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焦土の亡魂  作者: 星狼


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7/7

馬小屋の希望

ヴァレリア大陸、城塞都市の郊外。半年後の乗馬倶楽部。

木々の間に佇む古びた馬小屋。苔むした石壁に囲まれ、藁と馬糞の匂いが漂う。遠くで魔獣の遠吠えが響き、薄曇りの空が木の屋根をぼんやり照らす。馬たちが低く嘶き、藁を踏む音が静かに響く。サラは汗を拭い、馬の餌を運ぶ。

少年——ピースは、ボロボロのマントを羽織り、デッキブラシを手に馬を見つめる。


サラは藁の束を肩に担ぎ、額の汗を拭う。革鎧は脱ぎ捨て、粗末な作業着に変わったが、彼女の動きには、かつての騎兵隊長の凛とした力が宿る。

馬小屋の埃っぽい空気の中、彼女は充実感に小さく笑う。半年間、乗馬倶楽部の仕事——審判やコース設営に打ち込み、戦争の悪夢から一歩踏み出した。

だが、目の前に立つ少年の姿に、彼女の胸がチクリと痛む。


少年——ピースは掃除係として雇われたが、デッキブラシを手に、馬を見つめたまま動かない。ボロボロのマントが、馬小屋の風に揺れる。サラは彼に近づき、柔らかく声をかける。


「どうしたの? 掃除しなきゃダメだよ?」


ピースは無表情のまま、平坦な声で答える。


「僕は空が飛べる。だから、コイツらに乗る必要はない。」


サラは小さく頷き、藁の束を下ろす。


「そうだね。」


ピースはデッキブラシを握ったまま、馬をじっと見つめる。


「コイツは僕より遅い。足が遅い。」


サラは笑みを浮かべ、馬の首を撫でる。彼女の声には、優しさが滲む。


「そうだね。でも、一生懸命頑張ってるでしょ? 私たちと一緒だね。」


ピースは一瞬、目を細める。だが、すぐに無表情に戻り、短く呟く。


「…うん。」


サラは彼をじっと見つめ、そっと尋ねる。


「…楽しい?」


ピースはデッキブラシを握り、目を馬に固定したまま答える。


「…わからない。」


サラは小さく息を吐き、静かに言う。


「そう。」


ピースはゆっくりと馬小屋の奥に歩み、一匹の老馬に近づく。馬の毛はくすみ、目は濁っている。彼は無表情のまま、平坦な声で言う。


「コイツは歳を取って、もう誰も乗せられない。使えない馬。」


サラは老馬の横に立ち、穏やかに頷く。


「…そうだね。」


ピースはデッキブラシを握りしめ、目を老馬に固定したまま続ける。


「…コイツ、どうしたらいい? 使えないコイツはどうしてあげればいいの?」


サラの目が、かすかに揺れる。彼女は老馬の首を撫で、ピースを見つめる。半年前の酒場、少年の冷淡な言葉とあの言葉が、彼女の胸に蘇る。

あの言葉は、戦争に壊された少年の、かすかな人間の叫びだった。サラは深呼吸し、静かに、だが力強く言う。


「一緒に考えようか? 私たちと同じで、きっと何かが見つかるよ。」


ピースは無表情のまま、老馬をじっと見つめる。馬小屋の風が、ボロボロのマントを揺らす。サラの言葉が、静かな馬小屋に響く。

戦争は、仲間を奪い、自分を蝕み、ピースを壊した。だが、彼の「使えない馬」への問いかけは、壊れていない心の欠片だ。サラの胸に、切ない希望が灯る。彼女はピースの背中を見つめ、そっと微笑む。

馬小屋の日常は、二人に新しい道を囁く。

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