好きじゃないらしい
「会長と付き合っているのに、勝手に俺から好かれても困るだけだろ。そういうの失礼だと思う」
「あ?」
からかっていた男子が明らかにイライラしている。
「何?どういう意味?」
「そのままの意味だが?会長と付き合っているのに俺が高梨のこと好きとか言うの失礼だろ」
創君は臆することなく話している。
「冗談に決まってるんだろ。お前、まさか会長と同じ立場だと思ってるの?」
「どういうことだ?」
「お前が高梨さんのこと好きでも相手にされるわけないだろ。失礼にすらならない」
「………………」
「ちょっと高梨さんと話せたからって調子乗るんじゃねぇぞ」
「そうだよね〜。一ノ瀬君って勘違いしやすいタイプ?」
その男子の煽るような発言に他のクラスメイトも同調している。
「み、みんな、そこまで言わなくても、、、」
私が必死で場を納めようとするが、ヒートアップしていて聞こえていない様子だ。
「てか、前から思ってたんだけどさぁ」
他の女子が口を開く。
「一ノ瀬君ってさ、協調性ないよね。今も綾香ちゃんがどこのグループにも入れていない一ノ瀬君をせっかく入れてあげたのに綾香ちゃんに失礼な発言するし」
「だよね〜」
「前も綾香ちゃんが話しかけていたのにちゃんと返事していないこともあったよね?」
「え〜、本当に何様って感じね〜」
関係ない話題にまで広がっていく。誰も創君の味方はいない。
創君は黙ったままで、反論すらしなくなった。
「み、みんな落ち着いて。私は何とも思ってないから」
私が必死に擁護するも逆効果のようで、どんどん空気が悪くなる。
私は助けを求めて、舞に目配せをする。
お願い、助けて舞。私だけでは無理だよ。
そんな私の願いが通じたのか舞が口を開いた。
「はいはい、みんな静かにして。喧嘩したいわけではないでしょ?」
舞の言葉にみんなハッとした様子だ。さすが舞。
やっぱり舞はいつでも私の味方だ。
「そ、そうだよ舞の言う通り私は大丈……
「けど、一ノ瀬もはっきり答えないから悪いんだよ。こうなってるのはあんたのせいでもあるからね」
私の言葉を舞が遮る。
えっ?どういうこと?舞は味方じゃないの?
何なの?創君のせいってどういうこと?
舞の想像していなかった攻撃的な発言に私は驚いて声が出なくなった。
そのまま舞は言葉を続ける。
「いつも誰とも関わらない一ノ瀬がいきなり綾香と仲良さそうにしてたら、みんな戸惑うでしょ。当たり前の話よ」
周りが頷く。舞は私を一瞬見てそのまま続ける。
「こんなこと聞くのも野暮だけど、一ノ瀬は綾香のこと好きとかじゃないんだよね?」
何でそんなこと聞くの?
私が1番知りたかったことだけど、みんなの前で聞くのは違くない?
私は舞を睨みつける。けど、そんな私の視線を無視するように舞は言葉を続ける。
「ここではっきり否定した方が誤解生まないと思うよ」
創君が何か考えている様子だ。
いや、こんなことおかしいよ。ていうか、好きだとしてもこんなみんなの前で好きとか言うわけないじゃん。
どういう目的なの?舞の意図が伝わらないよ。
「確かに一理あるな。誤解させてしまったら申し訳ない。別に高梨のことは好きじゃない。さっきは高梨が話しかけてくれたから返していただけだ」
「そりゃそうだよな」
「高梨さんが優しかっただけだよな」
他のメンバーは納得した様子だ。
私は混乱していた。
なんで、こんな話の流れになったの?なんで、みんなの前で創君から好きじゃないとか言われないといけないの?
なんでなんでなんでなんでなんで
舞は私の思いを知ってるよね?
なんで傷つくような言葉を言わせるの?
そこから私は頭が回らなかった。けど、なんとか授業が終わるまで必死に耐えた。
キーンコーンカーンコーン
「ちょっと舞、こっち来て」
急いで舞の手を引っ張って教室の外に連れていく。
「なに、綾香痛いって」
「うるさい。こっち来てよ」
痛がる舞を無理やり引っ張る。
「何、こんな誰もいないところに連れてきて」
「さっきのどういうこと?」
「なにさっきのって?」
「とぼけないで、あんなこと創君に言わせてどう言うつもり?」
「あー、そのことね。それより綾香はまだ私が言わせたって思ってるの?」
「は?なんのこと?」
「だーかーらー、一ノ瀬の好きじゃないって言葉は言わせたって思ってるわけでしょ?」
「当たり前でしょ。あんな感じでみんなの前で聞かれたら、ああやって答えるしかないでしょ」
「いや、あれは一ノ瀬の本心だよ」
「適当なこと言わないで」
「綾香も本当は気付いてるでしょ?」
「………………何のこと」
「私は綾香にわかってもらおうとしただけだよ」
「だから、何のことって聞いてるでしょ」
「一ノ瀬は綾香のこと好きじゃないんだよ」
舞の言葉に呼吸が荒くなる。
うるさいうるさいうるさい。聞こえない聞こえない。聞こえてない。
「綾香も心の奥底では気付いてるでしょ?一ノ瀬が綾香のこと好きじゃないことを」
「…………うるさい」
「目を背向けるのはやめな。最近の綾香は一ノ瀬のことばかり気にしておかしくなってたよ。正常な判断ができてない」
「うるさいって言ってるでしょ!!」
「あなたは一ノ瀬のことになると、周りが見えなくなっている。それも段々と。だから私がわからせてあげたの」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」
「もう一度言うわ。一ノ瀬は綾香のことなんて好きじゃない。友達としか見ていない」
「………………」
「別に私はあなたを傷付けたいわけじゃない」
「じゃあ、どうしてあんなこと言ったの?」
「わかってほしかったの。あなたの行動が一ノ瀬を傷付けてることを」
「どういうこと?」
「さっきみたいに、周りの目を気にしないで一ノ瀬に話したりすることが、一ノ瀬を孤立させてる要因になってるのよ。」
「…………そんなことない」
「そんなことあるのよ。1年生の時も気にせず目立つところで話しかけたりしてたでしょ?」
「…………それは」
「ああいった行動が一ノ瀬に注目を浴びせる原因になってるのよ」
返す言葉がない。確かに舞の言う通りだ。私は浮かれていたのかもしれない。
「あと、どうみても一ノ瀬は綾香のことは好きじゃないのに、勘違いして浮かれてたよね?」
「…………わかんない」
「普通に考えて、他の人と付き合ってる人を好きになるわけないし、好きだったとしても諦めるでしょ」
「………………」
「そんな考えに至らないところが、綾香が周りを見えてない証拠ね」
正論だ。反論できないほどに正論だった。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「別に一ノ瀬を諦めろって言ってるわけじゃない。会長と付き合ってるんだから一旦落ち着いた方がいいだけ」
「けど、創君と仲良くしたいのも本心だよ」
「急すぎるのよ。徐々に仲良くなればいいだけ。綾香は気付いてなかったけど、さっき一ノ瀬と話している時の綾香は普通じゃなかったよ」
「…………そうなの?」
「うん。女の顔してたよ」
恥ずかしくなってくる。舞にはそう見てたってことなんだよね?
「だから、周りのメンバーがみんなこっち見てたのかな?」
「うん、そうだよ」
「言ってくれればよかったのに」
「いや、私が言っても綾香は聞かなかったと思うし、あんな風に一ノ瀬から言われなきゃ気づかないでしょ?」
「だから、創君にあんなこと聞いたの?」
「そうだよ」
確かに最近の私は浮かれていた。創君と同じクラスになれて嬉しかった。
「あなたは普通の女の子じゃないんだから気をつけないといけないんだよ」
「…………分かってる」
「一ノ瀬と付き合うことを周りに認めさせるのは大変だよ」
わかってる、わかってるよ。
けど、もう無理なの。
この想いを諦めるにはあまりにも時間が経っちゃった。
「まぁ、まずは会長をどうにかしないとね」
「え?」
「理由があって会長と付き合ってるんでしょ?一ノ瀬と付き合いたいならどうにかしないと」
「わかってる」
やっぱり、どうにかしないといけないよね、、、




