殺し屋の彼女は、僕のために人を殺す
僕の人生には、彼女によって塗られた赤が際立つ。空白を染める、溢れんばかりの歪みを帯びた愛。
「奇妙ですね。あなたの周り、人が死にすぎてますよ……ちょうど半年に1人のペース。不思議ですねぇ……」
日本の警察は優秀だ。まさか、僕の家を直に訪ねてくるとは。
タバコ臭いベテラン刑事の言葉はどこか芝居じみていて、アイスピックのように鋭かった。
「最近亡くなったあなたの上司。パワハラで相当恨まれてたらしいですね……心当たり、ありませんか?」
ある。けど、口にするつもりはない。腕組みをして玄関の前に立つ中年刑事は、僕に脂ぎった視線を向ける。
話せば、彼女に殺されるかもしれない。そういう恐怖も多少はある。それ以上に、僕は彼女との関係を壊したくない。それが道徳的に許されないことでも。
「あなたの周囲で六人が死んでる。失踪や自殺、事故死に不審死。どれもバラバラだが、どこか手慣れてるんだよ。素人とは思えない、プロの犯行だ」
そこまで分かってるのか、と正直驚いた。
彼女は凄腕の殺し屋だ。あまりにも完璧すぎた仕事が、逆に疑われるきっかけになったんだな。
いくら揺さぶられても、表情は崩さない。刑事の質問に対して、ボロを出さないよう気をつけながら傾聴。様々な質問の重なりが、ブラフになっている。
「おかしいと思いませんか? あなたにとって都合の悪い人間が、立て続けに死んでるなんて。まるで死神にでも憑かれてるみたいだ」
ムカつく上司、金をせびる悪友、顔も知らない粘着アンチ。
彼女はやりすぎている。僕が喜んでくれると思い込んでる。どこかで終止符を打つべきなのかもしれないね。
「何か思い出したら連絡を。単なる偶然かもしれませんしね」
皮肉だ。刑事のカンなのか、何かしらの確証があるのだろう。腹の中を弄られてるみたいで吐きそうだ。
この手にある刑事の名刺、どうせ自分から電話をかけることはない。
僕の人生にいた悪役たちを、彼女は順番に消していった。僕が頼んだわけじゃない。ただ、彼女が勝手に、登場人物を塗りつぶしたのだ。
人が死ぬと空白ができる。元々存在したものが、ある日、一瞬のうちに消えてしまう違和感。
祖父を亡くした時に初めて感じたぽっかりとした喪失は、不思議なくらいすぐに埋められた。何事もなく、秒針は世界を刻む。
死んで悲しいことも、嫌な奴がいなくなってほっとすることもある。それはいい。時間が過ぎれば些末なこと。
ただ、一番しんどいのは、彼女が僕を喜ばせるために手を汚している事実だ。
鮮血に染まった彼女の手は踊るように絵筆を操り、僕の人生というキャンバスに塗りたくる。
「自分の視界の中に、ノイズになるやつがいたら嫌じゃん? ミュートするより、削除したほうが早いよ」
彼女の描いた絵は繊細さと不気味さと、合理的な美を兼ね備えていた。
僕は彼女の描いた絵を、ずっと愛している。それが堕落の道だとしても、僕は喜んで彼女と飛び降りるだろう。
□ □ □
彼女との馴れ初めは、ネットの創作系掲示板だった。
最初はメル友から始まって、友だちが少ない自分にとって気のおけない話相手になってくれた。
自分の拙い短編小説を彼女は気に入ってくれて、1枚のイラストを送ってきてくれたのだ。
「君の小説に見合うかはわからないけど、ボクにはビビっと来たね!」
イラスト専門学校に通っていた彼女の絵は、僕の小説とは不釣り合いなほど綺麗だ。
線は細く女性的な淡さを持ちながら、構図はとても大胆で面白い絵を描く。
彼女の才能は、まるで暗闇の中で揺蕩う狐火のよう。彼女の内面を映し出す、不穏で美しい幻想に目を奪われた。
「ねえ、一緒になにかを作ってみない? 挿絵描くから、君の物語が欲しいな」
絵具皿を持った彼女が、僕の灰色だった心に色を点けた―――きっと、それが始まりだった。
僕は彼女が描く、ありとあらゆる絵が好きだ。
創作を通して作られた関係は枠を超えて、リアルで会うことも増えた。
初めて会った彼女は絵の通りどこか陰気で、地雷系のファッションが似合ってた。ビスクドールのように端正な顔立ち。底なしに真っ黒な瞳は笑わず、口元だけがよく笑う。彼女の笑顔は、どこか不気味で魅力的だった。
デートを何度か繰り返していくうちに、「好きだ」と告白する間もなく。僕らは自然と結ばれていった。
「人殺して生きてるボクを、受け入れてくれるのかい? 君って、やっぱおかしいね!」
彼女が殺し屋であることを知ったのは、まだ付き合う前だったかな。
自分の秘密を共有して、僕と距離を近づけたかったのかも―――あるいは、「逃がさないぞ」と支配したかったのだ。最初は「殺し屋をやってる」なんて冗談かと思ったけど―――ある日、彼女の宣告通り、学生時代から僕を恫喝していた、地元の嫌な同級生が死んだのを耳にした。
「ボクはちゃんと君を見てるよ? 君のすべてを知りたいって、この気持ちが溢れて仕方ないんだ! これが、愛ってやつなんだろうね! アハハ!!」
最初はぞっとした。あの無垢な声で人を殺せるという現実が、胸の奥に棘のように刺さった。だが、彼女に対する恐怖は次第に薄れていき、逆にますます気になってしまう。吊り橋効果という奴だろうか、それともストックホルム症候群? 彼女を愛しているという実感が初めて湧いた瞬間。
それ以来、僕は彼女の描く絵から目を背けることができなくなった。たとえ、それが血が滴る赤で、僕の人生を塗り替えられていようとも。
「心配しないでおくれよ……ボクは殺しでミスなんてしない。なぜなら、ボクは無敵だからね!」
人並み以下の人生で終わるはずだった僕は、チャーミングな悪魔と契約してしまった。普通の人間では味わえない、背徳的な人生を歩むことになった。求めていない特別だが、心は既にその物語に取り込まれている。
僕に出来る彼女への最低限の意志表示は、多分小説だけなのだろう。彼女はいつでも僕の物語を待っている。君は人殺し以外にも、ずっと価値に溢れた女の子だと伝えなければならない。それが語り手である僕の使命だ。
□ □ □
お互いに社会人になって、僕は工事用品を扱う普通の営業職に就いた。
お金に少し余裕が出来たので、彼女と一緒に同人小説を作ったりしている。
乱雑に会話が交差し、人並みが目の前を行き交う。僕らはパイプ椅子に並んで腰掛け、同人即売会に参加している途中だ。
「完売できるといいね? このペースなら売れるんじゃない?」
白いマットの上に積まれた小説の山。表紙絵は、どれも彼女が描いたイラストで飾られている。
正直に言えば、同人小説は表紙で買う人が大半だ。ライトノベル界隈も同じだが、同人界隈ではそれが顕著だ。
僕の小説の面白さ、文章力より、彼女の描く絵が人を惹きつける。僕の人生には、彼女優位の力学がいろんな所で働いてるみたいだ。
「いやー、まさかね。ボクをモチーフにした小説書いてくるとは思わないじゃん?」
『殺し屋彼女は恋をした』というタイトルロゴ。黒のセミロンの女の子がナイフ片手に、返り血を浴びながら微笑する表紙絵。
彼女らしい淡麗な画風に、猟奇的な雰囲気が漂うポージング。血の赤が絶妙な彩度で散らされている。
さすが、SNSでフォロワー1万超えてる絵師様の描くイラストはすごいわ……ちなみに、僕は500くらいの雑魚物書き。
「君の小説はしっかり読ませてもらったよ。君らしい、ハッピーエンドなアクション恋愛モノで面白かった」
彼女は蝶柄のタイツに包まれた足を伸ばし、ぐっと背伸びをした。背中をそらして、高い天井を仰いでいた。
僕は彼女がどんな感想を抱いたかどうか、心がドキドキして仕方なかった。彼女の笑みを絶やさない横顔を、僕は盗み見る。
「まあ、ぶっちゃけ本職から見たら、君の殺しの描写は甘いかなぁ……今の法医学を舐めちゃいけないよ。あれじゃ、すぐバレちゃう」
素人の想像で作られたシーンなので限界がある。むしろ、僕が誰にもバレない完全犯罪を知ってたほうが問題だろう。
物騒な会話をしているが、どうせ目の前を過ぎていくお客さんたちは耳をそばだてないし、隣のサークルの人も気にしてない。
彼女もそれをわかっていて、りんごのように艷やかな唇から、遠慮なく言葉を放つ。
「ヒロインの女の子は、彼氏のために人を殺していく。その理由は、ずばり! 暗殺しか取り柄がないからだ」
自己肯定感が低く育ってきたヒロインは、殺し以外に自分の生きる価値はないと教え込まれた。
だから、彼氏のことをよく観察し、彼氏にとって邪魔になるターゲットを抹消する。
まるで、ネズミを取ってくるウイスキーキャットのように。殺害を繰り返して、彼に愛される理由を積み重ねていく。
「そんなヒロインに主人公は、『殺しなんてしなくても、君には愛される価値があるよ』って説得する。いいね、君の願望が丸見えだ」
なんか、心に土足で入ってこられるような感覚がする。それはお互い様か。
彼女は僕が書いた小説をぺらぺらとめくり、静かな顔でそれを眺めている。
「ヒロインは主人公のことを信じて、殺しから足を洗って幸せに暮らしましたとさ。チャンチャン……そんな都合良く終われるわけ、ないんだよねぇ」
別に彼女に殺し屋をやめてほしいわけじゃない。それは彼女の自由だし、裏社会から簡単に抜け出せないのはカタギでも分かる。
「もし、僕がやめようとしたら、この体一つじゃ足りないくらいの代償が必要だろうね。まっ、辞める気はないけど」
その言葉に、胸がひりついた。
彼女の生き方を否定したいわけじゃない。ただ……僕のために手を汚さないでほしい。どれだけネズミを捕ってきたとしても、それを誇らしげに差し出されることが、僕は苦しい。
「つまりだ、君の人生のノイズを除去してることが気にいらないわけだ……なるほどねぇ。君はそれを望んじゃいない。でも、やめる気もないんだけどね!」
なぜだ!? 何が彼女を凶行に駆り立てるのか? 僕の意志を見透かしてるくせに。
それでも、彼女は殺し続けるつもりだ。まるで、僕の願いを測るように。
「知ってるかい? 殺し屋に必要な能力は、観察力なんだよ。ターゲットの生活習慣、行動、癖やルーティン。全部調べ上げ、何を考えてるかを把握する。相手を徹底的に理解して、同化するんだ……そうすれば、いつでも死は訪れるんだ」
僕を徹底的に観察してることは分かってる。じゃないと、僕の人生を悩ませてる人間を的確に見つけ出し、排除することは不可能だ。
彼女は僕を理解し同化することを愛だと信じている。だが、そんな歪んだ愛を僕は求めていない。
彼女には絵師としての才能があり、僕は彼女と抱き合えるだけでも、十分に幸せなのだ。それだけで、彼女には価値があると、伝えたいのに。
「君にとってはそれで十分でも、ボクにとっては不十分なんだ。だからさ、ボクは君と一緒に死ぬまで、これを繰り返すのさ」
だめだ、彼女の強固な決意は崩れない……僕程度では及びもしない世界で生きているんだろう。
なぜ、こんな何も持っていない僕を、そこまで愛してくれる? この狂気を、僕は理解することは出来ないのだろうか?
……いや、違う。僕は彼女のことを理解している“つもり”になって、満足していただけなんだ。
「ん? なんだい、その名刺……ははーん、なるほどね。僕もそいつのことは知ってるよ……つまり、どうして欲しいんだい?」
彼女が“絵”を描くところを、その場で見てみたい。
どのようなことが起きようとも、彼女を愛し続けられるか試してみたい。
手渡した名刺の名前、彼女はすでに知っていた。今更、驚くことでもないのかもしれない。
「なかなかとんでもないことを言い出すね……いいよ、見せてあげる。ボクが人を殺しているところを」
僕の決断は間違っていたのだろうか。でも、もう遅い。ジェリコのラッパはすでに鳴り終えているのだから。
□ □ □
一週間前に彼女の言伝で、都内のビル街にある場所を指定された。
コンクリートジャングルに吹き付ける風。時間通りに到着すると、そこに彼女はすでにいた。
にやぁっと白い歯を見せて笑いかける彼女に、僕はどこか緊張しながら手を降る。
「上を見てごらん……ほら、そこだよ! 見えるだろう……」
彼女が指さした、すぐ近くのビルの屋上の柵。それをよじ登る人影が見えた。
飛び降り防止用の返し部分に、バランスよく立ち上る姿。
その両腕を大きく広げるようにして、まるで十字架に括られた聖人のように、午後の陽光に輪郭を染めていた。
僕はその異様な光景を、瞬きせずにじっと見ていた。ああ、この人は今から、飛ぶんだ。そんな実感だけが、ひどく冷静に胸を打つ。
「街中で人を殺すのって結構大変なんだよ。監視カメラが至るところにあるから、バレないようにするのは手間が必要なんだ」
殺し屋としての彼女を見るのは初めてだった。雪解けの水のように冷たく染み渡る、優しく朗らかな声色が背筋を撫でる。
道路を泳ぐ車も人も、今から起きることを知らない。僕と彼女だけが、このあとの展開を知っている。
意を決したのか、人影はゆっくりと体を傾けて、水泳選手のように弧を描いて地面へと飛び込んだ。
――――グシャッ。
中肉中背の肉の塊が、鼓膜を突き破るように鈍い音を立てて。僕の眼の前で白いタイルの歩道に、叩きつけられた。
刑事だった。僕に名刺を渡したあの男は、顔を潰されたまま、赤黒い血を歩道にじわりと広げていた。
これが、彼女の“絵”だ。
無垢な白が、鮮やかな赤に染め上げられていく。それが僕の心を、現実という名の絵筆で塗りつぶしていった。
もうこれ以上、誰も殺さないでほしい。それは、僕の我儘だったのかな―――
死んだ。今目の前で、人が死んだ。死んだんだ……眼の前で、人が。
「気分はどうだい? 約束通り、君の眼の前で殺してあげたよ」
目を大きく見開いて、何度もビルと死体を往復する。彼女の予言通り、落ちてきたんだ、人間が。そんなことあるか?
彼女が人を殺した。それも、僕が思いつかないような、魔法のような手口で。僕の物語では届かない、現実という名の芸術。
だめだ、声が震えて、自分でも信じられない。何が起きたのか、すぐに飲み込めなくて、脳が受け付けない。
「君は優しいから、今心の中がバグっちゃってんだろうね。ゆっくりでいい、息を吸ってみなよ」
喉元が痙攣して、うまく息が吸えない。過呼吸になりそう。彼女が殺して、あの刑事が死んだ。
周りの人間も気づき始めて、短い悲鳴が飛んでくる。野次馬も集まってきてざわつき始めた。
「いいよ、君の思ったことを素直に受け止めたらいい。なんてったって、ボクは冷血無比な人殺しだもんね」
涙が頬を伝っていた……人が目の前で死んだのが悲しい。たとえ、それが僕と彼女を脅かす敵であってもだ。
こんなこと、道徳的に許されるはずがない。彼女は死神のように人を容易く殺せるんだ。
恐ろしい、背筋が凍りつく。今すぐにでもここから逃げたいけど、腰が引けて動けない。
彼女は平然と一線を超えた! こんなこと、あってはならない……僕のために人を殺すなんて、そんな最低なこと。
殺せなんて、僕は言ってない。……でも、僕は彼女に見せてくれと願ったんだ。それは、手を汚してと頼んだのと同じだった。僕もまた、加害者だ。
「まあ、安心してよ! こいつ、犯罪者から金もらって、罪をもみ消す汚職警官だったから。たくさん恨みも買われてた、死んでもいいクズだよ」
慰めの言葉にすらなっちゃいない。それが、殺される正当な理由になるのか!? 彼女の言葉は、常人のそれじゃない。
けど、胸から湧き上がってくる、この鼓動は何なんだろう……彼女の顔を見る。三日月のように口角を釣り上げた笑顔と、闇のように深い黒の眼が僕を見つめる。
怖い、彼女に対して強い恐怖感があるのに、なぜ、なぜこんなにも、彼女のことを許してしまいそうになるんだろう??
飛び降りる刑事を止めなかったのは、彼女じゃなく、僕の選択だ。僕のための殺人だったのだから。僕にも罪が―――
「おや? どうしたの? そんなに冷や汗をかいて。ああ、心細いんだね……」
震えて縮こまっている僕に、彼女は優しく抱きしめてくれた。甘いベリー系の香水と、彼女の体温がぬるく滲んでくる。
ゆっくりと息が整い始め、僕は彼女の顔を見つめ返した。ニコっと優しく微笑む彼女に、僕はぎゅっと抱きしめ返す。
背中を撫でられ、僕は目からあふれる涙で、感情がぐしゃぐしゃになった。まるで、握りしめられた紙切れのように。
ああ、僕のために人を殺すのは、僕をこうやって抱きしめるためか。僕を完璧に支配するための、彼女なりの愛情表現だったんだ。
「よしよし、辛かったねぇ……でも、大丈夫。ボクは君の味方だし、君にとって邪魔なものは全部塗りつぶして上げる」
こんなに彼女がひどいことをしても、僕は彼女のことが好きだ。愛してる。
彼女は血も涙もない人殺しだ。そして、僕のために、今起きたのと同じように、人を殺して続けてきたサイコだ。
でも、僕は初めて彼女の殺しを見て思った。人が死ぬのは悲しいけど、それは祖父の時と同じように、一時の感情に過ぎない。
現実の死を目の前にして、僕はようやく理解した。彼女が見ている世界の、その一端に、触れてしまったのだ。
「『愛してる』てこんな時に言うセリフかぁ~~? でも、分かるよその気持ち。ボクも、愛してる……」
彼女の頬が赤く染まる。僕の人生を、彼女は返り血で塗っていく。その赤は、今まで見たどんな色よりも、濃く、熱く、美しかった。
僕は思っていたより、ずっと自己肯定感の低い人間だったのだろう。
そんな僕を、徹底的に理解して愛してくれた人がいる――それが、彼女だった。
「君がボクを見捨てない限り、ボクも君を見捨てない……好き、大好き、言葉じゃ足りないくらい愛してる!!」
絵師としても、かわいい女の子としても、すでにありあまる価値に溢れていた彼女。僕はその表象を愛していたに過ぎない。
けど、今の僕なら彼女のすべてを愛せる気がする……言葉じゃなく、僕の感情も価値観も倫理観も人生も、彼女の塗る色で静かに埋め尽くされていく。
僕はきっと、彼女を止めるべきだった。でも、手を伸ばしてしまった。
あの赤で塗りつぶされた世界が、美しく見えてしまったんだ。
この世で愛というものが見えるとしたら、それはきっと赤色だろう。