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15年間抱えた思いと、これから先に

作者: シンジ
掲載日:2026/01/08

あの日から15年。

時計の針は止まったままのように感じられる日もあれば、残酷なほど速く過ぎ去ったように感じる日もありました。

東日本大震災で、結婚してわずか2年だった妻を亡くした一人の僕が、喪失の日々から少しずつ前を見出すまでの歩みを綴ります。

42歳になった今の僕が鏡を見ると、白髪の混じり始めた見知らぬ男が映っている。けれど、心の中にある「あの日」の記憶だけは、27歳の青年のままだ。

結婚して2年。ようやく生活が落ち着き、新しい家族を迎えようか、それとももう少し二人で旅行に行こうかと笑い合っていた。

あの日、職場で感じた激しい揺れ。

そして、その後の静寂と絶望。

妻がいたはずの場所には、瓦礫と泥だけが残されていた。

見つかったのは、彼女が好きだった淡いピンク色の財布と、記念日に買った腕時計だけ。

それ以来、僕の時間は止まってしまった。

この15年、世の中は「復興」という言葉で前に進もうとしていた。

けれど、僕にとっての日常は、生き残ってしまったことへの罪悪感と、彼女がいない欠落感を埋めるための、ただの作業に過ぎなかった。

朝、目を覚ますと、毎日感じてしまう孤独感。

隣にあったはずのぬくもり。

二人分作ってしまいそうになる味噌汁の香りに、毎朝胸が締め付けられる。

ガラケーから、スマホに買い替えても、彼女の番号だけは、登録したまま。

消せない想いと、いつか繋がるのではないかという淡い期待。

僕の中には小さな変化が起きていた。

どんなに晴れた日でも、潮の香りがすると足がすくんで動けなくなる。

「もう15年も経ったんだから」という周囲の善意の言葉が、時に刃物のように突き刺さった。

時間が解決してくれるなんて嘘だ。

悲しみは消えるのではなく、自分の一部として「同化」していくだけだった。


転機が訪れたのは、昨年末の家の大掃除。

ずっと開けられずにいた段ボールを整理した時だった。

そこから出てきたのは、なんてことない日記だった。

日々の出来事、旅行の思い出、外食したこと、僕の作る料理についての感想。

僕への不満なんかも。

幸せだった日々がよみがえる。

そんな中、記念日の一言。

「美味しいものを食べて、笑ってこれからもすごしていこうね。美味しいものを食べている顔大好きだよ。」


その文字を見た瞬間、不思議と涙は出なかった。

代わりに、42歳になった今の自分に、27歳の彼女が語りかけているような気がしたのだ。

「彼女が愛してくれた僕は、こんなに背中を丸めて生きている僕だっただろうか?」

その問いが、重く沈んでいた僕の心を、少しだけ浮上させた。

「前を向く」ということは、彼女を忘れることではない。彼女を失った悲しみを抱えたまま、それでも新しい景色を見に行くことなのだと、ようやく気づき始めている。


15年経って、僕は初めて海へ行った。

まだ、心の底から笑える日は少ないかもしれない。

けれど、彼女が愛したこの世界を、僕の目でもう一度、丁寧に見つめ直してみようと思う。

生きていることを楽しんでもいいのだと、自分は笑っていただろうか。

止めていた趣味を再開したり、新しい場所へ足を運んでみる。

彼女との思い出を「痛み」ではなく「温もり」として持ち歩く。


僕は42歳。人生はまだ半分ある。

彼女と出会って過ごした日々は、亡くしてからの日々に比べれば短い、けれど何よりも濃密だった時間を誇りに、僕はまた、一歩を踏み出す。

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