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第9話

 見られている気がする。

 それは私の気のせいではないはずだ。

 振り返れば恐らく視線はそらされるのだろう。私が敢えて振り向かないのは、その視線が一つだけではないからだ。

「あんたら派手な顔しすぎだろ。無駄に目立ってる。なあ、先に帰ってもいいか?」

 私の前を歩くのは、レイとワット、そして太一だ。私の隣には真希がいる。

 前の三人も真希も、人から注目されるだけの容姿をしている。

 さっきから鬱陶しいほどの視線にうんざりしていた。芸能人でもないのになんでこんなに注目されなければならないのか。しかも、おまけで。

「確かに見られてるかもしんないけど、ほとんどの視線はレイとお前だろ」

 太一がそう言った。

 学校から出る頃にはもう既に、太一はレイとワットと馴染んでいた。

「何? 私はそんなに美しいのか?」

 おちゃらけた声でそう言った。

「お前は美しいよ」

 太一がいつにもまして真面目に褒めてくるので戸惑いを感じた。だが、それが私を引き留めるために煽てているのだと分からないほどおバカではないのだ。

「褒めたってなんも奢ってやらないし、私は今すぐ帰るぞ」

「まあ、待てよ。母さんの誕生日プレゼント、一緒に選んで欲しいんだ」

「そうか、忘れてたぞっ。私も買わないとな」

「じゃあ、折半しようぜ」

「おお、いいな」

 太一は多分それが目的だったんだろう。お金がないから二人で買って贈ろうという。

 太一の母珠美さんには、幼い頃からお世話になっている。私に料理を教えてくれたのは珠美さんだったし、私が恋愛相談したのも彼女だった。

 ハハが限りなく父親に近い存在だとするのなら、珠美さんは母親のような存在だ。

「珠美さんのバースデープレゼントっていうなら行かないわけにはいかないな」

 視線は気になるが、仕方ないと割り切るしかなさそうだ。

 お洒落な雑貨屋さんを真希に教えて貰い、早速見て回る。

 可愛い小物や雑貨が大好きな珠美さんが来たら目を輝かせそうな店内には、見ているだけでも楽しめるものが並んでいた。

「アロマキャンドルなんかがいいんじゃないか? 寝室で焚いたらムードがあって盛り上がるぞ」

「親のそういうのは想像したくないな」

 うちには父親がいないので、分からないところだが、そんなものなんだろうか。ハハは、わりとオープンになんでも話すので抵抗はないのだが。

「そんなもんか?」

「そんなもんだ」

「そうか。じゃあ、もっと見てみようぜ」

 初めはぞろぞろと団体様で動いていたが、やがて散り散りになっていった。

「亜美。ここには面白いものが沢山あるんだな?」

 気付けば隣に、レイが立っていた。そのまた隣にワットがいるかと思ったが、その姿は見当たらなかった。

「ワットはどうした?」

「うん? その辺で見てるよ」

「そうか。レイは何か気に入ったものがあったか? あんたが日本に来た記念になにか買ってやるぞ?」

 レイはハハから日本円を持たされていた。だから、買おうと思えば自分で買えるのだ。けれど、私からなにかをあげたいと思ったのだ。

「俺、持ってるよ」

「私が贈りたいんだよ」

 レイが少し考えるように頭を捻った。

 王族であるレイは贈り物を貰い慣れているだろう。だが、女性から男性に贈り物をする習慣がないのかもしれない。

 レイが考え込んでいるのを見て、そんなことを考えた。

「俺、亜美や久美さんが使っているようなカップが欲しいんだ。同じ柄のもの」

 何が欲しいか考えていただけだったようだ。

「ああ、お揃いのマグカップな?」

「俺だけ二人と違う」

 レイは客用のマグカップを使っている。

 それを寂しいと、羨ましいと思っていた、ということなのだろう。

「あれはハハが買ってきたやつだからどこに売っているか分からないな」

「じゃあ、亜美と同じのが欲しい」

 駄々っ子かと突っ込みたい。だが、その様子が可愛くて、頭をよしよしと撫で繰り回したいとも思った。

「仕方ないな。ハハが拗ねるから三人一緒な? で、どれがいいんだ?」

 ハハも大人のくせに子供っぽいところがある。永遠の十代を地で言っているような人だ。

「これなんかどう?」

 レイが選んだのは、シンプル過ぎず、適度に可愛くて、使いやすそうな、文句のつけどころがないものだった。しかも、色も多く揃っている。

 ハハが好きな色はピンク、私が好きなのはオレンジ、レイはグリーンを選んだ。

「うん。いいな。これにしよう」

 このマグカップがうちの食器棚に並ぶところや、食卓に並ぶところを思い浮べてにんまりとした。その光景はとても幸せなもののような気がした。

「いけない。ワットのを選び忘れた。仲間外れになるところだ。ワットが何色が好きか知ってるか?」

「これかな」

 レイが持ち上げたマグカップを籠のなかに入れた。

 ワットのカップはブルーだ。

「おい、亜美。今日の趣旨忘れてないか?」

 籠のなかに並んでたたずんでいる4つのカップをにんまりと眺めていると、後ろからぬっと太一が現れた。

「おおっ、そうだった。珠美さんだっ。なんかいいの見つかったのか?」

「写真たてなんかどうだ?」

「いいな」

 それはとてもいいプレゼントだと思った。

 太一の父ちゃんは写真を撮るのが好きだ。休みになると珠美さんと一緒に散歩しながら撮影して回っている。太一の家には写真が溢れているのだ。

「これなんてどうかと思ってさ」

 太一が持ってきたのは大きなサイズの写真たて、というより額だった。

「あの写真を入れるのにいいんじゃないか?」

「お前もそう思うだろ?」

 太一の父ちゃんが写真のコンテストに応募して賞を取った、珠美さんを撮った写真だ。

 太一の父ちゃんだけでなく、珠美さんも気に入っているその写真を大きく引き延ばして、飾って欲しい。

 思い描いただけで、幸せになる光景だった。

「ねぇ、一つ聞いてもいい? 太一くんは亜美が好きなの?」

 突然、レイが割って入ってきたと思えば、その質問は酷く突飛なものだった。

「何言ってんだ、レイ」

「亜美は黙って。俺は太一くんに聞いてるんだよ」

 一体全体なんだってこんな吹っ飛んだ質問が出来るのだ。しかも、私を目の前にして。

「好きだ。ずっとずっと好きだ。レイ。亜美はお前には譲れない」


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