃないよ! ほら、さっさとどこかいっちまえ!」
「そうだそうだ! おまえなんてなかまじゃない! どっかいけよ! いけったら!」
フーカにむかって、足もとの砂をけりかけた子ガラスたち。
とうとう、フーカの目からはなみだがポロポロあふれてきました。
でも、かなしいのはハクアだっておなじです。
「ぼくのせいだ。ぼくが白いから、ぼくなんかと友だちになったから、フーカがこんな目に……」
そう思った、つぎのしゅんかん。
「……え!? まってよ! ハクア!」
いきおいよく、ハクアはその場から飛びたちました。
そのまま、フーカとは反対のほうこうに、まっすぐまっすぐ飛んでいきます。
「ハクア! ハクアー!」
よびかける声は、どんどん遠くなり……。
やがて、すっかり聞こえなくなりました。
*
それから、どれくらいの時間がたったか分かりません。
お日さまはすっかり見えなくなって、空には大きなお月さまがのぼっています。
その白い光にてらされて、いきもたえだえになったハクアが、のはらに一羽たおれていました。
体にはいくつものキズができ、羽はところどころボロボロです。
おそらく、木々の枝にひっかかったのでしょう。
どうやってここまで飛んできたのか、ハクアはまったくおぼえていませんでした。
ただ、それでも、
「やっぱりぼくは、みんなといっしょにいちゃいけないんだ。だって、ぼくが白いから、フーカをあんな目にあわせたんだもん」
そんな思いだけははっきりしていて、ハクアの心をしめつけます。
もしかしたら、自分のせいで大好きな家族にまで嫌な思いをさせるかもしれない。
そう考えると、もうじっとしてはいられませんでした。
「ぼくはみんなとちがう。だから、ぼくはひとりでいないといけないんだ」
小さなくちばしでつぶやいて、ハクアはゆっくり立ちあがります。
そして、キズだらけの羽を大きくひろげ、ふるえる声でひとなきすると、
「ばいばい、みんな。今までありがとう。ぼくは、ぼくのほんとうのいばしょをさがしにいくよ」
暗くて深い夜の空へと、ひとおもいに飛びこみました。