奪われ愛
「…………またあの2人イチャイチャしてる」
「綾香、顔怖いよ〜」
「だってだってだってさぁ」
あんなに毎日楽しそうにしているのを見ると顔が怖くなるのは当然だ。
「流石にイチャつきすぎじゃない?」
「うーん。普通に仲良い先輩後輩にしか見えないよ」
「そうかなぁ?」
ここ数週間、あの女の子は毎日のように私たちのクラスに来て創君と楽しそうに話している。
あの子の情報についてもいろいろわかったことがある。名前は二葉 叶。年齢は13歳で私たちの1個下の学年だ。だから、あんなに可愛いのに見覚えが無かったんだ。
そして、何より可愛い。本当に可愛い。童顔で目がパッチリしていて、顔が小さい。アニメの典型的なロリキャラを具現化したようなそんな見た目だ。
あの子に懐かれて嫌な男子は存在しないだろう。
「確かに、あの子は綾香と違った可愛さ持ってるよね〜」
「…………」
「彼氏の周りに絶対いて欲しくないタイプだわぁ」
舞の言う通り、あんな子が彼氏の近くにいたら彼女はヒヤヒヤするんだろうな。
私も全く同じ気持ちだ。彼氏じゃないけど、創君とあの子が話しているだけでも胸が痛くなる。
「てか、綾香どうするの?このままだと一ノ瀬とられちゃうよ」
舞は冗談混じりに私に言ってくるけど、私は冗談には聞こえない。
「けど、二葉ってどこかで聞いたことある名字だなぁ」
「あんなに可愛い子だったら、どこかで知ってたんじゃないの?」
「うーん」
私はどうも、聞き覚えのある名前な気がした。
二葉、二葉、二葉、ふたば、ふたば、、、あっ!
「……あの人か」
♢
「綾香はいつも機嫌が悪いね〜」
「あなたと一緒に帰ってますからね」
「今日はいつもより火力高いよ。傷ついちゃう」
今日も苦痛な時間がやってきた。毎日会長と登下校をしないといけないこの時間。何よりも嫌な時間だ。
だが、今日は会長に聞かなければいけないことがある。
「会長、一ついいですか?」
「ん、なんだい?」
「…………二葉 叶ちゃんについてです」
「…………ほぅ」
「どこかで聞き覚えがあると思ったら、あなたの妹だったんですね。」
「………………」
「会長のことを忘れるようにしてたのと、いつも会長と呼んでるので気付くのが遅れましたよ。二葉 明さん。」
「へぇー、やっと気付いたんだね。君にしては遅かったねぇ」
「なんのつもりですか?」
「なんのつもり、とは?」
「あなたの狙いはわかってます。妹を使って創君を私から奪おうとしていますよね?」
「奪うなんて聞き捨てならないなぁ。妹は偶然、彼と仲良くなっただけだろ?」
「嘘は辞めてください」
「そもそも、彼は君のものではない。別に誰と付き合おうと勝手だろ」
「妹さんの意思はどうなってるんですか?好きではないのに付き合うように仕向けるのは人として間違ってますよ」
「ずいぶん勝手なことばかり言うじゃないか。妹は妹自身の意思で行動している。君にとやかく言われる筋合いは無いよ。」
「話はそれだけかい?」
「…………まだあります」
「なんだい?」
「もう、偽装カップルは辞めたいです」
「どうしてだい?」
「…………」
「理由は言えないのか?まぁ察しはつくけどね。一ノ瀬君が僕の妹に取られそうになって焦ってるんだろ?」
「…………」
「沈黙は肯定の証拠だね。君って意外と単細胞なんだね。感情で動くタイプとは思わなかったよ。ま、そこも可愛いけどね」
悔しい、悔しすぎる。全てこの男の手のひらで転がされてる感覚だ。私の行動も読まれてる気がする。
「けど、いいのかい?1年間は付き合う約束だったよね?それを破ると一ノ瀬君が不利になる噂を流しちゃうよ」
「…………それはダメ」
「じゃあ、どうするのか口に出しなさい」
「…………撤回します」
「うーん。ダメだよ。僕に歯向かったんだから、ちゃんとお願いしないと」
「は?」
「今から僕が言うことをそのまま復唱しなさい。これを言うなら許すよ」
彼が発した言葉は私にとって屈辱的なものだった。
「こ、こんなこと、言いたくないわ」
「いや、言いなさい。これは罰だ」
「……くっ…………うぅ……」
絶対にこの男を許さない。そう心に決めた。
「わ、私は会長と…………付き合うことができて……………幸せです。……どうか……このまま…………付き合うことを…………続けて…………下さい」
「途切れ途切れになってるが、そこは仕方ない。君の愛は十分伝わったよ」
殺せ殺せ、自分の感情を殺せ。全ては創君のためだ。
♢
「綾香おはよー」
「おはよう、舞」
「えっ、どうしたの?そんなに目赤くして」
「昨日ちょっと嫌なことあってね、、、」
「大丈夫?」
「もう大丈夫」
今日もいる。会長の妹は今日も創君と楽しそうに話している。彼女は毎日、1時限目が始まるまで創君のところに来ることが定番となっている。
「舞、私行ってくる」
「ちょっと綾香、何するの?」
舞の声には答えず、創君の席へとまっすぐ向かう。
「おはよう」
極めて普通に話しかける
「あ、綾香、おはよう」
「おはようございます」
叶ちゃんは、私をチラリと見て挨拶をしたが、すぐに創君の方を向く。まるで、私には興味が無いかのように。
「2人はどんな話で盛り上がっていたの?」
「どんなって言われても、、、」
創君は困ったように叶ちゃんをみる。
「好きな漫画とかの話です」
「へぇー、私も混ぜてほしいわぁ」
「いえいえ、そんな大した話じゃないので、高梨先輩にお聞かせできないですよぉ」
「そうかしらぁ?」
目には見えないが、おそらく私と叶ちゃんの間には火花が散っていることだろう。
「ま、まぁ綾香も落ち着いて、、、」
「あら、私は落ち着いてるわよ。それより、本題があって話しかけたのよ」
「あ、そうだったのか。どうしたんだ?」
「二葉さんって会長の妹さんだったのね〜。気づかなかったわ〜」
「そうです。兄がいつもお世話になってます。彼女さんですよね?」
「そうだ。綾香は会長と付き合ってるんだった」
仕方ないとは言え、余計なこと言われた。創君の前で付き合ってることあんまり言いたく無いのに、、、
「そ、その話は置いておいて」
「はい」
「一ノ瀬君とずいぶん仲良さそうだけど、、、」
「それがどうかしたんですか?」
「えーと、その、えー」
「別にあなたに関係ないですよね」
「お、おい。そんなに厳しく言わなくても」
創君が叶ちゃんをなだめる。
「はぁー」
叶ちゃんがため息を吐く。
「少し高梨さんと話してきます」
「あ、あぁ」
「ちょっ、どういうことよ」
「いいから、こっち来て下さい」
私は叶ちゃんに廊下へと引っ張られた。
「な、何するのよ」
「こっちのセリフですよ。不自然な絡み方は辞めて下さい」
「ふ、ふしぜんって」
「挙動がおかしいんですよ。そんなに一ノ瀬先輩のことが好きなんですかぁ?」
ニヤニヤした顔で私を覗き込む。
「あ、あなた、そのニヤついた顔、会長とそっくりね」
「流石、彼女ですね。そんなことにも気付いちゃうんだ」
いちいち、イライラする返答だ。
「まぁ、諦めて下さい」
「は?」
「私が一ノ瀬先輩と付き合うんで」
「ど、どういうことよ?」
「あなたが大好きな一ノ瀬先輩を奪っちゃうって話です」
不敵な笑みを浮かべる彼女に私はただ言葉が出なかった




