一生頑張れる
「綾香〜、やっと卒業だね。中学でも仲良くしてね」
「舞こそ、ずっと友だちだからね」
今日はついに卒業式。同じ中学に行く子もいるけど、別の中学に行く子も多いので、会えなくなる子もいる。さみしく感じるなぁ。
卒業式が終わったら、みんな卒業アルバムにメッセージ書いたり、写真をとったりしている。
「綾香、そろそろあいつ探さないと」
あいつとは、はじめ君のことだ。
最後にはじめ君に謝りたい。そして、仲直りしたいと伝えることは舞にも話している。
「はじめ君、どこかなぁ?」
「あっ、いたよ」
舞が指差した先に、周りがさわがしくしている中1人で帰ろうとしているはじめ君がいた。
胸の高鳴りが止まらない。
これで、ダメだったらはじめ君のことは諦めよう。諦めて陰からはじめ君の幸せを願うだけにする。
けど、はじめ君の人生にまた私が関わってもいいなら、今度こそ失敗しないように大切にしたい。
「はじめ君。久しぶりだね」
私が声をかけるとはじめ君は振り返ってくれた。
「何?なんか用?」
はじめ君の目は冷たい。
「私のこと覚えてる?」
「……………………」
無視されてる、、、けど、
「はじめ君、まずはごめんなさい。あの時からずっと私、はじめ君に嫌な思いばかりさせてるよね。本当に謝りたかったの。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
私は深く頭を下げた。
「顔上げろよ」
「えっ?」
「言いたいことはそれだけか?」
まだある。仲直りしたい。また仲良くしてほしい
「私とまた仲良くして欲しいです。悪いところはなんでも直します。はじめ君が言ったことならなんでもします。」
涙がこぼれながら必死に伝える。
「お前に悪いところなんて一つもねぇよ。けど仲良くする気はない」
なんで、なんでなの、なんでダメなの?
「私さ毎日後悔するんだ。遊んでたあの時思い出して毎日泣いて、けど楽しかったとき思い出して毎日元気出してるの。仲良くしてとは言わない。少しでいいからまた話せるようになりたいの」
「俺は一切関わりたくない。俺の前から消えてくれ」
はじめ君の人生に私は必要ないんだね。
「………わかった。本当に今までごめんね。そしてありがとう。私ははじめ君と仲良くなれて本当にうれしかった。思い出は一生大切にするから。…………バイバイ」
はじめ君は帰って行った。
全て終わった。私の恋はここで終わった。
一生好きな人で、一生大切な人。
どうか、どうかはじめ君が幸せになりますように。
私にとっての幸せははじめ君が幸せになることだから
「綾香、どうだった?」
「ダメだった」
舞の顔を見ると、涙が止まらない。
「がんばったね。がんばったね」
舞も泣いている。2人で抱き合いながら泣いた
「大丈夫。あんたが幸せになってあいつ見返すくらいにならなきゃね」
「………………」
舞はいつも私の味方だ。
ずっと私を支えてくれている大切な人。
今日は中学校の入学式だ。私たちの小学校から入学する子は意外と少ない。学区によって決められているが、私の住んでいるところから私が入学する中学に行く子はあんまりいない。
けど、舞とは一緒だから、気持ちは楽だ。昔に比べて、私も人と話すことは好きになったので、心配より楽しみという気持ちの方が大きい。
創君とも一緒なんだよね。もちろん、私から話しかけたりすることない。関わることはないだろうけど、やっぱりうれしいな。けど、同じクラスだったらきまずいから、違うクラスだといいなぁ。いや、合法的(?)に創君を見ることが出来るから、同じクラスの方がいい?
いやいやいや、私が同じクラスだったら、創君は嫌な思いするだろうし、やっぱり違うクラスがいいよね
「綾香行くわよ〜」
入学式の前にお母さんが寄るところがあるから、ちょっと早めに出ることになっている。
「お母さんどこ行くの?」
「ふふふ。それは着いてからのお楽しみ」
どこに行こうとしているかは分からないけど、嫌な予感するなぁ
「はい、着いたわよ」
お母さんに連れて来られた場所は、昔創君とよく遊んでた公園だ。
「ここ、、、なんでここに連れてきたの?」
「あなたが元気無いからプレゼントあげようと思って」
プレゼント?なんのことだろう。
「ほら、あっち見なさい。おーい」
お母さんが声をかけた先には、創君と創君のお母さんがいた。
「えっ、お母さん、ど、ど、どういうこと?」
私たちが来たことに創君もおどろいた様子だった。創君は創君のお母さんに何か言っている。
「せっかく、同じ中学校に行くから、この公園で記念撮影でもしようかと思ってね」
お母さんがうれしそうに話している。
「創君のお母さんに頼んだら、創君のお母さんも同じ考えだったのよ」
創君のお母さんに会うのは久しぶりだ。あの水族館以来かもしれない。
「綾香ちゃん、こんにちは」
「こ、こ、こんにちは」
私に優しい笑顔を見せてくれた。
「ほら、創も挨拶しなさい。」
そう言われても、創君は黙ったままだ。
「もう、この子ったら。反抗期でごめんね〜」
反抗期じゃなくて、私のこと嫌いなだけだと思うけど
「せっかくだから、2人の制服姿で写真撮りたいと思ってねぇ。綾香ちゃんも本当に可愛くなって〜」
「あ、あ、ありがとうごさいます」
創君は私のことは一切見ない。おそらく、創君はお母さんには私と仲悪いなんて話していないんだろうな
「じゃあ2人で撮りましょ」
流石に創君も、観念したのか写真に応じようとしている。
私は緊張して、頭が真っ白だ。
「もう少し2人くっ付いて。創が近づきなさい」
お母さんには逆らえないのか、創君は素直に私に近づく。
こんなに近いの、小学3年生以来だよぉ。創君のにおいがする。近くで見る創君はやっぱりカッコいい。
「じゃあハイチーズ」
パシャ
写真を何枚か撮ってもらった。夢のような時間だ。
「じゃあ俺は入学式行くから」
そう言い、創君は去って行った。
「ちょっと創。待ちなさい。綾香ちゃんごめんね〜。また創と遊んであげてね〜」
「は、はい」
ごめんなさい、創君のお母さん。遊ぶことはないです。けど、創君の迷惑にならないようにはするので、安心してください。
「私たちも入学式向かいましょう」
「お母さん。本当にありがとう」
「なんのこと?」
「一生の思い出に残る写真だったよ。一生大切にするから。」
「フフ、これからも2人の写真が更新できるようになるといいわね。」
「うん」
一生2人で写真撮るなんてことはないと思うけど、、
その日の入学式を終えて、家に帰ってきた私は、母から送られて来た今朝の写真を見てニヤニヤしていた
「こんなこと、こんなとこ起きるなんて奇跡だよ。この写真だけで、一生頑張れるよ」
無表情の創君と緊張しながらも笑顔の私が写った写真を見ながら、あの頃の楽しかった日々を思い出す。




