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第36話

 ずっと会いたいと切望していた相手が目の前にいるというのに、私ときたら正直な言葉の一つも伝えられない。

 レイの温かさがそんな私を慰めているようだ。レイの優しさを全身に感じる。これまでの離れていた日々が嘘だったように思えてくる。

 レイの私を全てを包み込み、安心させてくれるところは少しも変わっていない。あの無邪気な笑顔もそのままだが、その中に精悍さがプラスされたような気がする。そして、一番変わったのは、レイの身長だろう。隣を歩けばほぼ同じ目線だったはずが、私の顔はレイの胸にある。頭一つ分くらい高いということだ。ほんの少しの期間離れていただけなのに、驚異的な成長だ。

「背が伸びたな」

 レイがキツく抱き締めて放さないので、私の声がくぐもって聞こえる。

「うん。亜美と並んだら丁度良くなったでしょ?」

「レイに見下ろされるなんて気に食わないけどな」

 胸を手で押しやって見上げた。

 にこりと微笑む姿は、もはや無邪気なだけではなく、不覚にも見惚れてしまった。

「亜美、好きだよ。ずっと傍に居ても良い?」

 穏やかな表情で私を見据えるレイに見惚れた私は、答えることを忘れていた。

「亜美?」

 少し不安げに覗き込まれて漸く我に返った。

「また、居なくなるのか?」

 レイがなにも言わずに私の前から消えた時の衝撃が、再び蘇る。

 私がここに残ると言ったなら、寄り添って二人で生きていく、という未来はない。

 ハハは、だから最愛の人との未来が描けなかった。私もまた、同じ選択をしてしまうんだろうか。

「居なくならないよ。俺は亜美を攫いに来たんだ。亜美、一緒に行こう」

 一緒に行くということは、オルブライトへ行き、レイと結婚することを意味する。

 レイにプロポーズをされるのはこれで何度目だろうか。

 私はどう返して良いのか解らなかった。

 私はレイが好きだ。だけど、好きだけじゃ駄目だとも思うのだ。私には夢があり、漸くそれに向かい走り始めたばかりなのだ。途中放棄なんて出来ないし、したくもない。ハハを一人残していくのも心配だ。

私は一人で生きているわけじゃない。ハハが居て、片野先生が居て、真希や太一が居て成り立っているんだ。その全てを捨てて行くなんて出来ない。

 ふと、小さな笑い声に気付いて見上げた。レイが何が可笑しいのかクツクツと笑っている。

「何だ?」

「亜美は俺が好きなんだね?」

「何でだよっ」

「だって、亜美の反応が明らかに変わったよね。今までだったら俺は直ぐに切り捨てられていたと思うよ。夢があるから無理だってね」

 嬉しいな、と最後に小さく呟いた。

 悔しながらその通りだ。

 前みたいに夢があるから、と一言で振り切れるほどレイの存在は小さくない。

 夢と同じくらい手放せないのだ。欲張りな私は両方手に入れたい。

「そんなこと……」

「あるよ。ねぇ、亜美。俺、期待しても良いよね?」

 ズルい。そんな聞き方はズルい。

 だけど、私の方がよっぽどズルい。レイの好意にずっと甘えて来たのだ。

「勝手にしろ」

 あんなに散々片野先生にしごかれたのに、出てくる言葉はこんなにも汚ない。

 レイを見ていられなくて、背中を見せた。

「解った。じゃあ……」

「ちょっ、止めろっ」

 ふわりと持ち上げられて咄嗟に毒吐いたが、手は落ちないようにとしっかりとレイの腕をつかんだ。

 不意に抵抗することも出来ずに、私はレイに抱き上げられていた。俵を持ち上げるように抱かれていたら、或いは誘拐犯かと助けてくれる人がいたかもしれないが、如何せん横抱きなので、好奇心と冷やかしと呆れの混じった視線しか感じない。

「下ろせってば」

「下ろさないよ。このまま攫っていく」

 胸を叩いたり、足をばたばたさせて抵抗したところで、解放されるどころか拘束が強まるだけだった。

 不本意ながらレイが男なのだと突きつけられた気分だ。力で適うはずもない。もしかしたら想いの強さでも、レイには勝てないのかもしれない。

 本当にレイは私を攫うつもりだろうか?

 必死に抵抗しながらも、頭の片隅でそれもいいのかもしれないと思う自分がいた。





~~~ end ~~~

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