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黒羽天 ─愛憎の退魔少女─  作者: 壱原優一
第2章 “Loving can cost a lot, but not loving always costs more.”
22/26

The past of Black

 かつて、人々が妖怪を認めていた時代があった。


 鬼という種族を恐れていた時代があった。

 鬼はあちらこちらで好き勝手暴れていた。


 天狗が恐怖の象徴として台頭するより以前のことである。


 そんな時代において、生まれつき霊力を有する者が、やがて退魔師にならんと決意するのは当然の流れであろう。

 齢十となった彼も、その一人であり、彼が向かったのは量よりも質を重んじる退魔集団──その修行場であった。


 そこで彼は新たに〝風然ふうねん〟と名付けられる。

 同期は〝明澄みょうちょう〟と呼ばれる者、ただ一人。

 故に風然と明澄はとても仲が良く、一級の退魔師となるべく切磋琢磨した。

 山籠もりし修行に没するようになって、三年後に下山が許された。

 それは自らを退魔師と名乗る資格を得たと言い換えられる。

 わずか三年でそれを得られた前例はなく、風然と明澄の二者は天才と持て囃された。

 どちらかが退魔集団の次期頭目となろう、とも。


 風然はある者に問われて、こう答えた。


「頭目? そうさなぁ……『なれ』と言われたらなるかな。ああ、興味はない。前線が性に合うんだわなぁ」


 その言葉通りに、風然は退魔師となって以降、集団が身を寄せる山には滅多に帰ってこなかった。

 あちらこちらに行って、暴れる鬼や危険な妖怪を倒していった。

 その隣には常に、明澄がいた。

 二人は無二の親友であったと言えよう。


 四年を経て、ある日、風然は唯一の友に打ち明ける。

 場は宿屋で、晩酌をしている時である。


「嫁にしたい女子おなごがおる」


 途端に、明澄が心底驚いた声を出した。


「ほう! 意外だな、お前に色恋がわかるとは」

「失敬な奴だ。俺とて人に恋し、愛することもある」

「そうかい」

「ニヤニヤすんじゃねえ!」


 風然は手の中の猪口をあおると、空になったそれを明澄目掛けて投げつける。

 そのようなことは日常茶飯事で、なにも風然だけがするわけでもない。

 お互いに慣れたもので、今回は明澄が難なく受け止めて酒を注いでから返した。


「まったく、お前という奴は、いつも人をからかいおってからに……」


 ぶつぶつと呟きながら、風然は注がれたばかりの酒に口をつける。

 それを見計らったかのように「それで、どこの女なんだ?」と明澄に問われたものだから、つい吹き出してしまった。


「そこまで言わなきゃ駄目なのか?」

「そんなことより、俺の顔にぶっかけたことを、まず謝れよ」

「あ、すまんすまん。これで拭け」

「まったく……。で、話を戻すが、どこの女だ? 俺も知ってるか?」


 顔を布巾で拭きつつ、続ける明澄に風然はやや呆れた表情をする。


「やけに興味津々なんだわな。意外だ」

「お前が惚れる女だぞ。誰でも興味あろうよ」

「……本当に失敬な奴だよ、お前さんは」

「俺の予想だと、いなさ殿あたりじゃあないかと、思うんだがね?」


 それはまさにご名答で、風然は黙したまま、また酒を一気にあおった。

 その反応に明澄が気を良くする。


「やはりそうか。いやぁ、うむ、あれは実に良い女だ。俺は御免だがね。しかし、ふうが気性の荒い女が好きとは知らなかったなぁ」

「……あれで中々、可愛げあるんだわ」

「ほう、もうそんな仲にまでなっているのか! いやそうでなければ、お前が嫁にしたいとまでは言わんか」


 自分から口に出したとは言え、思った以上に食い付きがよく、いい加減に鬱陶しくなった風然は明澄に酌をしてやりながら「お前さんはどうなんだ」と問う。


「俺か?」

「そうさ、あきだって色恋がわかるようには見えんがねぇ?」

「少なくともお前よりは、多く女を知ってるよ」

「喧嘩なら買うぞ。……どうやら女遊びを控えん限り、貰い手はなさそうさな」

「おい、俺が貰われるのか?」

「感謝せえよ」


 この酒宴の頃より一年後、風然は件のいなさと婚姻をあげた。


 それから翌々年、現頭目が流行り病に罹り逝去してしまう。

 全盛期にはこの国で五本の指に入る退魔師と謳われた男も、病の前には為す術がなかった。


 そして風然と明澄を含む七人の退魔師に、次期頭目になるための試練が与えられる。

 経歴で言えば二人は未だ若輩であるが、実績と力量から見て、多くの退魔師が、やはり風然と明澄のどちらかが頭目となるだろうと予測した。


 だが試練の内容が発表されると、誰もが「風然が次の頭目だ」と噂しだす。

 何故ならば、特定の妖怪を討伐するという一次試験の後に、所属退魔師全員の投票を課すとの旨があったからである。

 討伐試験については、万が一が起きない限り、七人誰もが通過するだろう。

 それだけの力を有した者たちである。

 そこに差をつけるとすればやはり、人望の厚さが良いだろうと、故頭目は考えたようだ。


 ある者は二人をこう評価する。


「風然様は人柄も良く、皆の信頼を集めております。しかし少々、気まぐれなのと、旅がらすであるのが珠に疵でしょうか。明澄様は力に関しては一番でしょうが、性格に難あり。妖怪を殺すことを楽しんでいるような節があります。確かに妖怪は我らが敵ですが、だからと言って、なぶりものにするのは……」


 また別のある者はこう評価する。


「風然殿ならば安心できます。彼には弱き者への慈しみがある。特に婚姻を結ばれてからは、お山の修行場に赴いて後輩に指導を付けておりますし。明澄殿も同様ではありますが、どうにも彼は、自身の気に入った者しか見ないようで……。後人育成と言うより、子飼いの部下を作るかのようですな」


 一年を掛けて、全国に散る退魔師らの票を集計した結果、風然は齢二十一にして総勢二百名の退魔師を従えるかしらとなった。

 そして同年、第一子をもうける。

 長男であった。


 明澄を補佐として登用し、雑務をもっぱら彼に押し付けて、自身はなお前線と修行場に足を運んだ。

 その様子から、次第に明澄へと同情が集まっていく。


「我らが頭は、いささか落ち着きがなさすぎる。いい加減、どっしりと構えて欲しいものだ」

「明澄師なければ組織運営もままならぬであったろうなぁ」


 といった具合に、かつて七人の中で最も人望の低かった明澄の株があがっていく。


 それが頃合いであると、彼は考えたに違いない。


 風然にとって、明澄は唯一無二の友と言えよう。

 しかしながら、明澄にとって風然は必ずしもそうではない。

 初めて出会った時から、明澄は心の内で風然のことを敵視していた。

 その頃はまだ、好敵手に向ける視線であったのだろう。

 互いに高め合える良き友であったのだろう。

 しかしながら、時が流れるにつれ〝二番手の男〟という評価を、周囲から受けることに我慢ができなくなっていった。

 風然のことを目の上のたんこぶだと、思うようになっていった。

 その〝たんこぶ〟から、人望を奪えるようになった。

 それほどの地位に、今、己はあるのだとひとたび実感すれば、最早欲望はとどまることを知らない。

 遂に風然を蹴落として、自身こそが頭目となる時が来たのだと、明澄は確信していた。


 友の仄暗い野心など露も知らず、齢二十六となった風然は、夏の頃に、西方の山で悪名高き〝牛鬼〟を討伐しに赴くこととなる。

 牛鬼は海、あるいは沼や湖などの水回りに生息する妖怪であって、名前こそ牛に鬼であるが、外見は胴体が蜘蛛のようで、頭は翁の顔に二本の角が生えている。

 大きさは牛並だ。

 肉を溶かす毒を吐き、それでとろけた人を喰らう。

 一度は部下を送り込んだのだが、これが帰還せずにいたため、明澄の薦めもあって頭目は自ら出陣することを決めた。


 ──その日は満月だった。

 牛鬼は沼を背にして待ち構えていた。

 まるで風然が来ることをわかっていたかのよう。

 そして邂逅一番、口から毒を吐き飛ばす。

 しかし紫色の毒液が風然の身に触れることはなく、辺りに飛び散らされてしまう。

 風の防壁が風然を守った。


 風然は静かに抜刀し、穂先を牛鬼に突き付けて言う。


「一応聞くが、言葉はわかるか?」


 その返答は吶喊で済まされた。


 突っ込んでくる巨体を、風の力で高く舞いあがることで躱し、


「ならば死んでもらう」


 次いで彼は能力を解除。

 自由落下の加速を利用して、角の生えた頭部に深々と刀を突き立てた。

 ぐるんと牛鬼の目玉が白目をむき、体を支えていた八本の脚がくずおれる。

 妖気が縮小するにつれて、その体も小さくなっていく。やがては完全に消失するだろう。しかし、あまりにも呆気ないと、風然は感じていた。どうして部下は帰ってこなかったのか、腑に落ちないものがある。


炎真えんじんが、これに負けたとは考えにくいんだわなぁ。となると、別に強い妖怪がいるのか?)


 念のため警戒を続けながら刀を引き抜いた瞬間、牛鬼の目がぎょろりと黒くなって、その口が大きく開いた。


「しまった!」


 思わず叫んで風を纏うも、吐き出される全ての毒液を弾き飛ばすことは叶わず、顔を庇った左腕が焼けただれた様になってしまう。

 即座に、風然は刀を振るって風の刃を飛ばし、牛鬼を両断すると、元からおよそ半分ほどの小ささになっていたそれは、灰のようになって散り散りに飛んでいった。


「くそ、俺としたことが油断した。情けねえ」


 と己に憤る風然の背後に、新たな気配が三つ現れる。

 振り返って見れば、やれやれと溜息を吐きたくなった。


「牛鬼と、化け蛇、それからお前は……」


 二匹の妖怪を従えて、真ん中に、額から一本の角を生やした人型の妖怪がいる。


「……鬼だな」


 牛鬼や鬼女のように、その名に〝鬼〟の一字を含むものは少なくない。

 しかし、ただ〝鬼〟の一語で呼ばれる妖怪は、この時代では妖怪の頂点、ひいては人の恐怖を司る妖怪と言えた。

 人語を解し、角を持つ妖怪がそれだ。

 退魔師が目指すべくは、この〝鬼〟の根絶なのである。


「しかし、珍しいな。鬼が他の妖怪を従えるか」


 風然のそれは独り言のようなものだったが、鬼は答えた。


「悔しいが、お前より強くねえんだとよ。確実に倒すには、このくらい用意しろってな」

「光栄だわな。そんなに俺は有名人か?」

「一流の退魔組織〝つるぎ〟の頭目なんだろ? 十本指に入るらしいじゃねえか、強すぎるぜぇ。わくわくするぜぇ」

「〝前〟は五本だったからなぁ……やっぱりまだまだかな、俺は」

「それはよく知らんが、これからなんじゃねえの。まっ、その『これから』は永遠に来ねえんだけどなァ!」


 無駄話は終わりだ、と言わんばかりに、鬼と二匹の妖怪が風然に迫る。

 だが彼は余裕の様子で一つだけ問う。


「ちなみに、炎使いとやりあったことは?」

「あァ!? そんなこと俺が知るか!」


 それを聞いて風然は、ぼそりと「馬鹿な鬼はいいわな」と呟いた。

 この戦いが仕組まれたものであることに、気付き始めていた。


 片腕に傷を負い、一対三という状況であっても、戦いは風然の優勢で進んでいく。

 先に一度倒した牛鬼をまた退治することは容易く、また、青白く発光し人間を丸飲みすることもできそうな程に大きな蛇も他愛無く三枚におろせた。

 しかし残る鬼は簡単ではない。皮膚は硬く、動きも機敏だ。


「どうした風使い! そよ風かァ!?」


 と鬼が威勢よく吠える。

 しかし実際には、その身には幾つも切り傷を作られているのだが、気にならないらしい。

 それもそのはず、傷は既に塞がりかけている。

 しかし風然に焦りの表情はない。


「おい鬼。お前さん、誰に雇われた?」

「あ、あァん? なんのことだよこの野郎、馬鹿野郎」

「動揺してんじゃねえよ」

「だーれが動揺してるってんだ!」


 風然は右から来る大振りを、しゃがんで躱した。

 相手の腹部目掛けて、刀を見舞う。

 すると相手は咄嗟に、斬られた部分に手当てをしながら後方へと跳んでいった。

 それに追撃とばかりに、冷たい声を浴びせる。


「次は首だ。だが言えば、ここでは見逃してやる」


 鬼の指の隙間からは血がどくどくと流れ出ている。

 今までの掠り傷とは違う、確かな一撃だ。


「強ぇな、風野郎」

「伊達に頭やってないんだわ。だから、な? 言えよ」


 その言葉に鬼が、忌々しげに舌打ちをした。


「……今じゃ、もう、人間が鬼を見下す時代か。ほんッと、腹立つぜ、貴様も彼奴もな」

「やっぱり人間に雇われたのか。鬼の恥だとは思わなかったか?」

「強い奴と戦うのが鬼だぜ。お前と戦う舞台を整えてもらえりゃ、そんくらいの恥は飲み込める」


 なにも言わず、風然は刀を鞘に納めた。

 その様を見て「なんのつもりだテメェ!」と鬼が激昂する。

 恩情を与えられたと思ったのか。

 しかし退魔師は再度、柄に手を掛けると言った。


「来な。受けてやる」


 鬼が笑う。

 そして傷から手を離して構える。

 次第に妖気、鬼であるから鬼気が高まっていく様子が風然にはありありと感じられた。

 そして今まで奴も遊んでいたのだと知る。

 奴は初めに言った。

 風然よりは強くないと、しかし「嘘吐きめ」と風然がぼやく程には強い。


 勝負は一瞬だった。

 鬼が吶喊し、風然がその首を撥ねた。

 だが鬼気の衝撃に、風然も全身を強く叩かれたようで、筋肉という筋肉が悲鳴をあげている。


「お、おぉ……! この鬼、最後の最後に、やるじゃねえか」


 ひぃひぃと苦悶しながら、ゆっくりとした足取りで、風然は来た道を戻っていった。


 道中、前方に人影を見る。

 満月に照らされて浮かび上がる彼の姿に、風然はほっと一息吐いた。


「なんだ、明澄か。びっくりさせんなよ」

「はは、すまんすまん。どんなものかと心配になってな」

「いやそれは、いいんだが、本部の方はどうした?」

「少し急用があってね」

「本当か! ちょうどいい、俺も話がある。実は俺たちの中に裏切り者が……あ?」


 深々と胸に小刀を突き立てられて、風然の目が丸くなる。


「明澄……?」

「悪い。それ俺」


 まるで悪びれた様子なく、明澄はそう言った。

 霞んでいく風然の目に映るのは、そんな彼の暗い瞳だけだった。

 今まで一度も見たことのない色をしていた。


「俺、ずっと嫌いだったんだよ、風然のこと」


 地に伏すかつての友を見下ろしながら、明澄は満足げに微笑む。

 心からの笑顔を初めて浮かべたのではないか、そう思わせるほどに良い笑い顔だ。

 血塗れた小刀を適当に放り投げると、彼は踵を返して山を下ろうとする。

 その足を止めたのは、風然の立ち上がる気配だった。


 明澄が肩をすくめて言う。


「呆れた生命力だな」

「伊達に……退魔師じゃねえぜ……」

「それで、立ち上がってどうする?」


 問いかけに風然は、ただ刀を抜いて示した。


「そこから一歩でも動けたら、たいしたものだがな」


 右腕を真っ直ぐに、明澄へと向ける。

 だがそこから先に動きはしない。

 肩で息をしながら、絶え絶えと言葉を紡ぐ。


「……明……お前の……」


 言い終わる前に、刀をぽろりと手放す。

 体がぐらりと前方へと倒れていく。

 だがしかし、風然はその動きをこそ利用した。

 大きく一歩を踏み出しながら、地面に落ちかけた刀を左手で拾い上げて振るう。


「うああ!」


 切っ先が、驚愕に目を見開く明澄の、右腕を引っかけた。

 傷は浅い。が、明澄の精神には深く刻まれた。

 明澄は憤怒に満ちた瞳を地に伏した風然へと向ける。

 最早それは、ぴくりともしない。

 まだ微かに霊力を感じるものの、冥途への旅路を引き返すことは決してない。

 その死にぞこないを、彼は足蹴にする。

 風然は苦しみの声をあげることもなかった。それが余計に苛立たせられる。


「くそ! くそくそっ! 風然、貴様覚えておけよ!」


 そう言い残して、明澄は今度こそ本当に山を下っていった。


 そいつは無理な相談だ、と風然は言いたかったが口がまるで動かなかった。

 瞼も重い。

 脳裏を走馬灯が巡る。

 生家のこと、組織のこと、嫁のこと、子供のこと、様々な思い出が通り過ぎて、最後に行き着いたのは、友に言おうとした一言だった。


「お前の……悪癖だ」


 慢心と油断。

 だがそれは、もしかしたら己に向けた言葉だったのかもしれない。

 慢心、そして油断し死期を迎える自分自身に。


 かぜが、彼の頬を撫でる。

 温くもなければ冷たくもない、そんな風だった。




 傷が癒えるのを待ってから、明澄は退魔師の総本部へと戻る。

 その足取りはとても軽やかなものだ。

 戻ったらまず頭目が殉職したことを告げて、次に〝遺言〟という形で自身が頭目になることを宣言する。

 文句がある者は子飼いの部下を使って暗殺する。

 人望がだいぶ厚くなっているから、誰も疑いはしないだろう、と明澄は考えた。


 しかし彼を待ち受けていたのは、激しい糾弾の嵐だった。

 子飼いの部下も既にひっ捕らえられている。


「役立たず共め!」


 何故、こうなったのか。

 それは風然の〝遺言〟の所為である。

 彼は最後の力を振り絞り、自身の操る風に〝遺言〟を載せた。

 それは明澄が悠々と帰路に着く間に、総本部まで届いて彼の悪事を白日の下に曝したのだ。

 いくら明澄の人望が厚くなろうとも、頭目からの告白とあっては調べられないはずがない。


 明澄は牢屋にて沙汰を待つ身となった。

 力を封じる手枷足枷のために脱獄もままならない。

 そして一週間が過ぎて、夜に、


「明澄、出ろ」


 と牢番に促された。

 その不遜な物言いに、明澄は怒りを露わにする。


「貴様ァ、誰に口を利いている」

「我らが頭目を殺害せしめた、大罪人にだ。さぁ、出るんだ」


 怯む様子なく返答されると今度は打って変わって、殊勝な声音となった。


「……俺は死罪になるのか?」

「覚悟をしておけ。俺からは、それしか言えぬ」

「……ほとんど答えじゃないか」


 項垂れたまま明澄は、中庭に誘導される。


 そこには既に大勢の退魔師が集結していた。

 組織に属す者、ほとんどがいるかもしれない。

 彼らの作る輪の中心で、明澄は跪くよう命じられた。

 その上、普段、内心で見下していた者どもに侮蔑の視線と罵倒を投げつけられるのだ。

 彼にとってそれは屈辱的な仕打ちだった。


 明澄の傍に一人の男が近寄る。

 手に刀を握っている。

 それを睨み付けながら、明澄は口を開いた。


「斬首にするのか。この俺を」

「そうだ」

「退魔師として、最も優れたこの俺を!」

「それは我らが頭目のことだろう」

「違う! 奴を超えた、この俺こそが──!」


 最後まで言葉を発することは許されなかった。


 胴と首を別たれた亡骸は、この後、燃やされ灰燼に帰して野山へ散らされる。


 だがしかし、その執念深き魂は現世から離れて、魔道に堕ちていた。

 そこで新たに肉体を得て、彼は〝天狗〟として復活を遂げる。

 長い時をかけたためか、前世の記憶はない、名前も生まれも忘れている。

 それでもなお失わなかったものが、風然への怨みと執着である。


 生まれ変わりし明澄は──否、黒羽天クロバテンは、ある場所を目指して飛ぶ。

 そこはかつての友の家。

 今はその嫁と息子、それから孫が暮らす家へと降り立って、ただ一人の孫を除いて全てを殺した。


 そして彼はまだ幼き旧敵の孫に語りかける。


「風然、覚えているか? この俺のことを」


 その孫には霊力があった。

 それ故、黒羽天は、彼が風然の生まれ変わりに違いないと、思い込んでいた。

 だからただ一人生かしたのである。


「さぁ、風然。また競い合おうぞ!」


 こうして東風谷と黒羽天の、長きに渡る因縁の戦いが始まった。

 それは途中、天狗同士の戦争から黒羽天が隠れるために打ち切られたが、東風谷雲雀の誕生を再開の鐘とするのだった。

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