何を書いても「AIっぽい」と言われるので、編集との打ち合わせをそのまま小説にしました~異世界もメタネタも全部アウトらしいです~ 注:これはフィクションです
「では先生、新作の打ち合わせを始めましょう」
編集の佐藤がノートパソコンを開いた。
向かいに座るのは人気作家の神崎築。
デビュー三十年。
賞という賞を取り尽くしたベテランである。
「今回は異世界ファンタジーだ」
神崎は自信満々に原稿を差し出した。
「最近は活字離れなどと色々言われるが、結局読者が求めるものを書けばいい。それでこそプロの作家だ」
「そうですね」
「だからこそ今需要があるものを書く」
「いいと思います」
佐藤は原稿を受け取る。
そして読み始めた。
『王都アークレイア』
『その日、王城では舞踏会が開かれていた』
『第一王子アルフォンスの隣には婚約者候補の令嬢エリシアが立っている』
『エリシアは王子へ向かって堂々と言い放った』
「可愛いだけじゃだめですか?」
佐藤が原稿を閉じた。
「先生」
「なんだ」
「そのセリフ、今やると危険です」
「なぜだ」
「異世界なのに現実の流行ネタを急に持ち込むのはAIっぽいと言われます」
神崎は眉をひそめた。
「いや昔からあるだろう。それでこそ漫画なら銀魂とか色々と」
「あります」
「パロディだぞ」
「そうです」
「人間の作家が昔からやっている手法だ」
「その通りです」
「なら問題ないだろう」
佐藤は遠い目をした。
「先生」
「なんだ」
「ネットは理屈で動いていません。時代は変わったんです」
神崎は仕方なく赤ペンを取った。
「じゃあ変える」
「お願いします」
「これならいいだろ」
『エリシアは胸を張った』
「容姿だけでなく学問も礼儀も完璧ですわ」
「いいですね」
「だろう」
「王道です」
「王道は強い」
神崎は満足そうだった。
佐藤も安心した。
だが数ページ後。
再び佐藤の手が止まる。
『王子と令嬢は魔物討伐へ向かった』
『そこへ幼なじみの騎士ルークが現れる』
「アル、お前またエリシアに説教されてるのか」
「うるさい」
「お前前回の話でも同じボケしてただろ」
「何だと?」
佐藤が勢いよく原稿を閉じた。
「先生!」
「なんだ!」
「こういうメタ台詞はAI扱いされます!」
「なぜだ!」
「登場人物が前回の話を認識しています!」
「ギャグ作品なら普通だろ!」
「そうです!」
「コメディだぞ!」
「分かります!」
「じゃあ問題ないだろ!」
「でも言われます!」
神崎は天井を見上げた。
「最近の創作は大変なんだな」
「私も疲れてきました」
気を取り直して続きを読む。
『魔王軍幹部が現れた』
「くくく……貴様ら勇者一行はここで終わりだ」
「そんなことはない!」
「ほう?」
「俺たちは仲間との絆がある!」
「そのようなテンプレ台詞聞き飽きたわ!」
「先生」
「なんだ」
「またメタです」
「くっ」
神崎は修正した。
「テンプレがダメならこうだ!」
「そのような王道台詞聞き飽きたわ!」
「先生」
「はい」
「それもほぼ同じです」
「もう許してくれ」
一時間後。
原稿は赤字だらけになっていた。
神崎は疲労困憊だった。
「じゃあ逆に聞こう」
「はい」
「何を書けばAIっぽくないんだ」
佐藤は真顔になった。
「分かりません」
「編集だろお前」
「最近は誰も分かってないんです」
沈黙。
神崎はコーヒーを飲んだ。
佐藤も飲む。
誰も喋らない。
五分ほど経過した。
そして神崎が言った。
「試してみるか」
「何をです」
「究極のAI回避作品だ」
神崎は新しいページを書き始めた。
『主人公は農民』
『チートなし』
『転生なし』
『追放なし』
『婚約破棄なし』
『スローライフなし』
『ハーレムなし』
『魔王なし』
『勇者なし』
佐藤が頷く。
「なるほど」
「どうだ」
「確かに珍しい」
「だろう」
「でも先生」
「なんだ」
「最近そういうのもAIなら書けます」
神崎は机に突っ伏した。
「終わった」
さらに佐藤が続ける。
「AIはしっかりした指示を与えれば大抵は書きます」
「やめろ」
「王道も書けます」
「やめろ」
「邪道も書けます」
「やめろ」
「メタも不条理ギャグもなんでも書けます」
「やめろ」
神崎は立ち上がった。
「ならどうすればいい!」
「分かりません!」
「お前編集だろ!」
「先生も作家でしょう!」
「知らん!」
「私も知りません!」
会議室に沈黙が落ちた。
そのとき。
神崎の脳裏に一つの案が浮かぶ。
「そうだ」
「何か?」
「この打ち合わせを書こう」
「はい?」
「作家と編集がAI認定に怯える話だ」
「なるほど」
「異世界作品を書こうとすると編集に止められる」
「はい」
「メタネタを書くと編集に止められる」
「はい」
「そして最後に」
神崎はニヤリと笑った。
「読者からこういう小説ってAIの特徴なんだよねって言われる」
佐藤も笑った。
「綺麗なオチですね」
数か月後。
新作は発売された。
タイトルは――
『何を書いても「AIっぽい」と言われるので、編集との打ち合わせをそのまま小説にしました~異世界もメタネタも全部アウトらしいです~』
発売初日。
様々な感想がネットに書かれる。
『面白かった』
『発想が人間らしい』
『こういう風刺好き』
『AIには書けない味がある』
神崎は満足した。
だが次のレビューで固まる。
『AIがAIネタを風刺する話、最近よく見るのでAIっぽい』
神崎は静かに感想から目を離す。
そして編集へ電話した。
「佐藤」
「どうしました先生」
「結局何を書いてもAIっぽいらしい」
「でしょうね」
「どうすればいい」
「簡単です」
「答えがあるのか」
「あります」
「教えてくれ」
佐藤は即答した。
「面白ければいいんです」
神崎は少し考えた。
そして笑う。
「それもそうだな」
電話を切る。
机の上には次回作の企画書。
タイトルはもう決まっていた。
『先生、その感想文。恐らくAI生成です』
終幕
色々ありますが結局作家は自らで頑張って書き続けるしかありません。
AIが進化し続けていくこれからの時代、どうやれば作家は生き残れるのか答えは出ませんがまあこの小説の主人公である神崎築のようにポジティブに執筆を頑張っていきましょう。




