頑張る理由
頑張る理由
「ただいま」
「お帰りなさい」
「兄ちゃんおかえり〜」
弟が玄関まで出迎えてくれる。
「早かったわね」
「早く解散になってさ」
「今日は食べてくるって聞いてたから創の夜ご飯作ってないけど、食べてきた?」
「うん。食べたよ」
母親に悟られないように嘘をつく。実際はカラオケでのクラス会を途中で帰ってきたから、お腹は空いている。しかし、心配させたくないので嘘をつく。
「早くお線香あげに行きなさい」
「うんわかった」
日課である。数年前に亡くなった父さんの仏壇に毎日線香をあげる。
線香に火を付け、手を合わせながら目を閉じる。
父さん、元気ですか?僕は毎日なんとか頑張ってます。今日は辛いことあったけど、母さんたちに心配かけたくないから嘘ついちゃったよ。こんな時父さんがいてくれたら相談とか出来たのかな?
毎日その日あったことを、父さんに報告するように線香をあげる。この瞬間だけは弱音を吐ける。
さてと、家事でもするか。
膝に手をつき立ちあがろうとすると、
「兄ちゃーん。カラオケって楽しいの?」
弟の造が抱きついてくる。
「うん。楽しいよ」
弟の頭を撫でながら無理に笑みを作りそう答える。
「今度僕も行きたーい」
「お前の体調が良い時ならな」
「ほら今日は安静にするために寝とけよ」
「はーーい」
弟を部屋まで送り、台所へ行き溜まっている食器を洗う。母もリビングで仕事をしているようだ
「創、あなた新しい高校はどうなの?」
「うん。楽しいよ。友達も出来たし」
心配させたくない。馴染めてないことなんて言う必要がない。
「あなた人見知りだから誰も知らない高校じゃ不安だったけど楽しそうで良かったわ」
「……誰も知らない方が良かったんだよ」
「何か言った?」
「ううん。なんでもない」
「せっかく特待生で入学出来たんだから頑張りなさいよ」
「うん」
俺は特待生として入学したので学費は免除されている。特待生でなきゃ、私立の県外の高校なんて進学できるはずが無い。
「そういえば、綾香ちゃんも同じ高校なんだってね」
「どこでそれを、、、」
「あんな有名な子だもの。噂回ってくるのよ」
「そうだよね、、、」
「幼馴染で高校まで同じって中々いないわよ。大事にしなさい。」
母さんは僕らの壊れ切った関係を知らないはずだ。だが、「大事にしなさい」という言葉が僕の心に響いた。
「兄ちゃん起きて起きて遅刻するよ」
「ふぁ〜。もう少し寝かせてくれ」
「遅刻するよー。バス乗り遅れるよー」
「やべっ」
飛び起き、時間を見る。まだ大丈夫だ。急いで支度すれば間に合う。
「ありがとな、造」
「えへへー。僕偉いでしょ」
造の頭を撫でながら、急いで支度をする。
「創、朝ごはん食べる?」
「間に合わなさそうだから大丈夫」
バスの時間まであと10分。バス停までは5分で着くから、あと5分で支度しないといけない。
「行ってきまーす」
「気をつけるのよ」
急いで準備して家をでる。このバスを逃すと確実に遅刻する。だから寝坊は絶対ダメだ。
バス到着の少し前にバス停に着いた。ギリギリセーフ
登校手段として、バスに1時間乗って学校に行くか、1時間歩いて30分電車に乗るかのどちらかだ。遊びに行って夜遅い日は電車に乗り、駅から歩いて帰宅している。
こんな遠くから登校してるのは俺くらいだろう。都心にある高校に通うためには仕方ない。
俺の希望で県外で進学した。家族の負担になるからと寮に入ることを望んだが、母と弟は引っ越ししてまで着いてきてくれた。裕福では無いので、都心には暮らせない。父方の親戚が田舎で使ってなかった、一軒家を安く貸してくれるというので今はそこに住んでいる。
「だから、どんなことがあっても学校辞めるわけにはいかないんだよなぁ」
ため息混じりにそう呟く。どんなことがあっても辞めることは出来ないのだ。この学校で頑張って良い大学に入る。そして、良い仕事について家族に恩返しをする。
別に学校が楽しくなくてもいい。勉強さえ最低限頑張ろう。そんなことを思いながら、正門をくぐる。
高校が始まってから1番憂鬱だ。あのクラス会の後の登校だ。気が重い。
教室の扉を開ける。扉を開ける前まで楽しそうな声で賑わっていた教室が俺が入った瞬間一気に静まりかえる。
やっぱりこうなるよな。寝たフリでもしてよう。
席に座るとすぐ突っ伏した。寝たフリのつもりだったが寝不足のせいで本当に眠い。HR始まるまで寝よう。そう思いながら、目を閉じた。
ヤベッ。
起きると教室には誰もいない。時間を見ると1時限目はまだ始まってない。そうか、HRは終わったか。次の授業は体育なので、教室には誰もいない。
「わっ」
「!!!」
びっくりした。急に後ろから掴まれ、驚いてしまった。
「なんだ。愛か」
「なんだとは何よ。驚きすぎて声出てなかったじゃない」
「お前の幼稚な行動に言葉出なかった、だ、け、だ」
「強調しなくていいのよ。それより、あんたずっと寝てるから心配してたのよ。」
「いや寝不足なだけだ。」
「それならいいけど、、、」
愛と普通に喋るだけでも緊張する。あの時俺に幻滅して話しかけてくれないと思っていたからである。
「あんたね〜。昨日途中で帰ったでしょ?あの後空気大変だったんだから」
「ごめん」
「謝ることではないわよ」
「愛は変わらず話してくれるんだな」
「正直過去のあんたをあんまり知らないし、高校の創しか知らないからね」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんよ。今の創は私にとって大切なら友達だから関係変わることなんてないわよ」
「………ありがとう」
「泣いちゃう?泣いちゃう?」
「からかうんじゃねーよ」
やっぱり愛は優しい。こんな良い友達を持って幸せだ。いやもしかしたら、俺の中で愛は友達以上の存在になってるのかもな
モチベに繋がるので評価同じします!