三百四枚の退屈~前編
ある日突然、意見箱が“事件”を運んできた。
三百四枚の紙。
それは、ただのイタズラ? それとも……?
名探偵気取りの会長と、冷静すぎる副会長が挑む、小さくて、でも少しだけ胸をざわつかせる物語。
退屈に飽きたら、生徒会室へようこそ。
「暇ね。暇ったらないわ。何で事件が起きないのかしら? ねえ、悠斗君。――ちょっと聞いてるの?」
夕暮れが差し込む生徒会室。
窓際の、一番いい椅子にふんぞり返った会長は、今日もまた、唐突にそんな物騒なことを言い出した。
「聞いてますよ、会長。ええ、ちゃんと。ですから――手を動かしてくださいよ。この書類が終わらないほうがよっぽど事件なんですからね」
僕は手を止めずに淡々と返す。
会長のこういう話は、日課。聞き流しスキルはもう特級レベルだ。
「何それ。どこが事件よ、そんなの。あーもう、退屈すぎて死にそうなのに!」
机に頬杖をついて、大げさにため息をつく。
その割に、書類の山は微動だにしていない。
「では、書類が終わらないその事件。犯人はキミってことでどうかしら? タイトルは……そうね、『止まらない右手』! あら、なんか意味深でいいじゃない? ……思春期男子の葛藤みたいで」
「とりあえず、その場のノリだけで発言するのはやめてもらえませんかね。――でしたら、会長。こういうのはどうです?」
僕は机の上の、もはや壁と化した書類の山を指さした。
「この前代未聞のご意見大量投入――これを事件として解決してみませんか」
僕が“事件”と言ったのには、一応理由がある。
この紙の山は、廊下の目安箱に投函された意見書たちだ。
こんな量、記録にも僕の記憶にも前例がない。副会長になってから初めての光景だ。
そもそも、あの目安箱――
南京錠なんかついてはいるけれど、“置いてある”ことに意味があるような、形だけの存在だ。
生徒も生徒会も本気で扱っていないし、たまに入る意見には形式的にテンプレ返答をする程度。
意見もそれなり、返す側もそれなり――お互い“まあそんなもん”と暗黙の了解があった。
月に数枚あるかどうか、そんな箱にこれだけ詰め込まれたとなれば、もう立派に“事件”と言えるだろう。
だから、僕はそう呼んだのだ。
「そんな地味な事件は嫌だってば。そうね……血沸き肉踊る、もっとこうドバーッとしたのがいいのよっ」
会長は「こうね、ドバーッと」と両手を広げたオーバーなリアクションで言った。
ただ、会長の態度を見る限り、それはどうやら凄惨な現場や飛び散る血飛沫だったりする訳ではなさそうだ。
「その表現からいえば、まさに――もう見ての通り、ご意見がドバーッですよ。うってつけじゃないですか」
僕は会長に合わえて戯けた態度で言った。
「そこまで言うなら、これにはハデに事件性があるってことなんでしょうね。私にはただのイタズラに見えるけど?」
「捉え方の問題ですよ。ただ、事件とつけるかつけないか程度の問題なんです。ホワイダニット……何故こんなことが起こったのか、と見てみれば良いんですよ」
そういいつつも、僕は少し気になることがあった。
どにらせよ、とりあえず見てみないとわからない。
――それが僕の結論だ
「ふん? あんまり楽しそうではなさそうだけど。まあ、ならちゃっちゃとやってみましょ。ほら」
会長は、その言葉にあわせるかのように片手をひらひらと振った後、愛用の肘掛け椅子に深くもたれかかった。
「ワトソンくん――状況説明を」
「はい。まず先程大量投入事件、と言いましたが……その数は今把握しているだけで三百と四枚になります」
「さ――さんびゃく!?」
会長から驚きめいた声が漏れる。
「ええ、そうです。これは異常です」
「そうね……まったくだわ。異常というか、不安になるレベルだわ」
先程からその異常と格闘していた僕にとってみたらいまさらの驚きだ。
「そんなものを真面目に端数まできっちり数え上げる貴方に不安を覚えるわ……」
そんな態度に出ることも僕にとっては今更であるので、特に気に留めることもない。
「カノジョとか出来たらどうするのかしら。『今日の服、お似合いですね。上下の組み合わせで変化を出しているのは良いと思いますよ。五着しか持っていないようには見えません』――とか言うのよ。うわ、メンドクサッ! ――それと、メニュー決めるのに3秒。『これが一番単価安いし、ファミレスの看板メニューは失敗しませんから』って、即決。私はまだ迷ってるのに『優柔不断ですね』だって。選ぶのが楽しいのに、ね? 一緒にいたら、そりゃ疲れるでしょ?」
……たとえそんなボヤキであったとしても、特に気に留めることもなく、だ。
前回のファミレス事件、まだ根に持っているとは思わかなったのだが。
とりあえず僕は先を続ける事とした。
「時系列で整理しておきましたので、見てみましょう。一番古いのは……これですね」
『意見:プリンが食べたい』
「あ、それ、私」
会長が挙手をして言った。
「そうですかそうですか。あえて聞きますが……なんですかこれは」
「その時はプリンが食べたかったのよ」
「まったく。これの何処が意見なんですか。えーと、次はこれですね」
『意見:九角道場のプリンが食べたい』
「ってまた会長ですね?」
今度は挙げられる前に、僕は言った
「店名書くの忘れたのよ。プリンってだけじゃ何買ってくるかわからないじゃない。キミが」
そういって、会長が僕を指さした。
何故か僕が買いに行く事が前提になっている。
「……ちょっと待って下さい。この大量投入って――まさかとは思いますが全部会長じゃないでしょうね?」
「んなわけないじゃないのよ」
『意見:タマゴプリンが食べたい』
「――って会長じゃないですかやっぱり。しかもプリンてみんな牛乳とタマゴでしょう? わざわざタマゴって外出しする意味がわからない」
「なにバカなこといってるのよ。トンカツだって豚なのに外に出てるじゃないのよ」
「それに合わせるなら『豚トンカツ』でしょう?」
「ええ――だから、よ」
そこで会長は急に声のトーンを一段下げて、神妙な顔つきで言った。
「つまり、タマゴプリンってあえて言ったのは、そこに意味があるのかもしれない……」
「真顔でそんな他人事みたいに言われてもですね」
『意見:プリン……うま……』
「しかも喰ってる……だと?」
★★★★★
「さて、ざっと目を通して……何かわかったことはありますか、会長」
「何かも何も……なんだかなぁって感じねぇ」
お互い一通り目を通し終わったところ、会長からなんとも煮え切らない回答が返ってきた。
それはそうだろう。
意見書の内容を少しだけ抜粋すると――
『意見:保健室が多い』
『意見:保健室が足りない』
『意見:学食が美味しい』
『意見:学食が美味しくない』
『意見:図書室の本が少ない』
『意見:図書室の本が増えすぎ』
『意見:ペンが無くなった』
『意見:ペンが増えた』
『意見:閉校時間が早い』
『意見:閉校時間が遅い』
『意見:授業が多い』
『意見:授業が少ない』
『意見:先生が多い』
『意見:先生が少ない』
※略
――といった具合であり、意見としては的が絞れず、何を主張したいのかも曖昧なものばかり。会長の『なんだかなぁ』という感想も、まあ当然だ。
「まあ、とりあえずこういった場合、ほらあれよ。まったくよくある手ってヤツだわ」
「ほほう、よくある手ですか」
どのあたりが良くある手なのか判らないが、期待しないで聞いてみる事にした。それもワトソンの役目だろう。
しかし、彼女の放った言葉は期待云々どころか、まったく予想外のものだった。
「そう、つまり犯人はこいつよ――入ってらっしゃい!」
「えっ」
会長は唐突に立ち上がると入り口に向けて、そんな大声を放ったのだ。
そして、そのままニヤリと僕を見た。
「いい?……悠斗くんがこの事件を私に持ちかけた時間から逆算したのよ。事件の種明かしから犯人の独白タイムもろもろを下校時間までに完了させる事を考えると――その入口にもう犯人がスタンバっていないとおかしいってね」
しん……と静まり返った生徒会室。
生徒会室の扉は、微動だに、しない。
しかし、会長は未だ勝ち誇ったような笑みを浮かべて更に続けた。
「勿論それだけじゃないわ? 生徒会室って悠斗くんも知っての通り秘匿性が高いの。簡単に音が漏れたら困ることもあるわけだし。ということは廊下には私達の会話の内容までは聞こえていない……」
「成る程、言いたい事がわかった気がしますが続けてください」
会長はおおげさに身振りを加え、まるで舞台の上にでも立っているようだった。
「つまりそこに佇む犯人はね、私が謎解きをして声をかけたのか、はたまたそうでないのか、まったく判別がつかないって事。――いや、むしろ声をかけられた以上、もう種明かしは済んでいざ自分の出番と思っているハズ。何せ、ここに犯人である自分がいるという事実を指摘されている以上、全て白日のもとに晒された、と考えるはずなのよ。何ていう名推理、何という名探偵! さあさあ――どうぞその扉を開けてお入りなさいな真犯人っ!」
会長は勢いよく立ち上がり、扉の方へ手を差し伸べる。まるで舞台の上で観客を迎える女優のように。
「――成る程」
そう言ってから僕は賞賛を示す拍手を彼女に送った。
「そのような異次元的解決方法、僕は見た事も聞いたこともありませんでした。まったく不勉強で申し訳ないのですが、何処のあたりが、その……よくある手なのか教えて欲しいのですが」
「良いのよ。人生は知らないことで溢れてるんだから。さて――そろそろ良いでしょう? なかなか入ってこないわね、何やってるのかしら?」
聞こえてないのかしら?と会長は首を傾げた。
都合の悪い事を無視出来る機能は探偵役よりむしろ犯人にむいているのではなかろうか、と僕は思った。
僕はため息混じりに言った。
「いいですか――何やってるも何も、廊下に犯人なんているわけないでしょう。これは僕の仕込みでも何でもない。そもそも、その犯人を探そうという話をしている訳ですから」
「だから、犯人を推理したじゃないのよ」
「それは推理でもなんでもありません。ただ犯人を教えてくださいって言っているだけです」
集まりましたね、さあ犯人は名乗り出なさい、というようなもの。
方程式を使わないで書いた数学の回答とでも言うべきか。それは答えが正解であっても正解ではない。
いや、今は答えすら書いていないといった方が良いか。
僕は首を振りながら言った。
「――兎に角、入り口に犯人はいません。それに僕、『後五分ぐらいで番組が終わるからコイツで決まりだな』とか『Aパートだからまだだな』とか尺で判断するのって嫌いなんですよ。」
「ふん、まあいいわ、じゃあ次はこれね」
会長は、今度は露骨に『メンドクサッ』と顔に書いてあるような表情をして、意見書をひとつ手に取った。
この切替の速さがまったく会長らしい。
その意見書は『意見:先生が少ない』と書かれたものだった。
「これは?」
「新犯人よ。先生は……消されたのよ」
犯人に新旧があるとは知らなかった。今日は色々な発見がある。
「新しい犯人って、それじゃあ旧犯人の方は冤罪ではないですか。というより事件が変わってやしませんか? そもそも先生は減ってないし、それは生徒会ではなく警察の出番です」
というより、意見書を書いている場合じゃないだろう。
「これもだめ?――ならそうね、意見書全部の頭文字を縦読みしたら、メッセージが出てくるってのはどう?」
「成る程、何かあてずっぽう的ですが、先程の会長が言った『扉の向こうに犯人』よりも余程正しく良くある手ですね。ところで、何処を縦読みしますか?」
「何言ってるのよ、頭文字なのだから勿論一番最初でしょう? さあ、ホワイトボードに羅列してみましょう」
僕は会長の言われるままにペンをとり、ホワイトボードの前に立つと、言った。
「聞きますが、一番最初の文字ですか?」
「そうよ、きっとリンゴしか食べない類の言葉が出てくるはずよ」
僕はもう一度問いかける。
「一番最初、ですよね?」
「クドいわね、縦読みと言ったら頭文字でしょ?」
僕はそんな決まりがあるとは知らなかったが、縦読みを仕込んだ所で気付かれないと無意味だろし、そういった意味から判りやすくする必要は確かにあるだろう。しかし、今回の場合それは当てはまりそうにない。
「……『意見』の意が大量に並ぶ事になるだけですが、本当に書きますか?」
意見書の冒頭は『意見』から書くのが決まりだからだ。意を幾ら並べた所で意味はないだろう。
会長は首を傾げながら言った。
「……『意の三百』とか、並べたら呪いになったりしない? ほら、知らない間に、死ぬとか」
「その類には詳しくないですが、少なくとも調べるだけ無駄なことは判ります。――さて」
僕は場を仕切り直すべく切り出した。
「会長、もう一度冷静に考えてみましょう。この意見大量投入――これは現実に起きた事象です。ゆえに、トリックを中心に考えるのは適切とは言えません。」
僕はホワイトボードに、大きく“何故?”と記しながら、淡々と続ける。
「そもそも我々の生活は、多くの人間の行動の積み重ねによって構成されています。言い換えれば、それは個々の行動が累積した、結果の上塗りのようなものです。
そのような日常の中に、複雑なロジックを用いた人為的なトリックなど、現実にはまず成立しないと考えるべきでしょう。仮に存在したとしても、それは異物として容易に目立ち、結果として破綻する可能性が高い。
それに案外、人間というものは、そういった面倒な策に時間を割けるほど余裕があるわけではないのですよ」
僕は一息ついて、会長を見た。
「つまり――焦点は“何故”この事件が起こったのか。その一点です。意見書を一通り見て、他に気づいたことはありませんか? 何でも構いません」
「何かも何も……とりあえず犯人が相当几帳面だって事はわかったわ」
会長が呆れ顔で言った。
「どうしてそう思うのです?」
そういった感覚は大事だと思うので聞いてみた。
「そもそもね、こんな大量に投函しておきながら、書式に不備は一つもないのよ。名前も全部、個別にきっちり書き込んであるし。
意見も、それぞれちゃんと書き分けてる。一人あたり二枚、相反する意見を出して、数を稼いでる感じだけど――これ、三百よ? ざっと百五十人分」
「名前のいくつかを名簿で確認しましたが、全員実在しています。架空の生徒名じゃありませんね。まあ、全部確認する必要はないでしょう」
学生名簿には所属クラスと名前くらいしか書かれていない。そこから得られる情報は限られている。
だから、すべてを照らし合わせる必要もない。
会長の情報を僕はホワイトボードに書き足していく。
「そんなもん見なくたって全生徒の名前くらい覚えてるわよ――しかし手書きじゃないにしたって、まあよくやるわホント。きっちり几帳面に書式通りにこんな意味のない物を――
ていうか完璧主義なのかしら?」
僕はその会長の言葉に疑問を呈する。
「だとして、その意図はどこにあるのでしょう?これほど丁寧に書いておきながら、そこに伝えたい意図が見えない。完璧主義にしては、こだわるべき目的の焦点がわかりません。」
「うーん、そうねえ……」
会長は、考え込むような仕草で、言葉を探す。
「主張のない意見ってのは……名前を騙った相手への配慮かしら。例えばさ、『悠斗が憎い、憎い、憎い』なんて書いてあったら、それこそ事件じゃない?」
名前が記載されている以上、無視できないことになる。内容次第では、騒ぎになるかもしれない。
例はともかく、書いた側にそんな心理が働いた。だから、当たり障りのない意見ばかりになった――というのが、会長の見立てらしい。
「そういうことよ。そのくらいは理解できる人物が、犯人なのよ。狡猾ね。」
「成る程成る程。――しかし、それはどうでしょうか」
「なによ?」
会長は不満げな表情を見せたが、僕の言葉を待っているようだった。
「それが理解できる人物であればこそ、わざわざ名前を書く必要はないと思いますが。名前に配慮するくらいなのであれば、名前を書かなければ良いのです」
「学園指定フォーマットには名前はゼッタイじゃない?」
「まあ、そこを几帳面尺度で捉えて許容できない、という見方も出来なくはないですが――それは几帳面というか強迫観念に近いですが――。
仮にそうだとしても指定フォーマットルールを破りたくなくて名前を書くという選択をするくらい、意見そのものについては意味が無いのだと捉える方が自然です、または意味のない内容である必要があったのか、ですね」
「だとしてよ? 意味がない内容を投函する意味って何よ? 嫌がらせ?」
会長は当然の疑問を投げかける。
「ああ、嫌がらせの線は無いでしょう。犯人側の負担が多い割に、受け手の我々への効果は無いに等しい。僕らは最悪集まってくるものを捨てるだけで良いのですから。
それに内容に意味がなくとも、投函という行動を行った以上それに意味はあるのでしょう。ゴミ箱と間違ったわけでもなさそうです」
僕はホワイトボードに加筆しながら言った。
「何故これほどの『数』の『記名入り』の『意味のない意見』が『投函された』のか?――如何でしょう」
「悠斗くん……貴方、何かもう判ってるのね? 悔しいわね」
会長はため息混じりにそういったが、会長が思うほど僕も全てがわかっているわけではない。
会長の閃きを通じ、そしてこうやって放しながら自分の頭を整理しているだけに過ぎないのだ。
「とんでもない。あくまで僕は会長のワトソンですから。会長の閃きをまとめ上げるだけの単なるお手伝い――なので、もう少し手伝いましょうか……こんな言葉を聞いたことありませんか」
なので、僕は言った。彼女の閃きを邪魔しないように、そして僕が思い描くこの事件の基本的な形を。
「賢い人は木の葉をどこへ隠す? 森の中だ。ただし森がない時は――」
会長はあっと何かに気付いた顔をして言った。
「――自分で森を作る、か。つまるところこの数は犯人が作り上げた森……犯人は何をかを隠したかったって事なのね?」
「それは数で隠しきれるものでしょうか?」
「それはムリね、足りないわ。少なくとも数以外に要素が必要……既に隠したい意見が投函されているとしたら、ダミーもキチンとその書式に合わせて書かれたものではないと……隠しきれないわ」
「では、名前を書いたのはその為?」
「まあ、今の所他の理由は思いつかないわね」
「意味のない意見の数々も、その書式に合わせる為でしょうか?」
会長は今までの回答とは異なり、少しばかり慎重そうに言った。
「そうなのかしら――そう、隠したいモノ次第だろうけど……」
会長は、そういって意見書を見渡す。
「隠したいもの……書式合わせ……葉っぱを森に――ああ! そうね、これを隠したかったのね。他の意見とは毛色がちょっと違うと思ったのよ。主語が人だもの――
ああ、だから、相反する内容が並んだってわけね」
そして会長は今日一番の晴れやかな声で言った。
「犯人は判らないけど、何を――は判ったわ! 何故これほどの『数』の『記名入り』の『意味のない意見』が『投函された』のか? ここから探ればわかりそうってことが」
「素晴らしい」
僕は心の底から拍手を送った。そして、ワトソンとしてここでやる事はただ一つだ。
だが――
「ではお伺いしましょう、名探偵――という前に」
――せっかくなのでちょっと遊んでみることにした。
これは探偵小説でもないし、ここは探偵事務所でもない、ただの生徒会室なのだからこのくらいの遊びは当然許されるべきだろう。
「お互いその発端たる意見を指で差し合いませんか? この事件の発端、隠したかったそのキーワードです――せーの、で行きますよ? せーの!」
そう言って、僕たちはそれぞれ、互いに――そう互いに一つの意見書を指し示した。
僕は『意見:ペンが無くなった』を。
彼女は『意見:ペンが増えた』を。
「「えっ?」」
――後編へつづく