表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

5/かつて失くした未来の君と、これから出会ういつかの君と。

「昔の写真とかないの?」

「恥ずかしいから見せない」

「何でさ。制服姿とか凄く萌えそうじゃないか」

「変態」

「いや性癖としては普通なラインだと思うけど」

「嫌。昔は少し、ほら、はっちゃけてたし」

「想像できない……余計見たくなってきた」

「だから駄目だってば」


   ◆

恵比寿ガーデンプレイスは、恵比寿駅から直結した複合施設だ。

向かい合ったオフィスビルと商業施設の中心、窪んだような位置に階段に囲まれた広場があって、ちょうど凹の字のようになっている。

レンガの赤茶と植樹の緑の景観が美しい広場には雨避けのアーチがかかり、憩いの場としてはもちろん、イベント会場としても頻繁に使用されていた。

広場にはクリスマスイルミネーションである巨大なシャンデリアが鎮座している。時期にはまだ早いためにライトアップこそされていないけれど、高さ五メートルほどもあり十分な迫力を見せていた。


仕事では何度か訪れたけれど、高校生の目線で見るといかにも洒落た、端的に言えば場違いな印象が拭えない。

行き交う人々も勝ち組(にしか見えない)ビジネスマンや奥様方ばかりで、高校生の姿は少なかった。

裏を返せば、目立って見つけやすいかもしれない。


「よし」


時刻は十七時過ぎ。

空はもう暗くなっていて、橙色の街路灯が周囲を照らし出していた。

風が強い。冬の気配を伴った寒風が吹き抜けて身震いした。

早めに帰ろうか、なんて言い出しかねない寒さだ。

焦る気持ちに急かされるようにして、僕は商業施設の方へ走り出した。


会ってどうする?

ずっと考え続けて、答えは出ないままだ。


別の高校に通う僕らに接点は一つとしてない。

出会いのきっかけとなったラジオはまだ始まってすらいない。

上映済みで彼女の好きな映画ならいくつも挙げられるけれど、初対面でそれ話すか普通。

一体なんて声をかけたらいい。

そもそも声をかけるべきなんだろうか。

過去、変えていいですか?

正答は誰も教えてくれない。


ナンパ、になるんだろうか。

男子高校生が他校の女子高生をナンパ?

それ笑える。いや笑えない。やろうとしているのは僕だ。

やばい。この息切れも動悸も、走ったせい――なんかじゃない。

近くに暁がいると思うと。

緊張。汗が滲む。混乱する。

タイムスリップしたって自覚をした時以上に、気持ちの整理がつかない。

暁はなかなか見つからない。

いっそ見つからない方が安心するかもしれない。

もう帰ってしまったのかもしれない。

だとしたらそれはもう、彼女が同級生の彼と再会しているということだ。

それは嫌だ。

それだけは明確だった。

たまらなく、嫌なんだ。

どこにいるんだ。

暁。

月村暁。


結局、二階から地下二階までの四階層をくまなく探したけれど、暁の姿はなかった。

入れ違いで階をまたいでしまった可能性も考慮して二周した。

それでも彼女の姿は見つけられなかった。


彼女の好きそうなカフェの店内をぐるりと探したのを最後に、僕は広場に戻ってきた。

両膝に手をついて、長く息をついた。

疲れた。汗だくだった。ずっと気を張っていたから、思った以上に息が上がって頭がくらくらする。熱を持った身体を、強風が否応なく冷ましていく。


時刻は十八時半。

駄目か。

過去を変えるのは簡単じゃないようだ。

徒労感に包まれながら身を起こして見上げるのは、無灯火の巨大なシャンデリア。

クリスマスにはさぞ綺麗に輝くのだろう。

クリスマス。

どうも僕はイエスに嫌われているらしい。昨夜のプロポーズも失敗して、そして今も。

どうしたってこんな意地悪、を。

荒くついていた息が、ふと、止まる。

心臓が大きく跳ねる。

見開いた目で見る、シャンデリアの向こう側。

階段を上がった先――よく見知った、けれど初めて見るその姿に、僕の意識は奪われた。

制服に身を包んだ女の子が、同じ制服を着た女生徒と連れだって談笑している。

すらりと伸びた長身。

肩をくすぐる長さの黒髪。

理知的な切れ長の目に、旺盛な好奇心を思わせる大きな瞳。

離れていても、僕にはそれが分かった。


月村暁。


彼女がそこにいる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ