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ALIVE!42歳のおっさんが、国民的アイドルになった件。  作者: 舞見ぽこ
Chapter 3:Step Up Stage

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38/43

Track.37

 最初に名指しされた達也のダンスは、驚くほどあっさり終わった。

 BGMに乗って、さっと前に出て、軽くステップ。

 余計な動きはなく、最後にピタッと止まる。


「タツヤです! イエーイ!!」


 それだけ。

 なのに、拍手と歓声が自然に起きた。


 ……は?


 俺は、その場で完全に固まっていた。

 いやいやいや、無理無理無理。即興って、そんな気軽に出来るもんなのか?


 BGMは止まらない。


「イエーーーィ! じゃあ次、勇吾!!」


 間髪入れずに名前を呼ばれ、今度は勇吾が何の躊躇もなく前へ出た。

 ……踊る。普通に。ノリよく。しかも楽しそうに。


 待って。

 このクラス、初級だよな?


 自己紹介セッション。

 名前を覚えるためのもの——らしいが、正直、誰が何て名乗ったかなんて一切頭に入ってこなかった。

 そんな余裕はない。

 俺、完全にパニック状態。


 何このノリ!!

 即興で踊れるのが前提なの!?


 ちらりと順番を数える。

 ……ラスト、俺だよな。あと……八人くらい?


 その間にダンスを考えろって?

 は?? 無理ゲーすぎるんだが??


 俺が踊れるダンス……やばい。

 中学の体育祭で踊った花がっさ音頭しか出てこない。

 あのおめでたい歌詞が一瞬脳内をよぎるが——いや、全然めでたくない!!


 必死に記憶を掘り返す。

 流行ったダンス……誰でも踊れるやつ……。最近で言うならナル〇ダンス、少し前ならラン〇ングマン。

 無論、どっちも踊れない。


 でもさ。

 未来で流行ったダンスを、今ここで踊ったら……めちゃくちゃカッコよくね?


 問題は、簡単で、下手がバレにくくて、それっぽくダンスに見えるやつ。

 パプ〇カ?マルモ〇ダンス? かわいい。確かにかわいい。でも無理だ。振り付け、欠片も覚えてない。


 そうこう考えているうちに、自己紹介セッションはどんどん進み——

 ……やば。残り、二、三人じゃないか!?


 頭の中で、時代と共に流行ったダンスをフル回転させる。

 まずいまずいまずい。


 ——そのとき。

 パチン、と。


 ひとつの曲が、脳内で噛み合った。


 ……これだ。


 比較的シンプル。動きが少なくても、それっぽく見える。なにより——今流れてるBGMと、拍子が合ってる気がする。


 そう確信した瞬間。


「OK! 次はソラ!!」


 呼ばれて前に出たのは、帽子少年の相棒——ピカ〇ュウ柄のティッシュをくれた少年だった。

 ソラは慣れた様子でステップを踏み、少しハニカミながら笑って、「ソラです!!」と名乗り、ニコッとポーズを決める。


 ……かわいい。

 やだ、かわいい。おじさん、ファンになりかける。


 次の瞬間。


「次は、コーマ!!」


 前に出たのは、帽子少年。

 あ、名前、コーマって言うのか。


 音に乗った瞬間、空気が変わった。

 キレがいい。動きが自然で、目を引く。見とれている間にダンスは一気に締めに入り——


「コーマです!! よろしくな、ブー太郎!!」


 ……今、名指しされた気がする。

 コーマはそう言って、帽子の角度をくいっと変えた。——それすら、振り付けの一部みたいだった。


 かっこいい。

 小学生とは思えない。天性のセンスを、まざまざと見せつけられる。


 そして。

 

「OKOK! じゃあラスト——一ノ瀬君。いけるね?」


 視線が、一斉に集まる。


「はいっ!!」


 腹をくくって、前へ出た。

 一瞬、手と足が同時に出そうになったのを必死で抑え、深呼吸して歩幅を整える。


 大丈夫だ。

 脳内では、あの曲が流れている。


 いける……!!

 十年くらい前。甥っ子と一緒に、バカみたいにハマった、あのダンスを——今、ここでやるんだ。



 両腕を後ろへ突き出し、その場を駆けるように、軽く足を刻む。


 ——YO!YO!YO!


 脳内BGMに合わせ、無駄のない動き。

 視線は正面。なぜか妙にキメ顔だ。


 ——YO!YO!


 最後に、首をゆっくりと捻る。

 一拍、静止。


 そして、胸に手をあて、はっきりと。


「……アイム、カナデ・イチノセ」


 言い切った、その瞬間。


 ——シーン。


 スタジオの空気が、止まった。


(……あれ?)


 背中に、じわっと嫌な汗がにじむ。


(俺の……渾身のダンス……)

(もしかして、すべった?)


 やっちまったか。

 未来のダンス、時代を先取りしすぎたか。

 いや、そもそも今の、ダンスって呼んでよかったのか?


 そんな不安が一気に押し寄せた、その直後——


「おおーー!!」


 声が、弾けた。


「なんか、かっけー!!」

「見たことない動き!!」

「BGMと、めっちゃ合ってた!!」

「最後、なんて言ったの!?」


 次々と飛ぶ声。

 ざわざわと、空気が一気に熱を帯びる。


(……え?)


 俺が状況を理解する前に、

「いいねいいね! ナイスぅ~~!!」

 AYA先生が、満面の笑みで親指をぐっと突き出した。


 肯定。

 しかも、かなり強めのやつ。


(……セーフ?)

(いや、これ……いけた、のか?)


 ほっと息を吐きながら、元の位置へ戻る。足取りは、若干ふわふわしていた。


(……あっちゃん、ありがとう!!)

 心の中で、全力で感謝する。

(やっぱり、あっちゃんはかっこいい……!!)


 そう思いながら、俺はようやく、ダンスレッスン初日を生き延びた実感を噛みしめていた。

 即興の自己紹介を乗り切って、場の空気にもどうにか馴染んで、やり切った感全開だった。


 だが、それは完全な思い違いだった。


 ふと、壁際の時計が目に入る。ダンスレッスン開始から、まだ十五分。

 体感的には、準備運動にも届いていない時間だ。息は上がっていないし、汗もほとんどかいていない。

 今のは、レッスンですらなく、ただ入口に立っただけだったのだと、遅れて理解する。


 ——そう。


 ここからが、本当の地獄のはじまりだった。

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