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焦土の亡魂  作者: 星狼
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黒狼亭の対峙

裏路地にある酒場「黒狼亭」。

煤けた木の看板が軋み、店内には薪の燃える匂いと、煮込み料理の香りが漂う。木のテーブルは傷だらけ、カウンターでは傭兵崩れの男たちが酒を煽り、時折大声で笑う。

サラと子供兵は、窓際の小さなテーブルに腰を下ろす。少年のボロボロのマントが、椅子の背に引っかかり、かすかに揺れる。


酒場の喧騒の中、子供兵はメニューを手に、淡々と言った。


「じゃあ、このカツ定食で。」


サラはメニューを眺め、眉を上げて鼻で笑う。革鎧の肩当てが、薪の火に照らされて鈍く光る。


「ふーん、案外安いもの頼むのね。私は…エビフライ定食にしようかしら。」


彼女はメニューを置いて、少年をじろりと見る。戦争の敵だった少年が、こんな日常の場でカツ定食を頼む姿に、どこか調子が狂う。少年はサラの視線を無視し、窓の外の石畳をぼんやり眺める。


「えっと、それで、僕と貴女、どこで会ったんですか?」


サラの箸がピタリと止まる。彼女の目が鋭くなり、冷たい視線を少年に向ける。声には、抑えきれぬ怒りが滲む。


「戦場よ。あなたと私は敵同士だった。覚えてる?」


少年は首をかしげ、まるで他人事のように返す。


「どこの戦場でした?」


サラの顔が険しくなる。彼女は拳を握り、歯を食いしばる。


「北の焦土平原よ! 忘れたって言うの? あんな過酷な戦いを…!」


彼女の脳裏に、戦場の記憶が蘇る。


——北の焦土平原、赤く染まる空。少年がマントを翻しながら空を舞い、両手から火球を連発する。炎が地面を焼き、騎兵隊の仲間が叫び声を上げながら次々と倒れる。馬が嘶き、灰と血が混じる戦場で、サラは剣を握りしめ、空を見上げる。少年の無表情な顔が、炎の向こうで揺れる。


少年はサラの怒気をまるで感じないように、淡々と続ける。


「あ〜、あ〜…でも、僕その時、空飛び回ってたでしょ?」


サラの目が燃えるように光る。彼女は拳を震わせ、声を荒げる。


「そうよ…! 貴方が空から、私たちの仲間を…くっ…!」


再び、戦場の記憶がフラッシュバックする。


——炎に包まれた平原。仲間が火球に焼かれ、絶叫しながら地面に崩れる。サラの魔馬が恐怖で暴れ、彼女は必死で手綱を握る。空を見上げると、少年の小さな影が、無機質な目でこちらを見つめる。火球が降り注ぎ、仲間の一人がサラの目の前で灰になる。「サラ、逃げろ!」という叫び声が、炎に掻き消される。


少年は無表情のまま、静かに言う。


「それは、覚えてないですよ。僕、上から目についたやつに攻撃してるだけですもん。」


サラは怒りを抑えきれず、テーブルをバンと叩く。酒場の喧騒が一瞬静まり、近くの傭兵たちがチラリとこちらを見る。


「ふざけないで! あの時どんだけ私たち苦しめたか分かってんの?」


少年はサラの怒気をまるで気にも留めず、テーブルに目を落とす。


「いや、そういう風に苦しめるのが僕の仕事でしたからね。」


サラは歯ぎしりし、目を細める。少年の無感情な言葉に、彼女の胸は怒りと痛みで締め付けられる。


「くっ…そういうことか。あの冷酷非情な戦い方、ようやく理解できたわ。」


少年は小さく首を振る。声には、まるで感情の欠片もない。


「冷酷非情ではないですよ。ただ仕事だからやってただけですよ。あっ、定食来ましたよ。」


酒場の店員が、木のトレイにカツ定食とエビフライ定食を運んでくる。油の香りがテーブルに広がり、少年の目はほんの一瞬だけ光る。サラは拳を握りしめたまま、少年の無垢とも取れる態度に、胸の内で何かが軋むのを感じる。

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