プロローグ
「お願いだから……教科書をびしょびしょにするのは
辞めてください」
そんな悲痛なお願いも彼らには届かない
「うるせぇな。貸せよオラ」
無慈悲に取り上げられた教科書はトイレの
便器に投げ込まれる。
今日もまた乾かさないとな
「もう気が済んだだろ?早くどこかに行ってくれ」
投げやりに吐いた言葉に彼らはさらに激昂する。
「口ごたえするんじゃねぇよ。………………オラッ」
助走をつけ俺の胸にドロップキックが飛んできた
「くはっ。ハァハァハァ、シヌッシヌッ」
「なにこいつこれくらいで伸びてるの笑」
クラスの男子どもが僕を嘲笑う
朦朧とする意識の中で、男子トイレの入り口で腕を組みこっちをじっと見つめる幼馴染と目が合った。
クソ。全部あいつのせいだ。あいつさえいなければ……あいつさえ…………いなければ…………
そんなことを思いながら気を失った。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
チャイムの音が遠くから聞こえてくる。
ハッッ
トイレの個室で目を覚ます。あれからどれくらい時間経ったのかわからない。スマホで時間を確認しよう。
あれスマホどこだ。確かポケットに入れたはず
ポケットを弄るがスマホは見当たらない
「はい。これ一ノ瀬君のスマホでしょ?」
後ろから声をかけられる。聞き覚えのある声だ。
間違いが無ければ世界で一番嫌い な奴の声だ。
振り返ると俺のスマホを差し出している。
こいつには礼も言いたくない。
黙ってスマホを取ろう、、
だが、いくら力を入れてもこいつの手から
スマホを取ることができない。
「早く離せよっ」
強い言い方をしても、こいつの笑顔は崩れない
「ん?拾ってあげたんだから、感謝されることはあれど文句言われることはないと思うけど?」
澄んだ綺麗な目でまっすぐ俺を見てるこいつの名前は、高梨 綾香 俺の幼馴染だ。
「てかさーこんな美人を邪険にするの一ノ瀬君くらいしかいないよー。一ノ瀬君の愛のお言葉聞きたいな」
どうでもいい。早くこいつから離れたい。
一刻も早くこいつと一緒の空間から抜け出したい。
さっさと礼でも言って返してもらおう。
「…………アリガトゴザ……マ……」
「何〜全然聞こえないよ。
お礼はちゃんと言おうね〜」
甘ったるい声が癇に障る
言えばいいんだろ、言えば。
「拾ってくれてありがとうございます
…………これでいいか?」
ピッ
「録音完了〜。一ノ瀬君の私に向けた愛のありがとうシリーズ34個目ね〜。はいスマホは返すよ」
やっとスマホが返された。しかし、画面を付けると見覚えの無い待受けに変わっていた
「おいっ。なんだこの写真は!!
人のスマホ勝手にいじるんじゃねぇよ」
「え〜その写真気に入ってるにのに〜。
一ノ瀬君と私のツーショット2人とも笑顔の写真って
少ないからさ〜」
クソッ。スマホのロックをしていない俺もバカだ
ん?よく見たらこの画像、中二の体育祭の時に撮ってもらった写真じゃねぇか。綾香がどうしてもと言うから仕方なく撮った写真だ。
…………いやいやそんなことより、、
「もう俺に構わないでくれ。俺はお前と話したくないんだ。」
「……………………なんでそんなこと言うの」
女子が発したとは思えない低い声が聞こえた。思わず顔を上げると今にも泣き出しそうな顔で綾香が俺を見てる
「なんでって…………そんなの当たり前だろ」
ふざけんなよ。俺がいじめられてるのもお前のせいだろ。お前のせいで俺はいじめられている。
お前がそんな顔していい権利はないはずだ。
「もう辞めにしないか?俺もお前に関わらないの約束するからいじめを止めてくれないか?お前の一声でいじめは終わるはずだ」
綾香はクラスの中心だ。男子も女子も綾香を中心に動いている。言わばクラスの女王である綾香がいじめを辞めるように行動すればいじめは終わる
「そうだね。私がいじめを辞めるように言えば一ノ瀬君に対するいじめは終わる。…………………………けど私になんのメリットがあるの?」
「お前は幼馴染がいじめられてる状況でもメリットが無いと動いてくれないのか?」
「当たり前でしょ。私のこと嫌ってる一ノ瀬君を無条件に助けても見返りがないじゃない。」
それはそうだ。こいつがいじめを辞めさせるように動いても、こいつに対する嫌悪感は収まらない。
だが、こんな現状を変えるためだ。一応聞いておく
「…………例えばどんな見返りが欲しいんだ?」
「…………………………………………」
沈黙が続く。謎に顔を赤くする綾香。意を決したように口を開く
「私のモノになって」
は??何を言ってるのかよくわからない
「…………どういう意味」
振り絞った声で綾香に尋ねる
「そのままの意味だけど……」
「いや意味わかんないから」
「わかりやすく言うと、私と付き合って」
は?意味がわからない。
いろんな感情がごちゃ混ぜになっている。
しかし、よく考えろ。こいつと付き合うことで
このいじめが終わるならそれでもいいのか??
現実から逃げたい一心でそんな思いに傾く。
いやいやいや、やっぱり無しだ。
こんな奴と付き合ったら一生離れられない。
「お前と付き合うのは無理だ」
「そうね。まだ時期じゃないかもね。」
こいつはなんなんだ。何がしたいんだ?
「お前は何が目的なんだ。一緒の高校にまで来て何がしたいんだ?」
「目的?そんなの一つに決まってるわ」
なんなんだこいつ。
なぜ、こんなにも自信満々なんだ
「最終的にあなたと一生を添い遂げる。そのためなら過程なんてどうでもいいの。」
言ってる意味がわからない。
「そこに愛は無くてもか?」
「愛なんて後から付くものよ」
そう言い綾香は帰って行った
「俺も帰るか、、、」
帰りの道中物思いに耽る
くそ、どこからおかしくなった?どこから俺の人生は狂った?あいつと知り合った幼稚園時代か?あいつと結婚の約束をした小2の頃か?あいつと話さなくなった小学校の高学年か?明確には覚えていない。だが、分かりやすく運命が狂った瞬間は覚えている。4ヶ月前の卒業式だ。あの告白から俺「一ノ瀬 創」の運命は最悪な方向に向かっていった。
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